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THE WORLD  作者: SEASONS
4月18日
888/1242

魔女の予言

《サイド:米倉美由紀》



時刻は午前8時頃かしら。



ノーストリアムの町から街道を北に進んだ地点で陰陽師軍と激戦を行っているところよ。



「敵の進行を防げーーっ!!!」


「一部隊ずつ包囲して殲滅しろっ!!!」



悠護が率いる2千名ほどの遊撃部隊が戦場を駆け抜けて陰陽師の部隊を一つずつ潰してくれてる。



だけど圧倒的な数の差によって、

共和国軍も確実にその数を減らしている状況でもあるのよ。



「戦況はどうなっているの!?」



焦る私の声が戦場に響き、

周囲の伝令部隊が即座に報告してくれる。



「遊撃部隊が奮闘していますが圧倒的にこちらが劣勢です!敵の数が多すぎます!!」



叫ぶように答えた伝令部隊の魔術師に、

至近距離まで接近して来た陰陽師達が攻め掛かってきたわ。



「急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう炎神連舞えんじんれんぶ!!」



私も詳しくは知らないけれど。


陰陽師が扱う陰陽術の中でも上位の術式じゃないかしら?



陰陽師の手から放たれた護符が爆炎を巻き起こして伝令部隊を飲み込んでしまったのよ。



威力はバースト・フレア級かしら?



最上位まではいかないけれど。


上位魔術と同程度の威力はありそうね。



広範囲に撒き散らす炎によって、

周囲にいた魔術師達も被害を受けていたわ。



「ぐあああああああああっ!?」



炎の直撃を受けて倒れる魔術師達。


その様子に目をくれようともせずに、

陰陽師は死を恐れずに私へと突撃してくる。



「急々如律令!水神衝破すいじんしょうは!!」



今度は水系の陰陽術のようね。


陰陽師の護符が輝いた次の瞬間に、

数十本もの鋭い水の槍が現れて私に襲い掛かってきたわ。



周りを全部無視して、直接私を狙うつもりかしら?



総大将を狙う気持ちは理解できなくもないけれど。


大人しく殺されてあげるほど私は慎ましやかな性格じゃないのよ?



「邪魔よっ!アクア・ガード!」



突き出した右手の先に薄い光の幕が現れて、

迫り来る水の槍を全て受け止める。



そして。



「消えなさいっ!!」



左手に握るルーンを掲げて反撃を仕掛けたのよ。



「シャドウ・アウト!!」



何も知らない人が見れば影が震えたように見えたでしょうね。


私のルーンである『ナイトメア』が漆黒の光を放った瞬間に、

陰陽師達の足元の影がユラユラと揺らめいたからよ。



「なんだっ!?」



戸惑う陰陽師達だけど。


今更状況を把握しても手遅れなのよ。



もうすでに術中にいるの。


足元の影が陰陽師の体を捕らえて、

地中へと引きずり込んでいったわ。



『ズブズブ…ズブズブ…!』と、

地面に吸い込まれるように沈んでいく。



「なっ!?あ…っ!うぅぁっ!?誰か…助け…!!」



必死にもがく陰陽師達だけどね。



その努力もむなしく、

攻め込んできた陰陽師達の体は影に飲み込まれて消え去ったわ。



今頃はきっと地面の中で生き埋めになっているでしょうね。



「一人一殺というよりも、一点突破という感じかしら?」



戦術として指揮官である私を狙うのはいいけれど。


後方にいるからといって私が弱いなんて思わないでほしいわ。



…なんてね。



思ったりもするけれど。


この状況ははっきり言って良くないわね。



「ちょっとまずいわね〜。」



本陣にまで敵が攻め込んで来るなんて、

こちらが追い込まれている証拠でしかないわ。



このままだと本当に数の力に負けて壊滅しかねないのよ。



「何とかしないと…」



消えた陰陽師を気にせずに前線へと視線を向けてみる。



そして必死に作戦を考えようとするけれど。


都合よく逆転できる策なんてそうそう簡単に思い浮かんだりしないわ。



それこそ孤軍奮闘こぐんふんとうできる実力者でもいない限り、

数の差を埋めるなんて出来ないのよ。



「戦力が足りないわね…。」



数もそうだけど、質も問題なのよね。



ある程度は回復してるといっても、

こっちは砦を戦い抜いてきた魔術師達だけで構成されているのよ?



