星に願いを
《サイド:北条真哉》
…ふう。
前線から撤退した俺達は、
そのまま本陣まで帰還することになった。
「戻りました!」
真っ先に龍馬が理事長に歩み寄っていく。
その後ろにいる俺と翔子と優奈の無事を確認した理事長が俺達にも話し掛けてきた。
「お帰りなさい。それと帰ってきて早々だけど、ついに天城君の居所が分かったわ。」
…あいつの居場所、か。
その言い方からして王都じゃねえって感じだな。
「場所はここから西へ向かった先にある山岳地帯よ。そのどこかに共和国を攻撃する為の兵器が隠されているらしいの。天城君はすでに向かってるみたいだけど、さすがに一人では手に負えないみたいね。だから私達も兵器の破壊の為に移動するわよ。」
ほう。
兵器の破壊か。
どうやら王都に向かうのは中止のようだな。
「総魔は無事なんですか!?」
理事長の発言によって翔子が不安気な表情で問い掛けていた。
「怪我とかは…っ!?」
問いかける翔子だったが、
答えたのは理事長じゃなくて見覚えのない男子生徒だった。
「…現状はわかりませんが、天城さんなら無事のはずです。必ず戦争を止めると約束しましたので、無事でいるはずです。」
…こいつは心の底から信じてるって顔だな。
初見だが、こいつが栗原徹だろう。
見た目は弱そうだが、
漂う雰囲気は異端としか思えねえ。
…こいつは本当に医師なのか?
とてもそうは思えねえな。
目に宿る気迫が並じゃねえからだ。
まるで地獄から生還してきたかのような、
冷たい雰囲気を発してやがる。
…こいつはもうあれだな。
相当な修羅場を経験してる目だ。
「天城さんの心配は必要ないと思います。彼は単独でアストリアの王城を落とした人物です。必ず無事でいるはずです。」
…必ず、か。
その言い方からすると、
こいつは相当あいつを信頼してるようだな。
ある意味…翔子や龍馬以上か?
こういう表現が正しいかどうかは分からねえが、
信頼というよりも信仰って感じだな。
いや…そういう意味で言えば翔子や龍馬も同じか。
まあ、どっちにしても俺には関係ない話だがな。
ひとまず王都で総魔と別れた徹は、
総魔に追撃部隊を任せて一足先に王都を離脱してきたらしい。
そのせいで実際にどうなったのかは分からないようだ。
でもまあ、俺としてもあいつが死んだとは思えねえからな。
徹の予想通り、生きて行動してるだろう。
「天城さんは王都を脱出して兵器の探索の為に行動を続けているはずです。」
まあ、妥当な判断だな。
はっきりと答える徹の言葉を聞いて、
翔子の不安は少しだけ和らいだらしい。
「信じろってことよね?まあ、そういうのは得意分野よ。」
あいつの生存を信じることにしたらしい翔子は再び理事長に問い掛けていた。
「それで、今すぐに出発ですか?」
「ええ、そのつもりよ。悠護に連絡をとってからだけど、打ち合わせを終え次第、すぐに出発するつもりよ。」
方針を決めた理事長の言葉を聞いて、
翔子が龍馬に視線を向けていた。
「やっと…って感じよね~?」
「ああ、そうだね。」
方針が決まって喜ぶ翔子に、
龍馬は微笑みながら頷いている。
ようやくあいつに会えるってことで喜んでいる様子だな。
その想いは翔子も龍馬も同じようだ。
笑顔を浮かべる二人だが。
…俺はどうだろうな。
複雑な心境ってやつか?
総魔の捜索という目的は達成しかけている。
そこまではいい。
だがそれは同時に、
俺にとっての別れが迫っているということでもある。
この戦争が終われば動き出すであろう『想い』の行方。
その『想い』に誰がどう動くのかは分からねえ。
…だが、きっと。
俺にとっては面白くない結果になるだろうな。
「…まあ、それも良いか。」
ぐだぐだ悩むのは性に合わねえからな。
俺は俺のやるべきことをやるだけだ。
そのあとのことは…それから考えればいい。
ただまあ、それでも願いはするか。
もしも願いが叶うのなら、
この『想い』が通じてほしいってな。
…だが、な。
同時に思うこともある。
きっと届きはしない…ってな。
だから俺は微笑みを浮かべることにした。
落ち込むのは苦手だからだ。
届かない想いを悲しんで涙するのはもううんざりだ。
あんな悲しみは一生に一度だけでいい。
俺はもう二度と泣かねえって決めたんだ。
だから、結果はどうだっていい。
自分が満足できる人生ならそれでいい。
「ああ…そうか。」
そういえば親父もそんなことを言っていたな。
…あの日、あの時。
俺は確かに親父の言葉を聞いていたんだ。
『泣いてもいい。悲しんでもいい。だがそこで諦めるな。立ち止まってもいい。振り返ってもいい。だがそこで立ち止まるな。お前の成長を母さんはきっと見守ってくれているはずだ。だからたとえ想いが届かないとしても、その心にある想いだけは忘れるな。大事なのは結果ではなくその過程だ。最後に満足できる人生であったなら、それだけで十分なはずだ。』
今になって思えば、
確かにそうかもしれねえな。
今なら分かる。
親父の言葉が俺の信念になってるってことがだ。
「…あの時は分からなかったけどな。」
それでも親父は俺に一つだけ、
たった一度だけ魔術を教えてくれたんだ。
…考えてみれば、あれば初めてだった気がするな。
親父が俺に何かをしてくれたのは、
あれが最初で最後だった気がする。
それでも。
あの時の俺は確かな何かを手に入れたんだ。
単なる魔術ではない『何か』だ。
それが何なのか?
はっきりとした答えは分からねえ。
それでもその何かは確かに俺の中にある。
そんな気がしていた。
「願いは必ず届く…か。」
親父が俺にたった一度だけ教えてくれた魔術。
それは『流れ星』という名の魔術だった。
「…親父も何かを願ったのか?」
その魔術に親父が何を願ったのかは知らない。
だがきっと。
親父も届かない想いを星に願っていたんだろうな。
「星に願いを…か。らしくねえ言葉だな。」
そんなことを考えながら、
話し合いが終わるのを黙って待つことにした。




