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THE WORLD  作者: SEASONS
4月4日
86/185

食欲

《サイド:美袋翔子》



総魔と試合の約束をしたあと。


ひとまず私は沙織と一緒に食堂に向かうことにしたわ。



理由としては単純にお腹が空いたっていうこともあるんだけど。


総魔との試合に万全の状態で挑みたいっていう気持ちがあったからよ。



特に私の場合、一部とはいえ総魔に魔力を奪われてしまってるしね。



眠っている間にほぼ回復したけれど、

それでもまだ本調子とは言い切れない状態なのよ。


だからまずは食事をしっかりとって体調を整える事にしたの。



…今日も大盛況ね。



人ごみをかき分けて食堂に入ってみる。


すでに食堂は大勢の生徒達が集まっていて騒がしいほどの賑わいを見せているわ。



時間的にはまだまだお昼時という事もあって各所でかなりの混雑が見られるわね。



「うわ~。いつも思うけど、面倒よね~」



あまりの人の多さにうんざりとした表情を浮かべていると、

私を見ていた沙織は小さく微笑んでから歩みを進めていったわ。



「ふふっ。翔子はいつものでいいんでしょ?私が取ってきてあげるわ」


「え~。いいわよ、そんな気を使わなくても」


「大丈夫よ。翔子は向こうで待ってて、ね?」



可愛らしい笑顔で背中を押されてしまったのよ。


こうなると断りづらいわね。


仕方がないから、

しぶしぶ空いている席に腰を下ろして沙織が帰ってくるのを待つことにしたわ。



…でも今はじっとしてる方が落ち着かないかも?



妙にソワソワしちゃうんだけど。


それでも大人しく待っていたら、

席を確保してから数分後に食料を確保した沙織が帰ってきてくれたのよ。



「おかえり~」


「ただいま、翔子。はい、どうぞ」



沙織に差し出されたのはいつも食べてる菓子パンよ。


大事な試合前に菓子パンを食べるのはどうかな?って自分でも思うけれど。


日々の習慣だからあまり深く考えない事にしたわ。



…というよりも。



混雑する列に並んでまで、

まともなご飯を食べようと思わなかっただけなんだけどね。


お手軽簡単に食べられるのなら

余計なストレスを感じなくていいと思うのよ。


そんなふうに考えつつ、

いつものように菓子パンを手にとってみる。



うんうん。


今日も焼きたて熱々ね。


この出来たて感が良いの。



「いっただっきま~す!」



…うんうん。



今日も美味しいわ。


嬉しそうにパンをかじる私の姿を沙織は楽しそうに見つめてる。



だけどね?



「ふふっ、いただきます。」



行儀よく両手を合わせて挨拶をしてから食事を始める沙織も軽食だったりするのよ。



今日は紅茶とサンドイッチみたい。


沙織の食事の仕草にはそこはかとなく優雅さが滲み出てる。



まるでどこかの国のお姫様と思えるほど気品が溢れているのよ。


そんな沙織の存在によって、

ごく普通にパンをかじる私の姿が周囲からは愛らしく見られるらしいわ。



…う~ん。



謎よね?


どうして同じように食事をしてるはずなのに、

こうも違いが出るのかしら?



別にね。


私の行動に問題があるわけじゃないはずなのよ。



…って言うか。



気品を感じさせるパンの食べ方って何?


ちょっと意味がわからないわ。


そもそも私だけを見れば普通なはずなのよ。


むしろ他の女子生徒より可愛く見える自信はあるわ。



だけど比較対象として沙織がいるせいで、

私の行動が無作法に見えてしまうらしいのよね。



…これはもう仕方のない部分なのかな?



