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THE WORLD  作者: SEASONS
4月18日
920/1056

ここからが本番

《サイド:北条真哉》



…ちっ!!



敵が多すぎる!



翔子のアルテマのおかげで一気にアストリア軍を壊滅寸前まで追い詰めたってのに。


どこから駆けつけてきてるのか知らねえが、

次から次へと増援部隊が現れて、

急激にアストリア軍が増えやがった。



…きりがねえにも程があるだろ!!



理事長と護衛部隊は増援部隊の対応に向かって行ったが。


そのせいで元々ここにいた正規軍の残存部隊を俺と翔子の二人だけで相手をすることになっちまってる。



…そのうえ。



間が悪いことに突然発生した地震のせいで、

理事長を守っていた護衛部隊の魔術が中断したらしい。



そしてそのまま魔術が中断した隙をアストリアの増援部隊に攻め込まれてしまったようだ。



その結果として。



理事長の護衛部隊は抵抗する間もなく壊滅。



おそらく残っているのは半数以下だろう。



このままだと敗北は確定だ。



…とは言え。



問題は護衛部隊だけじゃねえ。



戦場を襲う地震と鳴り止まない地響き。



その異変に驚いて足を止めた瞬間に。


俺もアストリア軍の攻撃を受けて負傷してしまったことだ。



「ぐああ…っ!?」



左腕が斬られた。


二の腕が、ばっくりと切られている。


幸いにも骨までは届かなかったようだが、

出血はかなり酷いな。



痛みは我慢できるが、力が上手く入らねえ。



回復魔術は得意じゃねえが、

すぐに止血しねえと危険な怪我だ。



それが分かっていても。


のんびりと魔術を詠唱してる暇もねえ状況だった。



「ち…っ!油断したか!」



地震で身動きが取れなかった直後を弓矢で狙われてしまい。



必死に逃げた先での一太刀だ。



左腕だけで済んだだけまだマシかもしれねえな。



それでも足を止めてしまった俺を狙って、

周囲の兵士達が一斉に襲い掛かってきている。



ここを凌げるかどうかは文字通り運次第か?



「今だ!!攻め込め!!!」


「「「「「うおおおおおおおっ!!!!」」」」」



…ちっ!



うっとうしい奴らだな。



倒しても倒してもキリがねえ!



次々に襲い掛かってくる兵士達に向けてラングリッサーを構えてみるが、

どうやらすでに俺の魔力は底を尽きかけているらしい。



「ソニックブーム!!!」



魔術を発動しようとしたが、

必要な魔力が足りなかったんだろう。


魔術は発動しなかった。



「くそっ!ボルガノン!!!」



魔術を切り替えて叫んでみたが、

ボルガノンさえも発動しねえ。



…この状況はもうダメだな。



魔術による攻撃はもうできねえってことだ。



「…ちっ!」



何度も舌打ちをしながら、気力で槍を振り回す。



魔術が使えねえなら、

物理攻撃に頼るしかねえだろ?



重量を感じないおかげで体力的にはまだ戦える。



それにルーンが壊れることはねえ。



力任せに振り回しても痛い思いをするのは兵士達だけだ。



遠慮はいらねえ。


一人また一人と兵士を切り倒していく。



ラングリッサーの刃の鋭さは一級品だ。


そんじょそこらの刃物なんかじゃ太刀打ち出来るはずがねえ。



触れれば一刀両断。


それが俺の槍の最大の長所だ。



…とは、言ってもな。



訓練を受けた正規の軍隊相手に、

槍一本では勝ち目はねえらしい。



俺の攻撃の合間をぬって接近してくる兵士達の攻撃が俺の体を次々とかすめてしまう。



一撃ごとの怪我はかすり傷程度でも数が重なると厄介だ。



嫌でも体の動きが鈍っていきやがる。



そのせいで…って言うのは言い訳か?



