手加減なし
《サイド:天城総魔》
…騒がしくなってきたな。
おそらく朱鷺田の戦いが始まったからだろう。
研究所内は大混乱に陥っている様子だ。
援軍を呼ぶ兵士の声が研究所内に響き渡り。
消火活動を行っていた兵士達が一斉に研究所内へと駆け込んで来ている。
各地で混乱が広がって騒然となる研究所。
仕事を終えて休んでいた職員達が戦闘に巻き込まれることを恐れて慌ただしく逃げ出す様子を眺めながら、
俺と三倉は安全装置のある部屋に向かって急ぐことにした。
「もうすぐだ。」
向かうべき場所は案内図に書かれていた立入り禁止区域になる。
進むべき道は地下に向かう階段ではなく。
2階へ繋がる階段でもない。
受付の裏側を回り込むように伸びる『ユ』の字型の通路だ。
北部の突き当たりまでたどり着ければ目的地になる。
その道中で時折、研究所の職員と遭遇するものの。
職員達は侵入者である俺と三倉を見た瞬間に怯えながら慌てて逃げ出して行った。
どうやら全ての職員が地下にいたわけではなかったらしい。
こんな夜中まで仕事をしていたのだろうか?
どういう役割があるのかは分からないが、
交代要員として待機していたのかもしれないな。
「ん~?こっちには兵士がいないのかしら?」
疑問を口に出す三倉だが、
その次の瞬間に疑問は解決することになる。
「侵入者を見つけたぞーー!!」
大声で叫ぶ警備兵達が背後から駆けつけてきたからだ。
複数で攻め寄る兵士達を眺めながら、
三倉は小さく溜息を吐いていた。
「…ったくぅ。派手に暴れるから騒ぎになるのよ…。もっと控え目にしてくれればいいのに〜。」
朱鷺田に対する苦情を呟いているが、
いまさら言っても手遅れだ。
こうなった以上は戦うしか選択肢はない。
「とりあえず迎撃するわ!」
三倉が両手を兵士達に向けて突き出した。
「ダンシング・フレア!!!」
炎系最上級魔術だな。
学園で学べる魔術としては間違いなく最高位の魔術が発動した瞬間に。
踊り狂う膨大な炎が狭い通路を焼き尽くした。
「ぐああああああああっ!?」
「うわああああああっ!!!」
壁を焦がして通路そのものを燃やす炎によって、
迫りつつあった兵士達は炎の中に飲み込まれていく。
「体が…焼けるっ…!」
「うあああっ!!」
数百度に達する灼熱の炎だ。
狭い通路で燃え盛る炎に手加減は出来ない。
学園の試合場ではなく、
魔術を軽減する効果のないこの場所での魔術は『真の力』を発揮してしまうことになる。
戦闘に特化した『力』であり。
破壊の為の『力』だ。
人の力を遥かに越えた一方的な暴力。
圧倒的とも言える魔術によって、
十名近い兵士達は成す術もなく力尽きていった。
そのあとに残るのは、人の焼ける臭いだけだ。
悪臭とも言うべき臭いが通路に広がっていく。
「ちょっと急いだほうが良いわね。」
追っ手が迫って来ていることで、
三倉が通路を進んでいく。
目的の部屋はすぐ近くにあるはずだからな。
数分もせずにたどり着けるだろう。
だが今の騒ぎを聞き付けた別の警備兵達が再び迫りつつあった。
「侵入者がいたぞーー!!」
兵士の一人が叫び。
多くの仲間を引き連れながら駆け寄って来る。
その勢いを眺めながら、
三倉に話し掛けることにした。
「ここは俺が引き受ける。三倉は先に進んで安全装置を解除しろ。」
「ええ、分かったわ。任せておいて!」
全力で駆け出す三倉を見送ってから、
一人で残った俺は迫り来る兵士達に向けて力を発動する。
生まれる力は光り輝くルーンだ。
神剣『ザ・ワールド』
世界を意味する神剣は神秘的な光を放ち、
迫り来る兵士達に恐怖を感じさせるに足りる迫力がある。
「…朱鷺田の想いを無駄にするわけにはいかないからな。悪いが消えてもらう。」
通路を塞ぐ兵士達に対してルーンを構える。
「全てに終焉を…」
剣を振りかざして魔術を放つ。
「オメガ!!」
残虐なほど圧倒的な破壊力を持つ衝撃波を放った。
その破壊力はダンシング・フレアの数倍に及ぶだろう。
炎のような永続的な効果は望めないが、
一瞬の破壊力だけを見れば並の魔術をはるかに上回るはずだ。
それほどの攻撃によって研究所の壁を…
天井を…
そして通路を…
全てを破壊しながら突き進む衝撃波は、
通路にいた兵士達を容赦なく吹き飛ばした。
「うあああああああっ!?」
「な…あっ…!?ぐああっ!!」
破壊の衝撃に飲まれて吹き飛ぶ兵士達。
その身を守る鎧は砕け。
武器を落とした兵士達は後方の壁へと叩き付けられていった。
それにより研究所が揺れるほどの激突音が周囲に響き渡る。
「ぐっ…うっ…!」
壁に激突する衝撃によって、
多くの兵士達が絶命したようだ。
あるものは頭部が粉砕して、
あるものは体がちぎれ飛んでいる。
移動方向は水平とは言え、
数十メートルの距離を強引に吹き飛ばされたからな。
激突時の衝撃は即死級の威力になっただろう。
辛うじて生き延びた兵士達もいるようだが、
死なずに済んだというだけでとても動ける状態には見えない。
反則とも言うべき実力差があるからな。
訓練を詰んだ兵士といえども、
魔術師には敵わない。
その差はあまりにも大きく。
生き残った兵士達を絶望させるには十分過ぎる現実だったはずだ。
「…バケモノめ…。」
呟く一人の兵士が、
そのまま意識を失って力尽きた。
その様子を眺めながら一人で呟く。
「バケモノか…。確かにそうかもしれないな。」
自分で巻き起こした惨劇。
倒れる兵士達の死体を眺めながら、
ルーンを強く握り締める。
「人を越えた力。それはもう…人ではないのかもしれないな。」
『バケモノ』であり。
『悪魔』でもある。
魔術師という存在に怯える者達がいたとしても、
それは決して不自然なことではないだろう。
もしも俺が逆の立場だったなら、
理不尽な力に対して絶望を感じていたかもしれない。
「だがそれでも、俺はこの力で目的を果たすと決めたのだ!」
力強く宣言する俺の視界に新たな警備兵達が入り込んできた。
「侵入者を見つけたぞーー!!」
三度、叫んで迫り来る警備兵達。
その集団に向けてもう一度ルーンを構える。
「アストリア王国に滅びを…。」
俺自身の復讐を果たすために。
再び魔術を発動させることにした。




