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THE WORLD  作者: SEASONS
4月18日
865/1200

可能性は一人

《サイド:朱鷺田秀明》



「ぐあああああ…っ!!!」



地下通路に響き渡る兵士の悲鳴。



また一人、聖剣の刃を受けて倒れました。



ですが、戦いはまだ終わっていません。



最後の一人が残っているからです。



「この程度で私は止められませんよ!!」



全力で駆け出します。


そして聖剣マールグリナを最後の一人に向けて狙いを定めました。



「あなたが最後です。」


「う…うわああっ!?」



恐怖を感じて怯える兵士。


すでに戦う意思はないのかもしれませんね。



それでもここで兵士を見逃して天城さん達が襲われるようでは意味がありません。



戦う意志を持ってこちらに援軍を呼んでくれるのであれば野放しにする価値はありますが、

別の場所で余計な行動を取られては困りますからね。



後方の憂いを断つためにも、

邪魔な存在は排除しておきたいと思います。



「はぁぁぁっ!!」



怯える兵士の体に狙いを定めて、

掛け声と共に容赦なく刃を突き立てました。



刺突による心臓への一突きです。


治療の手段を持たない兵士相手ですので、

この一撃で兵士の死は確定したと言えるでしょう。



「ぐっ…うぅっ…!」



苦痛に歪む兵士の表情。


間違いなく死に至る激痛を感じているはずです。



絶望を表わにする兵士は、

刃を突き立てた私に対して必死に命乞いをしてきました。



「助…けて…。まだ、死に…たく、ない…」



涙を流しながら懇願していますが、

その願いを聞き入れるわけにはいきません。



局所的に見れば暗殺になるのですが、

大局的に見ればこれも戦争だからです。



「あなたがどう思うかは知りませんが…あなたと同じように死にたくないと願う人々は共和国にもいるのです。そのことを忘れないでください。」



兵士の命乞いを聞き流して、

静かに刃を引き抜きました。



肉をえぐる感触。



「うあああっ!!!」



激しい苦痛によって絶望に彩られる兵士の表情。


助けを拒まれたことで、

兵士は涙を流しながらそのまま息絶えて倒れました。



「…ふう。」



これで一区切りでしょうか。


追撃部隊は全滅したはずです。



地下通路に転がる多くの遺体から流れ出る鮮血が周辺一帯を『紅く』染めています。



見ていてあまり気持ちのいい光景ではありませんが、

これが私の選んだ道なのです。



いまさらあとに退くわけにはいきません。



「先を急ぎましょう。」



援軍を呼んで戻ってきた警備兵が引き連れてきた部隊は一掃しました。



もちろんこれはまだ序盤でしかありません。


増援部隊が来る可能性はまだまだあるのです。



出来ることなら全ての部隊を殲滅せんめつしたいところですが、

私一人で出来ることには限りがありますからね。



数の力に押しつぶされる前に、

早急に兵器を起動したいと思います。



「さて、これからですが…」



小さく呟きながら背後へと振り返ってみました。



その瞬間に。



「「「うわああああああっ!!!!」」」



私の存在に怯える数多くの職員達が悲鳴を上げていました。



「くっ、来るぞぉっ!!!」



誰かが叫んでいます。


その言葉をきっかけとして職員達は一気に混乱状態に陥ったようですね。



「に、逃げろーーーーっ!!!!」



慌てて走り出す数名の職員達。



あまり広くはない通路で、

私を避けながら逃げていく彼らの様子を黙って見送ることにしました。



どのみち、王都を攻撃するつもりですからね。


ここで見逃してもどうせ逃げ切れはしないでしょう。



それに戦う意思のない者達を殲滅するために余計な時間をかけている暇もありません。



余計な邪魔をしないのであれば、

非戦闘員は放っておいても問題ないのです。



そう判断してから、

残る職員達に宣告することにしました。



「逃げるのなら見逃します。ですが、抵抗するつもりなら容赦はしません。」



殺意を込めて冷酷に告げることで、

残っていた職員達も一斉に駆け出しました。



「「「うわああああああっ!!!」」」


「逃げろーーー!!!」


「階段まで走れーーー!!!」



必死の形相で駆け出す職員達。


その後ろ姿を見送ってから実験室へ歩みを進めようとしたのですが。



「兵器は渡さん!!」



実験班の責任者らしき人物が入口の前に立ちはだかっていました。



すでに忘れかけていましたが、

実験班の責任者は確か木之本という名前だったのではないでしょうか?



