あの日、あの時
《サイド:御堂龍馬》
………。
総魔達は行ってしまったようだ。
何もできなくなってしまった僕を残して行ってしまったんだ。
…その結果として。
僕は一人になった。
誰もいない森の中に、
たった一人で取り残されたんだ。
だけど。
それが悔しいとか悲しいなんて思わなかった。
怒りも。
憎しみも。
戸惑いさえも。
感じなかったんだ。
…総魔が僕に向けて何かを言っていたような気がするけれど。
その言葉の内容さえも理解できずにいた。
…と言うよりも。
そもそも何も聞いていなかったのかもしれない。
何かを言っているのは分かるのに。
言葉を理解する前に聞き流してしまっていたんだ。
だから。
総魔が何を言っていたのかは分からない。
もしかしたら深海さんや栗原さんも何か言っていたのかもしれないけれど。
…何も覚えていないんだ。
誰かの声に耳を傾けるほどの余裕がなくて。
ただただ絶望だけが心の中を渦巻いていて。
沙織のこと以外に何も考えられなかった。
…沙織。
…沙織!
…沙織っ!!
何度その名前を繰り返しても。
望むべき声は返ってこない。
沙織。
沙織っ!
沙織ーーーーー!!
何度その名前を繰り返しても。
もう二度と。
あの笑顔を見ることが出来ないんだ。
「沙織ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!」
沙織の死を嘆いて、大声で泣き叫んでいた。
「どうしてっ!どうしてなんだっ!?」
愛する人を失った悲しみ。
愛する人を守れなかった絶望。
愛する人の側にいなかった後悔。
僕はどうして沙織を守れなかったのだろうか?
僕はどうして沙織の側にいなかったのだろうか?
沙織がいない孤独を感じながら、
絶望の中で涙を流し続けてしまう。
「…沙織…。」
いなくなってしまったことで、
改めて感じてしまうんだ。
僕は沙織が好きだった!!
誰よりも!
何よりもだ!!
…それなのに。
『あなたが好きです』と、
想いを告げてくれた沙織が…今はもうどこにもいない。
世界中のどこを探しても…もう二度と逢えないんだ。
そのことをはっきりと自覚してしまったせいで、
沙織の言葉が何度も何度も僕の心を駆け巡ってしまう。
沙織は言ってくれた。
僕と出逢えて本当に良かった…と。
そして僕と過ごした毎日が、
沙織にとって『幸せ』な日々だった…と。
ちゃんと伝えてくれたんだ。
…それなのに!
…それなのにっ!!
僕は沙織を守れなかった!
僕が好きだと言ってくれた沙織を守れなかったんだ!!
僕に想いを伝えてくれた沙織の言葉は…今でもはっきりと覚えてる。
『私はこれからも龍馬と向き合っていたいの。だから今は…龍馬とは別の道を行くわ。』
僕と向き合うために。
そして真実を知るために。
別れを決断した沙織の言葉が僕の心を埋め尽くす。
『さよなら…龍馬。そしてもしも…もう一度出逢うことが出来たなら…。その時は、あなたの返事を聞かせて下さい』
あの日、あの時!!
僕は沙織の想いに応えようとしたんだ。
…だけど。
僕は僕の想いをしっかりと伝えることができなかった。
沙織が答えを望まなかったから。
何も知らないことを望んだから。
…だから僕は。
僕の想いを伝えることができなかったんだっ!!
だけどもしも。
もしもあの時。
…僕が想いを伝えてさえいれば。
沙織を守れたのかもしれない。
あるいはもしも。
もしもあの時に。
…沙織と共に残ることを選んでいれば。
沙織だけを犠牲にすることはなかったのかもしれないんだっ!
もしも、もしも、もしも…っ!!!
そんな考えがとめどなく繰り返されて、
心が闇に沈んで行く。
どうして僕はここにいるんだろうか?
どうして僕は生きているんだろうか?
沙織と共に死ぬことができるのなら、
それで良かったとさえ思ってしまう。
沙織の傍にいられるのなら、
それだけで良かったと思ってしまうんだ。
今更、何を言っても手遅れだとしても。
僕はただ…沙織に傍にいて欲しかったんだ!
「沙織いいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
何度叫んでも沙織はもう応えてくれない。
何度叫んでも沙織も想いに応えることができない。
…ごめん、沙織。
僕はきみを守れなかった。
好きだと言ってくれたのにっ!
僕はまだ返事をしていないのに!
それなのに…っ!
「僕はきみを守れなかったんだっ!!」
絶望して…嘆き…悲しんでしまう。
こんなことで沙織は生き返らない。
だけど…考えは止まらないんだ。
生きていて欲しい。
生き返って欲しい。
そんなふうに願ってしまうんだ。
「沙織…僕はきみがいなければダメなんだ…っ!」
僕には沙織が必要なんだ!
他の誰にも沙織の代わりはできないんだ!
溢れ出る涙で頬を濡らしながら、
僕に出来ることは…ただひたすらに謝り続けることだけだった。
「ごめんよ、沙織…。」
僕が側にいれば一人で死なせることはなかったのに。
僕が一緒にいれば淋しい想いをさせなかったのに。
沙織を失った悲しみが大きすぎて、
僕は自分を責めることしかできなかった。
「沙織っ!!きみを死なせたのは僕だ…っ!!」
思考が泥沼に沈み込んでしまう。
何も出来なかった自分自身を悔やんで。
憎しみさえ抱くようになってしまっていた。
「きみを失ったのは…僕の責任だっ!!」
ただただ泣き叫ぶことしかできなかった。
そんな僕の叫び声はいつまでも。
…いつまでも。
薄暗い森の中で。
虚しく響き渡っていた。




