私にしか出来ないこと
《サイド:深海優奈》
「「「「「押さえ込めーーー!!!」」」」」
理事長さんの部隊に向かって雪崩のようにアストリア軍が押し寄せているのが見えます。
その圧倒的な数の差を実感しながらも、
北条先輩と理事長さんは囮として奮闘してくれていました。
「…凄いですね。」
素直にそう思うのですが、
翔子先輩はアストリア軍に囲まれている北条先輩を心配している様子でした。
「あの馬鹿は…ったく、もう…。無茶をしすぎなのよっ!」
…確かに。
敵軍の中央に単独で攻め込むのはさすがに危険だと思います。
「敵の目を引き付けるにしてもやりすぎなのよ!」
翔子先輩の気持ちはわかります。
ですけど。
危険地帯から無事に離脱して、
今もなお前線で戦い続けている北条先輩は本当に凄いと思います。
「真哉も頑張ってくれているんだ。僕達は今のうちに山中へ忍び込もう!」
北条先輩達が戦ってくれている間に、
御堂先輩は軍の側面を通り抜けようとしていました。
…ですが。
そうそう上手くは行かないようです。
「こっちにも侵入者いるぞーー!!!」
アストリア軍の後方部隊に、
私達の存在が気づかれてしまったからです。
「く…っ!気付かれたか!」
兵士の声を聞いた御堂先輩が戦闘体制に入ろうとしていましたが、
その前に翔子先輩が歩み出ました。
「まあまあ、龍馬。ここは私が引き受けるから龍馬は先に行って良いわよ。ある程度片付いたら私も追いかけるから、一足先に総魔を助けてあげて。」
「な…っ!?無理だ、翔子!この数は多すぎる!!今は逃げることだけを考えるんだっ!」
戦場から逃げ出すように説得する御堂先輩でしたが、
翔子先輩は逃げようとはしませんでした。
…それどころか。
何故か私に視線を向けていました。
「ねえ…優奈ちゃん。」
「…え?あ、はい。」
名前を呼ばれたことで返事をしてみると、
翔子先輩は自分の鞄を握り直してから私に向かって放り投げたんです。
…えっ?
…って?
…うわわわっ!?
慌てて掴み取ったのですが。
思っていた以上に重かったせいで、
危うく落としてしまいそうになってしまいました。
「しょ…翔子先輩?」
「あははは…重たくてごめんね。」
私が鞄を受けとったことを確認してから、
翔子先輩は優しく微笑んでくれました。
「その中に総魔の荷物も入ってるから、無事に合流できたら思いっきりぶん投げてやってね!」
…え?
総魔さんの荷物?
そのせいで重かったのでしょうか?
…あれ?
でも、確か総魔さんの鞄は荷物が少なかったから、
すごく軽かったような気がするんですけど?
他にも何か入ってるんでしょうか?
よくわかりませんけど。
翔子先輩は私に鞄を預けてから全力で駆け出してしまいました。
「来るなら来なさい!だけど、ここは通さないわよっ!!」
ルーンを構えながら迫り来る兵士に立ち向かう翔子先輩。
その手の弓が輝きを増していきます。
「ダイアモンド・ダスト!!!」
放たれたのは冷気の矢ですね。
数え切れないほど多くの冷気の矢が襲い掛かったために、
接近していた兵士達は一瞬にして凍りつきました。
ですが、これで終わりではありません。
アストリア軍の兵士はまだまだ沢山いるからです。
氷像とかした兵士達の間をくぐり抜けて、
翔子先輩は戦場を駆け抜けていきます。
「邪魔はさせないわっ!!」
次々と迫り来る追っ手を防ぐ翔子先輩は、
本気で私達のために囮になるつもりのようです。
…その想いを感じ取ったのでしょうか?
戦いから目を逸らした御堂先輩は、
自らの役目を受け入れたように思えました。
「ごめん…翔子。」
一言だけ謝ってから走り出したんです。
…あ、う…うぅ。
私はどうするべきでしょうか?
気持ち的にはここに残って翔子先輩の支えになりたいです。
ですが荷物を預かってしまった以上は、
総魔さんに届けないわけにもいきません。
「翔子先輩…。」
…私は。
…それでも私は。
…翔子先輩と一緒に。
一緒にいたいと思ったのですが。
不意に栗原さんに腕を掴まれてしまいました。
「行きますよ!ここで足を止めていては役目を果たせません!!」
「で、でも…っ!」
「ここに残っても出来ることには限りがあります。ですが先を急ぐことで、あなたにしかできないことがあるはずです!」
「私にしか…できないこと…?」
「美袋さんに願いを託されたのでしょう?でしたらその願いを叶えるために全力を尽くすべきです!そうしなければたった一つの願いさえも叶えられないのです!!」
「…っ!?」
栗原さんの言葉を聞いて、
私は何も言えなくなってしまいました。
………。
「行きますよ。それが想いを受け継ぐということです。」
………。
はい、とは言えませんでした。
ですが、嫌だとも言えませんでした。
そのせいでしょうか。
栗原さんに腕を引かれて抵抗することさえできませんでした。
…翔子先輩。
私は…どうすれば良いですか?
このまま行くのが正しいのか。
ここに残るのが正しいのか。
どちらが正しいのか私にはわかりません。
…だから。
「ごめんなさい…。」
ただ謝ることしかできませんでした。
「翔子先輩…。」
私達を守るために戦ってくれている翔子先輩の背中を眺めながら、
翔子先輩から預かった荷物を大切に抱き抱えました。
そして栗原さんに手を引かれたまま、
戦場を離脱することになってしまったんです。