どうあがいても沙織には勝てないからよ。


まあ、だからと言って真似ようとも思わないけどね。



自分には似合わないと思うし。


気品とか優雅とか、

そういう言葉は不釣合だと思うから。


そんなことは誰よりも私自身が理解してるわ。



だから周りの視線なんて気にせずに堂々と自分らしく行動してるんだけど、

その前向きな姿勢が私の評価を上げてしまって逆に目立つようになってるみたい。



学園でも超がつくほど有名な私と沙織。



そんな私達が食堂にいることで数多くの生徒達が視線を向けてくるんだけど。


楽しそうに食事をしている私達に近づくような野暮な生徒はいなかったわ。



ただ一人を除いては…だけどね。



「よう!!」



何の迷いもなく私達に近付いてきて、

空いている席に座る男子生徒。


見慣れた人物に私達は揃って笑顔を返す。



「お疲れ様」



優しく声をかける沙織に続いて、

私も笑顔を見せておく。



「お疲れ~」


「はっ、ぶっ倒れてたお前ほどじゃねえけどな。」



…うわっ。



「その言い方はひどくない?」


「言ってろ。っていうか、俺達が何を言っても聞かねえくせに、あいつにはちゃんと話せるってのはどうなんだ?」



…う~ん。



どうって言われてもね~?


そこはまあ、ほら。



「信頼関係ってやつ?」


「意味がわかんねえよ」


「だって、あんたはともかく、沙織には心配かけられないでしょ?」


「そこからしておかしいだろ?」


「え~?どうしてよ~」


「どうしてじゃねえだろっ。俺を部外者扱いするんじゃねえ!」


「だって、わりと本気でどうでもいいもん」


「くそっ!相変わらずむかつくやつだな」



ふっふ~ん。



「私は沙織さえいればいいの♪部外者は黙ってなさい」


「ちっ!人が心配してやってるってのに、結局その態度かよ」


「頼んでませんよ~だ」


「ったく、お前はっ!」



ちょっと言い過ぎたかな?


真哉の手がテーブルに殴りかかりそうな勢いでぎゅっと握り締められた瞬間に。



「はいはい。そこまでにしてね」



のんびりと様子を見ていた沙織が仲裁に入ってくれたのよ。



「仲がいいのは分かったから、食事を済ませてしまいましょう。あまり騒ぐと他の人達の迷惑になってしまうわ」



自分を巻き込むだけならいいけれど、

他の生徒にまで迷惑をかけるべきじゃないっていう強い意思がはっきりと伝わる物言いだったわね。



「話は後で、ね?」



甘く優しい笑顔で二人の仲裁を行う沙織に周囲から羨望の眼差しが集まるけれど。


当の本人はそんな視線を気にもせずに気品あふれる仕草で紅茶に口をつけて一息ついてる。


そんな沙織のいつもと変わらない行動を見て気が抜けたのかな?


笑顔に戻った真哉は手にしていた昼食を食べ始めたわ。



「まあ、沙織の意見ももっともだな。飯が冷める前に食っちまうか」



私との口論をさらっと流して食事に視線を向けたんだけど。


真哉の視線の先にある料理は軽食で済ませる私達とは決定的な違いがあるわ。



真哉が運んできたご飯の量は、

私と沙織を足してから二倍してもまだ追いつかないくらいの量なのよ。



…相変わらず異常よね〜。



「いつ見ても胸焼けする量だと思わない?」


「…え、ええ。そう、ね。」



私と沙織からすればすでに見慣れた光景ではあるんだけど。


だけど真哉のことを知らない周囲の生徒達からは次々と驚きの声が上がっているのが聞こえてくるわ。



「今日はまた一段と豪勢ね〜。」


「まあな。」



何となく指摘してみると、

真哉は頭を掻きながら答えてくれたのよ。



「今朝は食う暇がなかったから腹が減ってんだ」



…ああ、うん。



そういうことね。


今の一言で気付いたわ。


朝一番に私が倒れた事によって急きょ呼び出された真哉は今の今まで食事の暇がなかったっていうことに。



「…ごめんね。」


「ははっ。別に大した事じゃねえよ。」



素直に謝ってみると。


真哉は笑顔を返してくれたわ。



「食い逃した分は今から食えばいいんだからな」



…う〜ん。



そういうものなのかな?


