たった一度だけの
《サイド:美袋翔子》
「…うん。」
ありがとう、優奈ちゃん。
最後に優奈ちゃんが謝っていたのが、
何となく聞こえた気がしたわ。
別に謝ってもらう理由なんてないんだけどね?
だけど…ちょっと嬉しかったかな。
優奈ちゃんに心配してもらえてるっていう気持ちがちゃんと伝わってきたから。
それだけで元気になれる気がしたのよ。
…だから大丈夫!
私は死なないし、絶対に負けない。
ここでの戦闘を終わらせて、
優奈ちゃんのあとを追いかけるの。
そして、必ず!!
総魔と合流してみせるわ!
今度は絶対に逃がさない!!
迷惑だって言われても良いの。
邪魔だって言われても良いの。
それでも私は総魔を捕まえて。
これからもずっと!ずっと!
隣にいるって決めたのよ!
だからこんなところで負けられない。
ちゃんと総魔を反省させて、
もう二度と女の子を泣かせないって約束させるの!
そのためにここまで来たんだから!
こんなところで負けるわけにはいかないのよっ!!
「トールハンマー!!!」
私の叫び声と共に、周囲を雷撃が取り囲む。
「落ちなさいっ!!」
沈み込む大地。
重力による圧迫によって、
雷撃を浴びた兵士達が地面に沈んでいったわ。
「ぐぁぁあああっ!?」
「体がぁ…っ!!」
通常の数十倍もの重力よ。
範囲内にいる兵士達は一人残らず体を守る鎧の重量に負けて、
口から血を吐きながら意識を失っていく。
まさに圧死ね。
鎧の重量が10キロだとしたら、
数百キロに増加してるはずなのよ。
ある人は手足が砕け、
ある人は身動きが取れずに体が潰れて死んでる。
その光景は夢に見そうなほどの惨劇だったと思うわ。
口から内蔵が飛び出してるし、
眼球も破裂して変な液体が飛び散っているからよ。
…ってぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
うあああああああぁぁぁ!!!
…重力操作って思っていた以上にえぐすぎるわね。
これなら衝撃波とかで体を切られたほうがまだマシじゃない?
潰れた死体を直視するのはさすがに精神的にきついわ。
広範囲に攻撃できる利便性は捨てがたいけど。
今後この魔術を使うのはちょっとためらいそうかも。
とりあえずはダイアモンド・ダストが無難かな?
氷像は気持ち悪くないし。
…うん。
そうするわ。
魔術師であれば誰でも少なからず魔術に対する抵抗力を持っているけれど。
一般の兵士達では直撃を受けることになるから、
あとの惨劇を思うと使える魔術が限られてくるわね。
…でも、まあ。
結果的に死体を見ずに済むのなら、
もっと便利な魔術があるけどね。
手っ取り早く戦闘を終わらせるためにルーンに力を込めてみる。
「魔力の出し惜しみはしないわっ!!」
発動するのは3本の矢。
込められるだけの『魔術』を込めて、
上空に向けて光の矢を放ってみる。
「アルテマ・トリプル・ショット!!!」
3つのアルテマを同時に放つ。
魔力の配分を無視した全力攻撃よ。
思いっきり魔術を放ったわ。
100種の魔術を融合した通常のアルテマの3倍の圧縮魔術。
合計300もの魔術がアストリア軍を飲み込むことになるの。
その代償として、
ほぼ全ての魔力を消費してしまったけれど。
これでアストリア軍は壊滅的な被害を受けるはずよ。
同時展開される3つのアルテマ。
単発でも凄い威力なのに。
「「「「うあああああああああああああっ!!!!!!」」」」
3つ同時になるとね。
過去最大級の甚大な爆発を巻き起こして、
残存するアストリア軍の半数を吹き飛ばしてしまったの。
「ぐぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
「うおおおおおぁぁぁぁ!!!」
これはもうあれよ。
圧倒的なんていう言葉では言い表せない究極の攻撃だと思うわ。
単に圧縮魔術を連続発動するメテオ・ストライクとは違って、
最強のアルテマを同時展開してるのよ?
瞬間的の破壊力は天と地ほど違うはず。
全力で放った攻撃は大地を根こそぎ吹き飛ばすほどの破壊を巻き起こして周囲に巨大な大穴を3つ作り上げてた。
そこにえぐい死体なんて一つもないわ。
…というか。
そもそも死体そのものが残ってないんだけどね。
跡形も残らずに消え去る兵士達。
私の魔力と引き換えにして1万を越える兵士達が死滅したみたい。
だけど。
その代償として魔力が底を尽きかけてるから次の攻撃なんてもう出来ないわ。
たった一度だけの殲滅。
それが私の限界なのよ。
「はぁっ…はぁっ…!」
必死に呼吸を整えようとするけれど。
魔力の喪失は気力だけではどうにもならないわね。
ほとんどの魔力を失ったことで、
意識を保つのが精一杯の状況になってしまったのよ。
「ここまで…かな?」
魔力を使い果たしたことで戦う力を失ってしまったわ。
多くの兵士の命を一掃した代償として、
私自身も死を覚悟しなければいけないのかもしれないわね。
「でも、まあ…?」
龍馬達が逃げる時間は稼げたし。
悔いはない…ことはないわね。
「わりとやり残したことが沢山あるから…死にたくないわ…。」
自分でも何が何だか分からなくなる気持ちだけど。
それが正直な気持ちなのよ。
「ったく…なんだかんだで私も結構無茶をしてるのよね~?」
自分自身を笑いながら、
迫り来る兵士達に視線を向けてみる。
「出来れば、最後にもう一度だけ…。」
…総魔に逢いたかったな。
まだ死にたくないのよ。
でも、逃げるだけの余裕もないわ。
「…逢いたいよ。総魔…。」
徐々に迫る兵士達の声を聞きながら、
最後まで総魔を想い続ける。
「ねえ…総魔。総魔は…生きていてね。」
大人しく死ぬつもりはないけれど。
どこまで戦えるかはわからない。
だからせめて最後くらいは、
総魔のことを考えていたいと思ったんだけどね。
それなのに。
…不思議よね?
期待してない時に限って、
あいつはやってくるのよ。
それが迷惑だとは思わないけれど。
こういう状況で来てくれるなんて、
嬉しくなっちゃうじゃない。
空気が読めないっていうか何ていうか。
「ホントに馬鹿なんだから…。」
昏倒寸前の私の視線の先で、
私の死を認めない馬鹿が接近しているのが見えたのよ。




