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THE WORLD  作者: SEASONS
4月17日
846/1190

情報戦

《サイド:天城総魔》



更衣室の一画。


おそらくは休憩用に置いてあるのだろう。



俺達は小さなテーブルを囲んで集まることにした。



あまりゆっくり話し合っている時間はないのだが、

闇雲に行動しても問題の兵器にたどり着くことはできないからな。



まずは研究所内の調査を行って、

兵器が存在するのかどうかを確かめなければならない。



そのための話し合いを行うのだが、

すでに必要な書類はそろっている。



受付で回収した一枚の案内図と一冊の名簿。



これらを使えば上手く兵器にたどり着けるはずだ。



もちろんこの研究所に兵器があれば…という前提にはなるが。



「まずはどこから調査を始めるかだな。」


「そうですね。問題は『兵器』がどこにあるのかという部分なのですが…。」



案内図を眺めながら呟く朱鷺田も頭を悩ませている。



兵器がどういったものなのかが分からないからな。



図面によって研究所内の位置関係は把握できるが、

どこに向かえばいいのかまでは分からない。



共和国を攻撃できるほどの兵器の重要度を考えれば研究所の最奥にあると考えるべきだとは思うが、

それが正解とは限らないだろう。



図面を見る限り研究所は2階建てになっているものの。


特に気になるような部屋はなさそうに思える。



開発室や研究室はあるのだが、

どれも部屋の規模は小さいようだ。



兵器自体が小型であるとすればそれでもいいのかもしれないが、

隣接する各部屋が実験用具保管室であったり資料室であったりするためにあまり重要度が高くないように思えてしまう。



もしも兵器が存在するような重要度の高い部屋だとすれば警備兵の詰所や防衛用の設備が周囲にあるはずだ。



だが、それらしきものがあるようには思えない。



対外的な情報として本来の用途を隠しているということは考えられるが、

ここにある案内図は受付の女性から盗み取ったものだ。



案内すべき人物が本来の情報を知らないということは考えにくいだろう。



ここにある案内図は事実だと判断していいはず。



だとすれば。


二階を調査する価値が少ないように思える。



そして今いる1階には幾つもの部屋があるようなのだが、

ほとんどが物置や倉庫として記されている。



他にも複数の部屋があるものの。


資料室や会議室等の名前が記されているだけで兵器を保管しているような場所はどこにも見当たらない。



「ここではなかったのでしょうか?」



不安を感じて心配する愛里だが、

その判断はまだ早いだろう。



まだ『分からない部分』があるからな。



ただ一つ気になることがあるために、

図面を指差しながら話を切り出すことにした。



「ここに『下り階段』が記されている。案内図に地下の図面は書かれていないが、おそらく地下の存在を隠す為に、あえて書かなかったのだろう。」



案内を主とする受付といえども全てを把握しているとは限らない。



人質として囚われたり買収されて裏切られる可能性がないとは言い切れないからな。



ある程度までの情報は教え込むとしても、

機密に関する部分までは関わらせないのが当然の判断だろう。



地下の存在は伝えても、

地下の詳細は教えない。



その判断は十分にありえるはずだ。



「実際に潜入してみなければわからないが、地下があるのなら研究所内の警備が手薄なのも頷ける。」



兵器ともども警備兵達が地下にいるとすれば、

詰所や防衛設備が研究所内に存在しない理由も説明できる。



意図的に隠された地下の存在。


それを確認したことで徹が問い掛けてきた。



「単純に倉庫として使用しているとしたら、書く必要がないと判断された可能性も有りますよね?」



もちろんその可能性は否定できない。



だがもしもそうだとすれば、

この研究所には本来『在るべきもの』が存在しないことになる。



「もしも徹の考えが正しいとすれば、この研究所には在るべき『場所』がない。」


「…あっ!そうか、実験室ね!?」



俺の指摘を聞いて、

三倉が最初にその事実に気付いたようだ。



「ああ、そうだ。」



案内図のどこにも実験室がなかった。



「この研究所には本来なら在るべきはずの実験室が存在していない。何かを研究する為には、必ず必要になる部屋が案内図のどこにも記されていないからな。だとすれば、それは『書くことが出来ない場所にある』ということだ。」



