嘘
《サイド:天城総魔》
徹と愛里と合流してから再び正面玄関まで戻ってきた。
そしてそのまま扉に駆け寄って外へ脱出しようとしたのだが。
「侵入者が出て来たぞーー!!」
「決して逃がすな!!」
徹達を救出するために離れていた数分の時間差によって、
研究所の周囲は王都各地からの増援部隊に包囲されてしまっていた。
…やはり包囲されてしまったか。
この状況を避けるために退路を確保しておきたかったのだが、
研究所内を逃走中の徹と愛里の魔力が尽きかけていたからな。
救援を優先した結果として、
研究所の周囲はアストリア軍に包囲されてしまったようだ。
「包囲網を崩さずに全軍前進!」
一歩ずつ確実に研究所の包囲を狭めてくるアストリア軍。
その数は玄関から見えているだけでも数千規模に思える。
…だとすれば。
ここから外の状況を把握するのは難しいが、
完全に包囲されているとすれば1万を超える部隊がいるのではないだろうか?
…だからこそ言える。
やはりここにある兵器は本物なのだろう。
そうでなければ侵入者の殲滅のためだけに万単位の戦力を集めたりはしないはずだ。
これほどの戦力を集めてきたということが、
それだけ兵器の重要性を示しているように思える。
「こうなってしまった以上は強行突破以外に方法はないだろうな。」
隙を見て逃げるという手段は考えられない。
もしも包囲網に隙があるとすれば、
それは間違いなく何らかの罠だと思うからな。
逃げ道を探すよりも、
逃げ道を作り出したほうが生きて脱出できる確率は高いはずだ。
「戦うしかない。」
アストリア軍の様子を眺めながら戦う覚悟を決めることにする。
「徹、愛里。」
背後の二人に呼び掛けてから作戦を指示しておく。
「今から俺が包囲網を切り崩す。その瞬間を狙って二人は先に離脱しろ。」
「そんな…っ!!一人で残るつもりですか!?これほどの軍隊を相手に、一人では無謀ですっ!!」
…かもしれないな。
だが、やるしかない。
「全滅させるのは難しいかもしれないが、かく乱程度なら何とかなるはずだ。」
そもそも全滅させる必要がない。
兵器が起動すれば周囲一帯は吹き飛んでしまうはずだからな。
そうなれば戦わなくてもアストリア軍は全滅すると判断しているのだが、
俺の言葉に戸惑う徹に続いて愛里も反論してきた。
「かく乱といっても軍隊の数が多すぎます!天城さん一人では無理です!私達も協力させてください!」
…協力か。
ないよりはあったほうが良いとは思うが、
それは戦力になることが前提条件だ。
戦力にならない協力者は必要ない。
魔力が尽きて魔術の使えない二人がいても足手まといでしかないからな。
最後まで俺と共に戦おうとしてくれる二人の気持ちはありがたいものの。
どう考えても戦力としては期待できない。
「二人を守りながら戦うよりも一人の方が生存率は高いはずだ。俺のことは気にせずに徹と愛里は先に逃げろ。」
「「………。」」
俺の指摘によって二人は何も言えなくなってしまったようだな。
実際問題として、
二人の魔力は底を尽きかけている。
このままここに残っても魔術が使えない二人では戦力にならない。
足手まといが確実なら、
この場にいないほうが戦いやすいだろう。
その事実に気づいたのか、
冷静に状況を分析した様子の徹は悔しそうに唇を噛み締めながら愛里と手を繋いでから話し掛けてきた。
「…合流はどうしますか?」
個別に逃げればバラバラになることを心配しているのだろうが、その心配は必要ない。
他はどうか知らないが、
俺は魔力の波動を追跡することができるからな。
「心配しなくても魔力の波動を追えば位置の特定は出来る。合流に関しては何も気にせずにどこでも好きな場所へ逃げろ。ここを離脱次第、あとで俺が迎えに行く。」
もちろん俺がここで死んでしまった場合は徹達から俺や朱鷺田達を探すのは難しいだろう。
それでも自信を持って答える俺の言葉を聞いた徹は決意してくれたようだ。
「分かりました。僕と愛里ちゃんは一足先に研究所を離脱します!」
ああ、それでいい。
離脱を宣言した徹は愛里に振り返った。
「それじゃあ、愛里ちゃんも良いね?」
「…は、はいっ。」
まだ不安を隠しきれない様子の愛里は、
俺を一人で残していくことに罪悪感を感じているのかもしれないな。
…もう少し説得するべきだろうか?
