こみ上げてくる何か
《サイド:深海優奈》
翔子先輩と別れたあと。
私達は山中に入ってからも目的地が分からないまま全力で走り続けていました。
山岳地帯の多くは深い森林に覆われた樹海とも言える大自然です。
見渡す限りの木々のせいで視界もせまくなって、
差し込む木漏れ日も僅かなので、
走る速度が自然と遅くなってしまいます。
「申し訳ありません。報告書の内容は覚えているのですが、詳しい場所までは分かりませんので…。」
向かう方向がわからないことで謝ってくれる栗原さんですけど。
それはみんな同じなので仕方がないと思います。
もちろん御堂先輩も気にしていない様子でした。
「探せば見つかると信じるしかないだろうね。」
気楽に答えている御堂先輩ですが、
その表情は真剣そのもので油断することなく周囲を警戒してくれています。
「どこかで巡回兵を捕らえられればいいんだけど…。」
理事長さんと話し合っていた作戦を実行するためでしょうか?
呟いた御堂先輩の声を…突然、前方で起きた爆音が掻き消しました。
「なんだ!?」
御堂先輩が足を止めたことで、
栗原さんも私も立ち止まってしまいました。
…ですが。
一瞬、魔力が動くような気配を感じましたので、
魔術による攻撃だったのではないでしょうか?
「何かが接近してくる!!」
戸惑いながらも戦闘準備を始める御堂先輩がルーンを生み出した直後に。
一人の人物が森林を突き抜けて飛び出してきたんです。
「な…っ!?」
御堂先輩は驚いています。
「あ…っ!!」
私は笑顔を浮かべました。
「おぉ!!」
栗原さんは安心した様子ですね。
森の奥から飛び出してきた人物。
それは私達が最も会いたいと願っていた総魔さんだったんです。
「そ…っ!総魔っ!?」
驚く御堂先輩に総魔さんが話しかけていました。
「やはり御堂か。魔力の波動を感じて追ってきたんだが、無事で何よりだな。」
…あっ。
…そういうことなんですね。
総魔さんは御堂先輩や私達の魔力の波動を感知したことで、
わざわざ会いに来てくれたようです。
無事に合流できたことで、
総魔さんは栗原さんに視線を向けて微笑んでいました。
「思ったより再会は早かったな。」
「は、はい!ご無事で何よりです!!」
素直に喜ぶ栗原さんは本当に嬉しそうに見えます。
言葉では信じていると言っても、
やっぱり心配していたみたいですね。
総魔さんと再会できたことで、
栗原さんはとても嬉しそうな笑顔で喜んでいました。
そんな2人の様子を黙って眺めていたのですが、
総魔さんは最後に私にも振り向いてくれました。
「久し振りだな、優奈。」
「…あ…っ…。」
総魔さんに名前を呼ばれた瞬間に。
ただそれだけのことなのに。
心の中でこみ上げてくる何かを感じてしまいました。
それは喜びかもしれませんし。
それは安心かもしれません。
あるいは幸せだったのかもしれません。
自分でもよくわからない感情だったのですが、
何故か自然と一滴の涙が流れてしまいました。
「総魔…さん。」
ずっと。
ずっと聞きたいと願っていた総魔さんの声が聞けたんです。
だから。
総魔さんの声を聞いただけで、
心が温かくなる気持ちを感じることができました。
「お久しぶりです、総魔さん。」
涙を零しながら微笑んでみると。
総魔さんは私の手を掴んでから再び走り出しました。
「色々と話したいことはあるだろうが、今は立ち止まっている暇はない。アストリア軍の追っ手が迫ってきているからな。兵器を目指して先を急ぐぞ!」
後方を気にしながら走り出す総魔さん。
そのあとを追って、
御堂先輩と栗原さんも走り出しました。