悔しいが俺一人の力で軍隊を抑えるのは無理だったってことだろうな。



せめて魔術が使えれば…って思うのも言い訳か。



せめて治療さえ間に合えば戦い続けられるんだが、

徐々に低下していく体力は確実に体の動きを鈍らせていく。



その結果として。



油断でもなんでもなく、

兵士達の攻撃に対して回避が間に合わなくなっちまった。



「ぐあああ…っ!?」



背後から斬られたと理解した時にはすでに手遅れだった。



体が動きを止めてしまい。


その場に片膝をついて崩れ落ちていたからだ。



「くそっ!」



必死に立ち上がろうとしても体が思うように動かねえ。


全身が痺れているかのような感覚で思うように力が入らねえんだ。



…これは、もう、あれだな。



たぶん…血を流しすぎたんだろうな。



意識すら朦朧もうろうとしてきている。



このまま倒れちまったら、

おそらくもう二度と目を覚まさねえだろう。



「く…そっ!動けぇ!!」



何とか力を込めようとするが、

数秒の時間が命取りとなる戦場だ。



どう考えても間に合わねえ。



そんな俺の考えを肯定するかのように、

周囲を取り囲んでいるアストリア軍が一斉に襲い掛かってきていた。



「「「「「殺せーーーっ!!!」」」」」



全方向から襲い掛かってくる兵士達の刃が俺に迫っている。



「ちぃっ!ここまでか…っ!!」



唇を噛み締めながら、

兵士達の動きを見つめ続ける。



せめてここにいる奴らだけでも道連れにしてやるためだ。



そんな願いを込めて槍を握りしめていると、

背後から一つの魔術が放たれた。



「ジェノサイド!!!」



後方からの援護だ。



「「「「「ぐあああああああ!!!!!」」」」」



翔子の一撃によって、

俺に接近していた兵士達が散り散りに吹き飛んでいく。



「…は、ははっ。」



軽く100人はいたはずなんだがな。



一撃で全滅だ。



馬鹿げた威力のせいで、

ついつい笑っちまったじゃねえか。



…だがまあ。



一時的にだが、ひとまず助かったらしい。



「真哉っ!!道を開いたわ!早くそこから逃げてっ!!」



必死に叫ぶ翔子だが…そいつは無理な注文だな。



悪いが俺はもう動けねえ。



槍を支えにしても立ち上がるのが精一杯の状況だからな。



逃げるどころか歩くことさえできねえんだ。


そんな俺に別の兵士が襲い掛かってきている。



…ちっ!


…うぜえ!!



迎撃してえが、槍を振り回すだけの体力がねえ。


いや…それ以前に槍を支えにしていなければ立っていることさえできねえんだ。



攻撃はできねえ。


そんな状況の俺を見ていた翔子が魔術を展開しようとしているが。



「真哉ぁ!うぅ、間に合って…!ジェノサイド!!!」



翔子の魔術は発動しなかった。



「魔力が…足りない!?」



慌てて次の魔術を詠唱する翔子だが、

もう間に合わねえ。


動けない俺に狙いを定める兵士の剣を回避することも出来ねえ。



「…ここまでか。」


「真哉ぁぁぁぁぁぁっ!!!」



大声で叫ぶ翔子の声が戦場に響く。



その瞬間に。


別の方角から魔術が放たれた。



「スパイラル・シャドウ!!!」



戦場に響き渡るのは理事長の声だ。


その声が聞こえたと思った瞬間に、

兵士達の影が本人の体へと襲い掛かっていった。



「うわああああああっ!!!!」


「たっ…助け!!!」



混乱する兵士達が次々と死亡していく。


その隙間を突き抜けて乱入してきた理事長が俺の救出に現れた。



「下がるわよ!動ける!?」


「あ、ああ、何とかな…。」



出来ないとは死んでも言わねえ。



動けないと分かっていても、

言葉としては認めねえ。



弱音を吐くのは趣味じゃねえんだ。



背中の痛みを堪えながら、

意地でも強がってみせる。



そしてそのまま理事長の援護を受けながら翔子の側まで後退した。



…が、さすがにこれが限界か。



もう一歩も動ける気がしねえ。



「真哉!!」



翔子が慌てて駆け寄ってくる。



…ちっ!



さすがに気づかれるか?



既に自覚しているが、背中の怪我は致命傷だ。



間違いなく背骨に影響を残している。


傷の深さまでは翔子には分からないとしても重傷なのは気づかれるだろう。



できれば気づかれる前に距離をとりたいんだが、

すでに一歩も動けねえ。



翔子の接近を阻むことはできなかった。



「ちょ…っ!?真哉っ!?」



めんどくせえが…やっぱり気づいたようだな。


翔子の表情が急速に青ざめていく。



「す、すぐに治療をっ!」



俺の背中に手を当てる翔子だが。



「…ごめん。魔力が足りないみたい。」



…だろうな。



翔子は回復を断念していた。



「…あっ、でも!」



何か別の方法を思いついたんだろう。


翔子はすぐに理事長に助けを求めた。



「理事長なら!」



治療を期待する翔子だが、

何故か理事長は辛そうな表情を見せている。



「ごめんなさい、翔子。言いにくいんだけど…ね。今の私にはもう回復魔術は使えないのよ。」


「えっ!?でも…確か理事長は上級の回復魔術まで使えるんじゃなかったでしたっけ?」


「え…ええ。ちょっと前まではね。でも今は無理なのよ。指輪の封印を解除しちゃったから…力を解放する代償として回復系の魔術は全て使えなくなってしまったのよ。」



…力の代償?