ちょっと無理があると思うんだけど。


胃袋って大きさが変わったりするのかな?



食べられなかった分も食べると言って笑う真哉につられて私も笑顔を浮かべてしまったわ。



「ほんと、バカなんだから」


「あ~?お前には言われたくねえな」



文句を言い合いながらも豪快に食事を続けてる。


そんな私達の会話を隣で聞いてる沙織も微笑みを絶やさなかったわ。



「ふふっ。本当に仲がいいわね」



…え~?



そうかな~?


わりと本気で不本意なんだけど?



「私はそう思うわ。」



…う~ん。



「納得いかないんだけど?」


「そう?」


「うん。」



本気で納得できないと考えて全力で頷いてみたんだけど。



「ふふっ」



何故か笑われてしまったのよ。



「今のはちょっと感じ悪くない?」


「あら、そう?ごめんなさい。」



指摘した瞬間に沙織は頭を下げてしまったわ。


こうなると私が悪役になったみたいで、

どうしようもなくいたたまれない気持ちになっちゃう。



…ぁぅぅ〜。



謝ってもらうようなことは何もないのに、

本気で謝られるとどうしていいかわからないのよ。



…ど、どうしよう。



沙織の謝罪に困ってしまったのに。



「ははっ。親友に頭を下げさせるとか、怖えな」



前方からは悪意が降り注いでくるのよ。



「はあっ!?元はといえば、あんたが絡んできたからでしょっ!?」


「お前ほどじゃねえよ。」



…ったく〜!



ホントに迷惑なんだけど。


今はこんなバカに構ってる場合じゃないわ。



「私は沙織一筋なのよ!」



バカを無視して沙織を抱きしめる。



「ごめんね、沙織。」


「ふふっ。」



お互いに謝って仲直り。


これが私達の日常でもあるのよ。



「私も翔子が好きよ。」


「うん♪ありがと。」



バカを無視して沙織と笑い合う。


そんな私達を気にせずに、

真哉は食事を優先していたわ。


パンという軽食ですぐに食事を終えた私達とは違って、

数々の定食をひたすら食べ続ける真哉は10分ほどが過ぎてからようやく箸の手を止めたのよ。



「はあ~。腹一杯」


「むしろ食べ過ぎじゃない?」


「これくらい普通だろ?」



そんなわけないでしょ。


何人分食べたと思ってるのよ?



「胃に穴が開いてるんじゃないの?」


「はあっ!?」



真哉は不満気だったけど。



「ふふっ」



沙織は微笑ましそうな雰囲気で率先して食器を片付けてくれていたわ。



「少し待っててね。食器を片付けてしまうから」


「あ、だったら私も運ぶわよ」


「翔子はいいわ。ゆっくり休んでて」



3人分の食器を集めてから全て返却しようとする沙織に手伝いを申し出てみたけれど。


やんわりと手伝いを断って一人で全てを片付けてしまったのよ。


そしてものの数分でテーブルの上からは何もなくなってしまったわ。



「さて…と。」



沙織が帰って来るのを見計らってたのかな?


休憩を終えた真哉が私達に話しかけてきたのよ。



「これからどうするかだが、ひとまず俺の話を聞いてくれるか?」



真面目な表情で話す真哉を見て、

私達は無言で頷いてた。


さすがの私もね。


真剣な表情を見せる相手に余計なことは言わないわ。


そこまで自己中じゃないし。


ちゃんと空気くらい読めるんだから。



「まあ、ここじゃなんだ。いつもの場所でいいか?」



場所を変えようと提案しつつ席を立つ真哉に促されて私達も席を立つことになったわ。


時刻はすでに午後2時を過ぎているけれど、

まだまだ食堂の混雑は終わりそうにないしね。



真剣な話をするのにこの騒々しさは耳障りだから、

食堂を離れて場所を変える事にしたのよ。



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