対するのは準備万端の状態で軍を進めてきた陰陽師達。



いくら敵地に攻め込んでいる状況といっても、

この差は致命的としか思えないわ。



「せめて共和国から援軍が来てくれれば…」



何とかなるでしょうけどね。


今はまだ援軍は期待できないのよ。



昨日の朝の時点で徴兵を開始したとして、

夜の時点でどれほど集まったのかは分からないけれど。


アストリアまでの移動時間を考えればどう考えても半日以上はかかるはずよ。



今朝の時点で出陣したとしてもここにたどり着くのは最速でも夕刻。



遅ければ夜中か明日の朝になるはず。



それまで持ちこたえられるかどうかすらすでに疑問を感じているところだけど。


そもそもの前提として援軍が来るかどうかも不明なのよね。



隣接するミッドガルムやセルビナの軍隊を牽制するために各地に部隊が派遣されるはずだからよ。



そうなればこちらに回す兵力は不足するでしょうし。


どうしても後回しになってしまうわ。



「こうなると当初の予定通り、アストリア軍の足止めだけを考慮して殲滅は諦めるしかないかしら?」



勝つのが無理なら負けないように努力するしかないのよ。



そもそもの前提として砦への援軍を足止めすることが目的なんだから、

砦を制圧した鞍馬元代表が駆けつけてくれるのを待つのが最善策になるはず。



「王都に進軍して兵器を破壊することも重要だけど、まずは部隊を存続させることが最優先よ。一人でも多くの戦力を維持するために、徹底的に守りを固めるわよ!」



無理をせずに堅実に戦い抜くこと。


その方針を悠護の部隊に伝えさせつつ後方から指示を出し続ける。



そんな私の側で様子を見ていた御堂君がついに前線へと動き出したわ。



「僕も行きます!」


「行くのはいいけど、戦えるの?」


「ええ、大丈夫です。魔力はすでに6割程度まで回復していますし、過去の経験から陰陽術の怖さは嫌というほど知っていますので心配しないでください。」


「そう?ならいいけど、敵の攻撃力は油断出来ないわよ。」



陰陽術と魔術はほぼ同等だからよ。



「軍の兵士とは別格だから慎重に行動しなさい。」


「分かりました!」



私の許可を得て戦場に飛び出す御堂君に続いて北条君も動き出すようね。



「しゃあねえ。俺も行くか!」



言葉とは裏腹に、表情は笑顔そのものよ。


強敵と戦いたくて仕方がないっていう雰囲気が感じられるわ。



「言っても無駄だと思うけど、無理はしないようにね?」


「ははっ!無理のねえ戦いなんてあるのか?陰陽師ってのが、俺より強いかどうか試してやるぜ!!」



私の忠告を笑い飛ばした北条君は、

迷うことなく戦場に向かって駆け出してしまったわ。



「…ったく〜!血の気が多いって言うか何て言うか…。無茶しなければいいんだけどね~?」



北条君を見送ってから、

最後に翔子も動き出すみたい。



「個人的な理由だけどね。こんな所で足止めを受けてる場合じゃないのよ。まだまだ先を急ぐんだから、陰陽師だろうと何だろうと、ささっと片付けるわよ!!」



初めて目にする陰陽師を恐れることなく、

翔子も戦場に駆け出したわ。



御堂君と北条君と翔子。


3人の後ろ姿を見送ってから、

私は残る3人に視線を向けてみる。



私の側にいるのは深海さんと悠理さんと武藤君よ。


深海さんは別としても、

悠理さんと武藤君では戦力にならないわね。



そんなことを思いながら3人に声をかけてみる。



「貴女達は無理に戦おうとせずに大人しくしてなさい。そうすれば助かるかもしれないわ。」



…助からない可能性もあるけどね。



それでも前線に出るよりはマシだと思うのよ。



…とは言ってもね~?