あまりのんびりと話をしている暇はないが、
ここでもめている間にもアストリア軍は接近してきている状況だ。
早急に二人を離脱させるべきだろう。
「しばらく待てば朱鷺田と三倉も合流するはずだ。それまで耐えきれば離脱できる。だから心配する必要はない。」
「…あっ!」
どうやら説得に成功したようだ。
愛里の表情に笑顔が戻った。
「そうですよね!まだ朱鷺田さんと純さんがいるんですよね!」
「ああ、そうだ。」
まだ仲間がいるという事実を思い出したことで、
愛里はようやく笑顔を見せてくれた。
…だが、だからこそ愛里は気付いていないのだろう。
そして、徹も気付いていない様子だ。
俺の言葉が嘘であるということを二人はまだ気づいていない。
…だとすれば。
今はこの状況を利用するしかないだろう。
二人を安心させる為には嘘を続けるしかない。
「朱鷺田と三倉の二人と合流したあとに俺も研究所を離脱する。だからまずは徹と愛里で先に研究所を離脱して、どこか安全な場所へと身を隠せ。」
俺の言葉を素直に信じてくれたようだな。
二人は真剣な表情で指示を受け入れてくれていた。
「…分かりました。」
「全力で離脱します。」
大人しく指示に従う愛里に続いて徹も覚悟を決めたようだ。
「それでは申し訳ありませんが、あとのことは宜しくお願いします。」
「ああ。」
徹と愛里の表情を眺めてから、
再びアストリア軍へと振り返る。
「俺が攻撃を開始したあとは迷わずに走れ。決して振り返らずに全力で逃げろ。いいな?」
「「はい!」」
俺の問い掛けに二人は声を揃えて答えてくれた。
良い返事だ。
これでもう心配する必要はないだろう。
「またあとで会おう。」
別れの言葉を残してからアストリア軍に向かって駆け出す。
「全てを蹴散らす!!」
この程度の包囲網で俺を止めることなどできはしない!
わざわざ徹と愛里を説得するためだけに、
アストリア軍の接近を見逃していたわけではないからな。
目的があって包囲網が狭まるのを待っていたのだ。
「行くぞっ!!」
数千に及ぶアストリア軍の部隊へと突撃する。
…そして。
「ヴァルキリー!!!」
精霊の名を叫んだ瞬間に背後から天使が出現した。
これで準備完了だ。
あとは全力で暴れるのみ。
「外での戦いならば手加減の必要はない!全力で殲滅する!!」
攻撃を宣言した直後に天使の翼が光り輝いた。
キラキラと神々しく輝く純白の翼。
その羽の一枚一枚から残酷な程の力が発動することになる。
「これが真の破壊魔法だ。」
全てを蹂躙し。
全てを無に帰す究極の攻撃魔法。
圧倒的としか言いようのない最強の破壊魔法アルテマが天使の翼から発動した。
瞬間的に闇夜を照らす数百の魔術の核。
それらは死と絶望を撒き散らして、
アストリア軍の命を強制的に奪い去っていく。
「ぐああああああああああああっ!!!!!!!」
「うあああああああ!!!!!!!!!」
絶叫と悲鳴の断末魔。
深夜に轟く爆発音の中で、
アストリア軍の叫び声が近隣へと響き渡る。
その瞬間に、徹と愛里が駆け出した。
「行きますよ!」
「はい!」
二人で声を掛け合いながら駆け抜ける戦場。
俺の援護を受けながら走り続ける徹と愛里は無事に研究所を離脱したようだ。
その後も迷うことなく走り去る二人の後ろ姿を眺めてからアストリア軍へと振り返る。
これで立場は逆転だ。
「ここから先は俺が通さん!」
徹と愛里の追撃はさせない。
二人の命は必ず守り抜いてみせる。
「朱鷺田と三倉の願いの為に!あの二人は必ず守り抜く!!」
数千のアストリア軍に対して再び神剣を構えて精霊と共に戦場を駆け抜けていく。
いつ発動するかもしれない兵器との時間との戦いだが、
それでも逃げることなくアストリア軍へと攻め続ける。
…一人でも多くの兵士を殺せば、徹達の安全性が高まるからな。
そして同時に兵器の起動を急ぐ朱鷺田達の後方支援にもなる。
「仲間を殺させはしない!」
1秒でも長く時間を稼ぐために。
研究所での最後の戦いを続けることにした。




