真田照栄
《サイド:常盤沙織》
多くの魔術師に守っていただきながら、
私達は砦の内部を進攻しました。
そうして1階を早々に制圧してから2階に上がってみると。
そこにいるのは戦争によって傷ついた負傷者ばかりでした。
おそらく戦えない戦力を2階に避難させていたのではないしょうか。
戦うことも逃げることもできない負傷者達を捕虜として確保してから各階の制圧を終えた私達が3階まで突き進んでみると。
階段を上ってすぐの通路で、
一人の男性が立ちはだかっていました。
「まさかここまで到達するとは正直思っていませんでしたが…これも現実として受け入れるしかないのでしょうね。」
すでに敗北を受け入れているのでしょうか?
無闇に争う素振りはなく、
武器を持っているようにも見えません。
「我々の敗北を認めましょう。」
男性は鞍馬総司令官を見つめながら、
その場で正座しました。
「10万もの兵士を踏み越えてここまで来たあなた方に抵抗するだけ無駄でしょう。この状況で悪あがきをするつもりはありません。殺したければ御自由にどうぞ。」
戦う意思を捨てて瞳を閉じる男性ですが、
私の目的は殺し合いではありません。
ただ、話がしたいだけなのです。
「その前に聞きたいことがあります。」
命の奪い合いは私が判断できることではありませんので、
質問をさせていただくことにしました。
「何故、戦争を始めたのですか?そこまでして、何故、魔術師を滅ぼそうとするのですか?」
戦争の理由。
その問い掛けに対して男性が答える前に。
男性の後方から一人の老人が現れて、
私の質問に答えてくれました。
「…全てはこの世界の為だ。」
「え…っ?」
突然現れたご老人の言葉の意味が、
私には理解出来ませんでした。
ですが。
そのご老人を見た瞬間に、
鞍馬総司令官の表情が変わったように見えました。
「真田照栄!?やはりお前が動いていたのか!!」
突然大声を上げた鞍馬総司令官に、
真田さんはゆっくりと視線を向けました。
「ふっ。久しいな鞍馬宗久。こうして話をするのはかつての交渉以来か?」
…交渉?
どういう意味でしょうか?
話の展開が理解できずに戸惑っていると、
鞍馬総司令官が私に聞こえるように小さな声で説明してくれました。
「ワシがまだ共和国の代表だったころ、あの男もまたアストリア王国の国王としてこの国を支配していたのだ。」
…国王?
真田照栄と呼ばれた方は、
かつてこの国の王様だったそうです。
真田照栄国王と鞍馬宗久代表。
二人はどちらも国を代表する地位にいたようですね。
ただ、今ではどちらも引退していますので、
真田照栄元アストリア国王と鞍馬宗久元共和国代表と呼ぶべきでしょうか?
「交渉というのはもちろん和平交渉だ。もっとも一度も受け入れてもらえたことはないがな。」
二人は幾度となく和平の交渉を行い。
その度に決別を繰り返していたようです。
今では互いに引退した身ですが、
それでも影響力は失われていないようですね。
こうして今でもまだ対立しているように、
共に国の存続を賭けて争いを続けているということです。
「互いに言い分はあるだろう。だが、ここで立ち話というのも風情があるまい。話が聞きたければついて来るが良い。」
逃げも隠れもせずに歩き出す真田元国王。
そのあとを追うために、
正座していた男性も歩きだしました。
「どうする?行くか?」
歩き出した二人の後ろ姿を眺めながら、
鞍馬総司令官が私に問いかけてくれました。
…どうするべきでしょうか?
個人的には話を聞きたいとは思いますが、
これが罠である可能性は否定できません。
ですが戦闘そのものは共和国の勝利で確定しつつありますので、
仮に罠が仕掛けてあったとしても共和国軍が負けることはないでしょう。
「行きます!」
覚悟を決めて一歩を踏み出すことにしました。
「たとえ罠だとしても、全てを知ることが出来るのなら私は行きます。」
「…やはりそう答えるか。仕方がない…全てを受け入れるしかないだろうな。」
…仕方がない?
全てを受け入れるとは、
どういう意味でしょうか?
色々と疑問が増えていきますが、
何にしてもこの先に答えがあるのです。
今ここで無理に問い詰める必要はないですよね?
「行きましょう。」
先行する二人を追って歩き出すと、
鞍馬総司令官は周囲の共和国軍に指示を出しました。
「砦の制圧は任せる。決して油断せずに最後まで警戒を続けろ。」
「了解しました!」
魔術師達の返事を聞いてから、
鞍馬総司令官も私と一緒に歩き出しました。