「言ったはずです。邪魔をするのならば容赦はしませんよ?」


「貴様ら魔術師に兵器を渡すくらいならば破壊した方がまだましだ!!!」



死を覚悟した木之本が慌てて室内へと駆け戻りました。



…なるほど。



その手がありましたか。



「敵の手に渡るくらいならば、いっそこの手で…!!」



必死に兵器へ駆け寄る木之本の手には整備用の工具が握られているようですね。



どうやら兵器を解体するつもりのようです。



…いえ。



時間的に解体は無理ですね。



背後に敵が迫る状況で出来ることには限りがあります。


おそらく損傷させるのが精一杯でしょう。



ですがそれは認められません。


兵器は起動させる必要がありますからね。



「破壊はさせませんよ。」



ここまで来て起動できませんでしたでは天城さん達に申し訳が立ちませんからね。



木之本が兵器を破壊する前に魔術を放つことにします。



「フレア・アロー!!!」



炎系上級魔術です。


幾百もの炎の矢が現れて、

木之本の頭上へと降り注ぎました。



「ぐああああああああっ!!!!!!」



炎の矢を浴びたことで全身を焼かれて苦しむ姿は少々可哀想な気がしますがこれも必要な戦いです。



見逃すことはできません。



「兵器は私がお預かりします。」


「くそっ…。」



兵器へ手を伸ばすことが出来ないまま、

木之本は力尽きてその場に倒れ込みました。



「兵器が敵の手に落ちるとは…っ」



私を止め切れず。


兵器も守り切れず。


破壊さえも出来なかった。



その絶望感を噛み締めながら木之本は生涯を終えたようですね。



「職務に対する熱意には敬意をひょうします。」



最後まで抗おうとした木之本の最期を見届けてから再び歩みを進めようとしました。



…ですが。



戦いはまだ終わっていなかったようです。



「「突撃するぞーー!!!!」」



地上からの追撃部隊が再び接近しようとしていました。



「さすがにこれはキリがないですね。」



せめて兵器を起動する時間だけでもいただけるとありがたいのですが、

そうそう上手くはいかないようです。



向こうも必死のようで、

なかなか時間を与えてくれません。



「ふう。仕方がありませんね。」



これも自分で選んだ道です。


最後までやり遂げましょう。



大広間へと続く通路に振り返ってみると、

視線の先に新たな警備兵達が集まっていました。



「数はそれほど多くなさそうですね。」



短時間で終わらせるために攻め込もうと考えたのですが。



「ぐあああっ!?」



一掃する前に状況が急変しました。



「がぁぁぁっ!!」



突如として響き渡る兵士達の悲鳴。



「どうした!?何が、あっ…?」



振り返って後方を確認する兵士の言葉が最後まで語られることはないまま、

言葉を詰まらせた兵士は階段を転がり落ちてきました。



『ドサドサドサドサ…ドスンッ…』と、通路に転がる兵士の遺体。



その体は無残なほど焼け焦げています。



「何が…?」



何が起きているのでしょうか?



「事故か何か…?」



事情が飲み込めずに戸惑う私の視線の先で、

今度は突然大きな爆発が起きました。



爆風と閃光。


これは間違いなく魔術の光です。



「ぐああああっ!!!」


「うわあああああっ!?」



再び通路に響く兵士達の悲鳴。


その直後に通路は静寂に包まれました。



「………。」



もはや動ける兵士は一人もいないようですね。


間違いなく全滅しているように思えます。



「これはつまり…」



誰かが駆けつけてくれたということではないでしょうか?



