保護者
《サイド:米倉美由紀》
2千人の魔術師による範囲攻撃がアストリア軍に襲いかかる。
強襲による初撃によって、
2割を超えるアストリア軍が吹き飛んだと思うわ。
鳴り響く爆音。
混乱するアストリア軍の隙を狙い定めて追撃を仕掛ける第2波によって、
アストリア軍の数は更に減少したはずよ。
爆風と砂埃によって敵軍の状況がわかりにくいけれど。
一方的な先制攻撃によって、
1万近いアストリア軍が倒れたでしょうね。
ざっと3分の1が削れたということよ。
ひとまず奇襲は成功と言えるんじゃないかしら?
アストリア軍は大混乱に陥っているはずなのよ。
この状況を優勢と判断したのか、
北条君が単独でアストリア軍に襲いかかろうとしている姿が見えたわ。
「まとめてぶっ飛ばす!!!」
ソニックブームによる強行突破よ。
北条君自身が衝撃波となって敵軍に飛び込んだことでアストリアの兵士達が次々となぎ倒されていったわ。
「ぐああああああっ!?」
「うわあああああっ!!!」
突然攻撃を仕掛けた北条君の無茶な特攻によって、
アストリア軍は騒然となっている様子ね。
「おらおらおらおらっ!!!油断してると、死んじまうぜっ!!」
大声で叫びながら敵軍の真っ只中を突き抜ける姿はまさしく死神よ。
槍のひと振りごとに次々と兵士達の死体が積み重なっていくの。
普段は手に負えない問題児も、
こういう時だけはとても頼もしく思えるわね。
「ソニックブーム!!!!」
再びラングリッサーが輝きだして、
衝撃波となった北条君がアストリア軍を分断してくれてる。
…うぅ~ん。
命知らずな攻撃ね。
だけど。
『一騎当千』って、
北条君のような人を言うんでしょうね。
高速で走り抜ける北条君に対応できずに、
次々と倒れていくアストリアの兵士達。
それでもアストリア軍の被害は全体から見ればホンの些細な一部分でしかないはずよ。
万を越える軍隊の中で数百が倒れても、
軍が壊滅することはないわ。
そのことが分かっているのか、
北条君は敵軍の中央まで突き抜けたことで一気に殲滅を狙いだしたのよ。
「ファイナルアタック!!!!」
響き渡る爆音と共に周囲に広がる局地的な地震。
再び巻き起こった大破壊によって、
アストリア軍の布陣が崩れて混乱が広がっていく。
そのおかげで…という言い方が正しいかどうかは知らないけれど。
北条君の全力の攻撃によって共和国軍の存在が全軍に伝わって、
ついにアストリア軍の注意が私達へと集まったみたい。
「敵の襲撃だーー!!!」
「殺せーーー!!!」
囮としての役目を存分に発揮してくれた北条君の活躍はなかなか良かったんじゃないかしら?
ただ、そのおかげで敵も本気になってしまった様子だけどね。
それでも御堂君達が先行する時間を稼いでくれたことは事実だから文句なんて言えないわ。
…とは言っても。
忠告くらいはしておくべきでしょうね。
各地で叫びながら指示を出し続けるアストリア軍の指揮官達が反撃の準備を整える様子をしっかりと確認しながら、
ひとまず北条君に向けて呼びかけることにしたのよ。
「北条君っ!進みすぎよっ!今すぐに下がりなさいっ!!」
いくらアストリア軍の注意を引くためとは言ってもね。
敵陣のど真ん中に単独で攻め込むのはやりすぎなのよ。
ここで北条君を失ってしまえば御堂君に申し訳が立たないし。
北条君のお父さんにも合わせる顔がないわ。
「退路を開くから撤退しなさい!!スパイラル・シャドウ!!」
魔杖が黒い光を放ってアストリア軍の部隊を包み込んだ瞬間。
兵士達の影が本人の体へと襲い掛かっていく。
「永遠の眠りにつきなさい。」
精神を直接破壊する即死魔術よ。
分類的には禁呪に属する私の魔術は心の弱い人間ほど効きやすいの。
そのせいか。
混乱から立ち直っていなかった者達から次々とね。
抵抗する余裕もないまま倒れていったわ。
もちろん精神的に強い人達もいるでしょうけど。
それでも時間の問題でしかないわ。
心を攻撃されたことのある人なんてどこにもいないのよ?
当然、対処法なんて存在しないし。
頑張れば何とかなるような簡単な話じゃないの。
相手がよっぽど高位の陰陽師か神官でもない限り、
精神攻撃を耐えきるなんて出来ないわ。
だからこその『即死魔術』なの。
私の支援によって北条君へと至る直線上のアストリア軍は1分ともたずに死滅したわ。
文字通りの全滅よ。
見た目は無傷だけれど。
心を破壊された兵士達はまるで人形が打ち捨てられたかのように感情を失って死んでいったわ。
その隙をついて後退する北条君が無事に私の側まで戻ってきてくれたんだけど。
北条君の表情はどこか不満そうに見えるわね。
「ったく!保護者がでしゃばるんじゃねえ!!」
…はぁぁぁぁ。
せっかく助けてあげたのに。
結局この態度なのよ?
ホントに手のかかる子だわ。
「あのね?一応言っておくけど、北条君の保護者でもあることを忘れないでね?」
嫌味を込めて精一杯の笑顔で宣言してあげたわ。
それが気に入らなかったのかしらね。
北条君の機嫌はさらに悪化したように見えるわ。
「…ちっ。もういい。勝手にしろ!」
苛立ちを隠そうともしないまま再び動き出した北条君が槍を構える。
その間に私も戦闘体制に入ることにしたのよ。
「背中を守ってあげるから、好きなように暴れなさい。」
「言われなくても最初からそのつもりだ!!」
私の配慮を気にせずに突撃を繰り返す北条君。
その背後を守るために援護を続ける私の周りで護衛部隊も必死に戦ってくれているようね。
まだまだ戦力の差は大きいけれど。
ひとまず時間稼ぎは出来そうな感じだったわ。