どうやら理事長は本来の特性である魔力の『負』の力を指輪によって封印していたらしい。



その恩恵としてそれまで使えなかった数多くの魔術を使えていたようだ。



もちろん『回復魔術』も…だ。



だが今は違うってことだろう。



指輪の封印を解除した理事長は本来の魔力の特性によって『回復』能力を失ったようだな。



「今の私には攻撃魔術しか使えないのよ。」



成長のための封印ではなく、

力を抑えるための封印だったらしい。



だとすれば。



回復魔術が使えなくなったっていうのも理解できる。



「…二人は逃げなさい。運が良ければ天城君か栗原君が助けてくれるかもしれないわ。」



総魔か…栗原徹か。


確かにあの二人なら俺の治療ができるだろうな。



だがそれは…それまで俺が生きていればの話だ。



どこにいるのか分からないあいつらを探して

山中を行動できるほど俺の体力が残っているとは思えねえ。



…それなのに。



理事長は俺達を逃がすために再び戦場へと歩みを進めてしまう。



「私が時間を稼ぐ間に、二人はここから逃げなさい。」



…逃げる?



この俺が?



理事長を置いて?


戦場から逃げ出す?



…ふざけんなっ!!



俺と翔子を逃がす為に、

一人で立ち向かおうとする理事長だがな。



…俺はそんなことを望んじゃいねえ!!



「待て!俺が行く!!」



これは俺の戦いだ!



逃げるつもりは一切ねえ!



「アストリア軍をぶっ飛ばしてやる!!」


「はぁっ!?何を言ってるのよ!そんな体で戦えるわけがないでしょう!」



まあ…確かに無理はあるな。



…だがな。



出来ないと思い込んで諦めるのは嫌いなんだ。



出来るか出来ないかは結果で判断すればいい。



俺はただ…自分のやりたいようにやるだけだ。



「楽勝に…決まってるだろ?」



俺の行動を反論する理事長に微笑みを返してから翔子に別れを告げる。



…これが、俺の生き方だ!



「…翔子。お前一人でなら…ここから逃げ切れるはずだ。敵は俺達が食い止める。その間に…お前は逃げろ!!」


「ちょっ!馬鹿なことを言わないで!!死にかけの真哉を置いて、私だけ逃げられるわけないじゃない!!」



…死にかけか?



まあ、否定はできねえな。



だが…な。



だからこそ言ってんだ。



死にかけの俺がどうやってここから逃げる?



死にかけの俺にどうやって龍馬達に追いつけってんだ?




それこそ無理ってもんだろ?



だから、言ってんだ。



…もってあと数分の命だ。



どうせ足掻くのなら、

逃げる時間くらいは稼いでやるさ。



そのために。



今はただ…最期まで強がり続けるだけだ。



「必ず総魔のもとへたどり着け。お前なら出来るはずだ。」



…本音を言えば悔しいが。



今の俺じゃあ翔子を守りきることができねえ。



せいぜい時間を稼ぐのが精一杯だ。



そう思うからこそ、

気合だけで動きだすことにした。



体中の痛みを無視して、

何事もないかのように振る舞い続ける。



それが俺にできる唯一の意地ってやつだ。



「お前が逃げるまでの時間くらいは俺が稼いでやる!だからお前は逃げろ。そして…必ず生き延びろ!」



もはや言い争いをしてる時間もねえ。


俺にはもう…戦い続ける以外の選択肢はねえんだ!



「いいな?必ず逃げろ!!」



翔子に指示を出してからすぐに、

気力を振り絞ってアストリア軍へと駆け出す。



ここからが…本番だっ!!



「翔子に手出しはさせねえっ!!ここは俺が守り抜く!!」



全力で叫ぶ。



もう悔いはねえ!



ここが俺の戦場だ!!



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