ですがこれは天城さんではないはずです。



彼は私の代わりに三倉さん達を撤退させる役目を担ってくれました。



その彼がここへ来るとは思えません。



「だとすればこれは…」



可能性は一人しか思い浮かびませんね。



現在、この研究所にいる魔術師は5人だけのはずだからです。



その内の一人が私であり。


もう一人が天城さんですが。



残る3人のうちの誰なのかは考えるまでもないでしょう。



栗原さんと琴平さんは攻撃魔術が使えないからです。



不可能ではないですが、

兵士達を全滅させるだけの技量が彼らにはありません。



そうなれば残る可能性は一つだけです。



静かに階段を見つめていると、

何者かの足音だけが『コツン…コツン…』と、通路に響き渡りました。



「あまり嬉しくはない援軍ですね…。」



できれば逃げて欲しかったのです。



ここに来ることなく、

王都を離脱して欲しかったのです。



それなのに。



ゆっくりと階段を下りる人物は堂々とその姿を見せてくれました。



「やはり、三倉さんなのですね…。」



私の視線の先には階段を下りる三倉さんの姿がありました。



「…ふう。ようやく追い付いたわ。」



死地にたどり着いたというのに、

三倉さんは笑顔を浮かべていました。



「まだ生きてて良かったわ。これでも結構、心配してたのよ?」



逃げようともせずに歩みを進める三倉さんですが、

私は焦りを浮かべながら話し掛けることにしました。



「何故ここにっ!?ここは私一人で十分です!!三倉さんは急いで撤退してください!!」



全力で叫んでみたのですが、

三倉さんに逃げるそぶりはありません。



ただ優しく微笑むだけでした。



「ん〜?逃げる?馬鹿を言わないでくれる?私も一緒にここに残るわよ。」


「は…?何を言って…」



戸惑う私に対して、

三倉さんは笑顔を絶やすことなく答えてくれました。



「一人で格好つけようなんて思わないでよね?そんなの私は絶対に許さないわ。付き合いは短いけど、ここまで一緒に戦ってきた仲間でしょ?それなのに…あなた一人を犠牲にして生き残っても嬉しくなんてないのよ。誰かが犠牲にならなければいけないのなら、私もそうで在りたいの。」



私を一人にはしたくない。


そう言って三倉さんは私の前まで歩み寄りました。



「一人なんて寂しいでしょ?だから私が最後まで付き合ってあげるわ。」



私の瞳を見つめて微笑む三倉さんの笑顔には一切の迷いが感じられません。



「三倉さん…。」



予想外の仲間の登場に少し動揺してしまいました。



自分一人で終わらせるつもりだったのに、

三倉さんは自らの意志でここへ来てしまったからです。



全てを受け入れて、

死を覚悟して、

地下へとたどり着いてしまったのです。



その気持ちを察した私は、深く、深く息を吐きました。



「兵器が発動すればおそらく助かりはしないでしょう。それでも宜しいのですね?」


「ええ、構わないわ。私達の犠牲と引き換えに戦争が終わるのなら…。そして愛里ちゃんが助かるのなら…。悔いはないわ。」



…なるほど。



琴平さんのためですか。



何があってそこまで彼女のことを気にかけるようになったのか私には分かりませんが、

ここまで来てしまった三倉さんを追い返すのは不可能だと理解してしまいました。



「説得しても無理なのですね?」


「ええ、あなたを残して逃げるつもりはないわ。」


「…そうですか。」



ならば一緒に脱出を…などと言える立場ではありません。



兵器は起動しなければならないからです。



三倉さんの命よりも、

共和国の存続を優先させることが私の義務なのです。



「…でしたらもう何も言いません。」



ここで言い争いをする時間さえ私達にはないのです。



「ご自由にしてください。」


「ええ、最初からそのつもりよ。」



私が説得を諦めたことで三倉さんは私に背中を向けました。



「ここは私が守ってあげるわ。だから、あなたは兵器を起動して。」



…私が守る、ですか。



本来なら私が言いたい言葉なのですが、

今となってはもう三倉さんの説得は不可能でしょう。



三倉さんの気持ちを素直に受け入れて、

機械室に向かうことにしました。



「あとのことはお願いします。」


「ええ、任せておいて。何があっても、ここは守り抜いて見せるから。」



話し合いを終えたことで、

三倉さんは地上へと続く階段の側へと歩みを進めて行きました。


その後ろ姿を見送ってから私も作戦の遂行の為に行動を開始します。



「急ぐ理由が増えてしまいましたね。」



三倉さん一人に無理をさせるわけにはいきません。



蒸気機関を動かして兵器を発動させる為に。



急いで機械室に向かうことにしました。




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