戦力が足りないのも事実なの。



御堂君達が頑張ってくれれば、

かなりの陰陽師を倒せる気がするけれど。


そこだけに頼るのはさすがに楽観的すぎると思うのよ。



まだまだ余裕なんてどこにもないの。


一人でも多くの戦力が必要なのよ。



だから私も戦場へと歩みを進めることにしたわ。



「雨宮!」



側に控えていた雨宮に呼び掛けて指示を出す。



「この子達のことは任せるわ。無理にとは言わないけれど…出来る限り守ってあげて。」


「了解しました。」



深海さん達の護衛に向かう雨宮を見送ってから、

再び前線へと視線を向けてみる。



「こうなったらもう本気で戦うしかないわね。」



出来ることならこの手段だけはギリギリまで使いたくなかったんだけどね。


さすがに劣勢の状況で泣き言なんて言ってられないわ。



力を出し惜しみしていられるような余裕はないの。



例えもう二度と元に戻れないとしても、

私は私に出来ることをやるしかないのよ。



「ったく…。こうなるとホントに美咲みさきの予言通りね。」



『貴女は一生、闇から逃れられない』と予言した魔女の言葉が脳裏をよぎってしまったわ。



「出来れば二度と会いたくないと思っていたけれど…。今は美咲の力が借りたいくらいね。」



それが無理な願いなのは知っているけれど。


それでも考えは止まらなかったわ。



「…ねえ、美咲。貴女は今…どこにいるの?」



共和国が秘匿ひとくする

『伝説の魔女』矢島美咲やしまみさき



彼女さえいれば3万の陰陽師も怖くはないわ。



おそらくだけど。


彼女ならこの状況も単独で蹂躙じゅうりんできるはずよ。



…でもね。



彼女はある日をさかい失踪しっそうしてしまったの。



共和国を捨てて。


世界を呪い。


歴史から姿を消してしまったのよ。



その後どうなったのか…私は知らないわ。



調べようと思えばすぐに調べられるはずなのに、

誰も彼女に近づこうとはしなかったからよ。



下手に彼女に近づこうとすれば精神を粉々に破壊されて廃人となって打ち捨てられる。



その惨劇を恐れて誰もが彼女から手を引いたらしいわ。



「カリーナにいるのは間違いないのに、情報だけが封じられてるのよね。」



…だけどもしも。



もしも私が助けを願っていたら、

美咲は助けてくれたのかしら?



事実はどうか分からない。



それほど仲が良かったわけじゃないし。


個人的には関わりを避けていたから、

助けを望んでも聞き入れてもらえない可能性の方が高かったかもしれないわ。



…だけどね。



それでも思ってしまうのよ。



共和国『最恐』と呼ばれた彼女さえいれば、

アストリア王国『程度』を恐れる必要もなかったのに…ってね。



「まあ、結局はないものねだりなのよね。」



共和国の手駒には天城総魔がいた。


それだけでも十分すぎるほど幸運だったと思うのよ。



それに、今は御堂君達もいるしね。



魔女の力は借りれないとしても、

絶望するにはまだ早いの。



「…美咲。例えこの行動が貴女の予想通りだとしても、私は闇には屈したりしないわ!」



想いを言葉にしてから『指輪』に視線を向けてみる。



「絶対に!闇に屈しない!!!」



視線を向けて見つめる指輪。



『シークレットリング』を外す時がきたのよ。



一瞬だけ煌めく体。


私は封印していた力を取り戻したわ。



…と、同時に。



『可能性』を失ってしまったのよ。



「く…っ!やっぱり、ダメだったのね…っ。」



心の奥底から沸き起こる魔性。



…意識が


…精神が。


…心が。


…魂までもが



闇の力に侵食されていく。



制御出来ずに溢れ出す闇の力が私の心を蝕んでいくのよ。



「…この感覚は、久しぶりね…っ。」



力を封じる前まで抱えていた苦しみ。



それは闇の深淵でもあり。


魔女の嘆きとも呼ばれる。



『精神汚染の地獄』



ありとあらゆる負の感情が私の心を掻き乱し。


ありとあらゆる負の感情が私の魂を狂わせる。



…私はね。



強くなるために力を封印していたわけじゃないの。



天城君や翔子のように、

新たな力を求めていたわけじゃないのよ。



…そうじゃなくて。



私が封印していたのは『闇の力』なの。



私自身でも扱いきれないほど強大な魔力を封じていたのよ。



だけど、封印は解かれてしまったわ。



その結果として封印から解放された力が私の心さえも蝕んでいくのが嫌でも感じられるのよ。



「私にはまだ…扱いきれないのね。」



伝説の魔女に匹敵するほどの闇の力。


だけど私は私自身の力が扱いきれないでいるの。



だから…封印していたのよ。



自分自身の力に負けないように。


誰も傷つけることがないように。


扱いきれない力を封印していたの。



だけどその封印はすでに解かれてしまったわ。



そして指輪の力で同じ能力を封印することは二度とできないの。



私の力はもう…二度と封印できないのよ。



「それでも…私はまだ諦めないわっ!」



闇の力には決して屈しない!



自分自身の力に呪い殺されるような結末だけは絶対に認めないわ!!



「私は…私よっ!!」



意思の力で、魔力の暴走を押さえ込む。


理性の力で、意識の消失を押さえ込む。



…私は私!!



他の何者にも…私の心は奪わせない!



「美咲…。どうせ聞こえているんでしょ?例えこの場にいないとしても、私の心は見えているんでしょ?だったら最後まで見届けなさい!私が私であるということを!そして…闇に屈しない心が存在するということを!!」



私は絶対に負けないわ。



例え私の魔力そのものが暗く重苦しい負の力を色濃く持っていたとしても。



私自身の『精神崩壊』の力になんて絶対に屈しない!



「見てなさい美咲。解放した私の力は悪夢どころのさわぎじゃないわよ。」



魔力の暴走を気合でねじ伏せてルーンを掲げてみせる。



『ナイトメア』から解放されたルーン。



魔杖の真の名は『デス』



共和国の歴史の中でも最凶と呼ばれる部類の悪魔の力よ。



「マインド・ブレイク!!!」



魔杖が輝いて暗黒の炎を生み出す。



「全てを…飲み込みなさい!!」



私の言葉を合図として魔杖から解き放たれる暗黒の炎。


呪われた炎が陰陽師の一部隊へと降り注いだ直後に。



「ぐああああああああああ!?」


「うおああああああっっ!?」


「がああああああっ!!!!!」



陰陽師達は頭を抱えて苦しみ始めたわ。



大地を転がり。


のたうちまわり。


やがてその動きを止めてしまう。



口を開いた状態で放心状態となる陰陽師達。



生きてはいるけれど。


死んでもいないという状況かしら?



だけど精神的にはもう終わりでしょうね。



心を破壊する私の魔術は文字通り即死能力があるからよ。



二度と立ち上がることのない陰陽師達から視線を逸らして別の部隊へと襲い掛かる。



「スパイラル・シャドウ!!」



魔杖が黒い光を放って陰陽師の部隊を包み込む。


その次の瞬間に陰陽師達の影が本人の体を襲い始めたのよ。



地面から伸びて体に取り付き、

体内へと侵食していく影。



それは物理的な威力よりも、

精神的な恐怖が強い精神攻撃になるわ。



汚染されていく体への恐怖によって陰陽師達は次々に混乱状態へと陥っていくのよ。



「さあ…狂いなさい。」



ある者は泣き叫び、

ある者は掴み取ることの出来ない影へと刃を突き刺して自害していく。



精神に影響を与える私の力の影響によって、

数百名の陰陽師達が瞬く間に戦闘不能に陥ったのよ。



自分でも恐ろしく感じるほどの影響力。


私の攻撃を見ていた仲間達でさえも恐怖を感じているでしょうね。



『負』の力を最大限に悪用する私の力は暴力とは違う意味で圧倒的な支配力を持っているのよ。



呪いとも呼ぶべき力を知った誰もが驚きを隠せずにいるのが分かるわ。



その中でも…特に動揺しているのは深海さんかしら?



『戦う為の力』



攻撃に特化した能力。


それは深海さんには存在しない力だからよ。



抱き抱えている精霊にはそれなりの攻撃力があると思う。



だけど深海さん自身の攻撃力は無に等しいでしょうね。



魔力を吸収出来る力があっても、

この状況では意味を成さないからよ。



敵は魔術師ではなくて陰陽師なの。


魔力を持たないから、

魔力の吸収が出来ないのよ。



そして魔力ではないから陰陽術を吸収することが出来ないし、

攻撃を受ければ直撃を避けられないの。



魔術での戦いにおいては絶対的な防御力を誇る深海さんも、

この戦争においては何の役にも立たなかったわ。



身体能力が低くて、敵の攻撃も回避出来ない。



攻撃しようにも詠唱が遅いせいで、

攻撃する前に反撃を受けるのは目に見えているわ。



はっきり言えば足手まといよ。



唯一出来ることは、

自らの魔力を誰かに分け与えることだけかしら?



だから余計に思うのでしょうね。


敵軍を制圧できる力が恐ろしい…と。



そして戦う力がない為に。


傍観することしか出来ないから。



だからきっと考えているはずなのよ。



戦う力が欲しい…ともね。



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