案内図に存在しない『実験室』


それが地下に在ると推測した。



「この階段から地下に潜入して、どこかにあるはずの実験室で『兵器』の有無を調査する必要がある。」


「そうなると…?」



俺の考えを聞いた朱鷺田が真剣な表情で一つの可能性を言葉にした。



「地下への通路は警備で固められている可能性がありますね。」



ああ、そうだな。


だが、だからこそ行く価値がある。



「警備が厳重であればあるほど、その先に兵器がある可能性が高くなるはずだ。」



研究所はそれほど広くはないからな。



「地下の状況は分からないが、強行突破を行って兵器を破壊してから脱出するまでに、それほど時間はかからないだろう。」


「兵器の破壊ですか。いよいよ本格的な戦闘になるわけですね。」



気合を入れなおす朱鷺田だが、

ここで一つの提案をしてみる。



「その前に地下の調査だけなら安全に行う方法がある。」



兵器の破壊までは無理だと思うが、

接近するだけなら安全に行う方法がある。


その方法を示すために、

受付から持ち出した名簿を手にとってみせた。



「この名簿には研究所に所属している職員の名前が記されているようだ。これを有効に使えば地下への侵入はたやすいだろう。」



諜報は情報戦だ。



一つでも多くの知識が真実にたどり着く力となる。



「なるほど…。確かにそれがあれば『警備の突破』は、たやすいでしょうね。」



朱鷺田は気づいたようだな。


だが俺達の間で進む話に徹達は理解が追い付いていない様子だった。



「名簿でどうするんですか?」



首をかしげる徹に、

ひとまず名簿を差し出してみる。



「中を見れば分かる。」


「………?」



首を傾げながらも、

徹は言われるままに名簿の内容に目を通していった。



名簿の中身は履歴書程度に記された情報だ。



職員の氏名と所属部署。


年齢や生年月日。


血液型や身体検査の記録なども記されているが、

基本的な個人情報が記されているだけでしかない。



これだけの情報では警備を突破出来るような方法など書かれているようには思えないかもしれない。



「これが何か?」



答えがわからずに戸惑う徹に朱鷺田が答える。



「ここで重要なのは氏名と部署です。それだけを覚えておけば、職員になりすまして警備を通り抜ける事は可能です。さすがに5人全員ともなれば不審に思われるでしょうが、一人か二人程度であれば上手くごまかせるでしょう。」


「ああ、なるほど。」



朱鷺田の説明を受けたことで、

徹は再び名簿に視線を落とした。



「ざっと見て100人ほどいるようですね。」



それら全ての情報を短時間で暗記するのは俺でも不可能だ。


百人近い人数の氏名を全て覚えるのは難しい。



だが、部署名だけなら数は多くない。



『実験班1』『研究開発班』

『実験班2』『実験器具開発班』

『資料作成班』『分析調査班』



それら6種類だけで、

それぞれの部署には責任者がいる。



「最低限。部署名と責任者の名前さえ覚えていれば職員になりすますことは出来るでしょう。」



朱鷺田の説明を受けた徹は部所の名前と責任者の名前を全て頭に叩き込んだようだ。



「まあ、この程度でしたら僕でも暗記出来ますが…。名前を覚えただけで警備を抜けて地下に行くことなんて出来るのでしょうか?」


「それは貴方の努力次第ですよ。」



不安を口にする徹だが、

朱鷺田は笑顔で答えていく。



「失敗すれば騒ぎになりますが、どちらにしても最終的に争いは避けられません。それが遅くなるか早くなるか、ただそれだけのことですよ。」



気楽に答える朱鷺田の言葉を聞いた徹は密かに冷や汗を流し始めている。


ようやく事態が飲み込めてきたのだろう。



「もしかして…その言い方だと僕が行くことで決定ですか?」



疑問を口にする徹に、

朱鷺田は笑顔で頷いた。



「その為の変装ですよね?」



指差す朱鷺田の視線は徹の白衣に向いている。



「………。」



更衣室にあった白衣を着ているのは徹だけだ。



そしてその白衣には『実験班1』と書かれている。



「…うわ…。これってもしかして…?」



不安一杯の表情で呟いているが、

徹の選んだ白衣は疑いようもなく実験班の服だ。



「実験班の白衣を着ていれば地下への移動は当然であり、極めて自然なことです。堂々としていれば案外すんなりと通れるかも知れませんよ?」



楽観的な朱鷺田の意見によって、

徹の不安は高まったようだな。



「果てしなく不安なんですけど…?」



弱音を吐く徹だが、

朱鷺田は笑顔を絶やす事なく答え続けた。



「一人で行けとは言いません。私も変装していますので同行するつもりです。途中で何かあれば対策を考えますので、ひとまず地下に向かって移動しましょう。」



目的地を定めたことで部屋を出ようとする朱鷺田だが、

その前に声を掛けておこうと思う。



「まずは確認だけで良い。近付くことに成功しても無理に破壊する必要はない。ここから無事に脱出することも重要だからな。」


「ええ、分かっています。単独任務であれば無茶をする価値はありますが、今はみなさんがいますからね。余計な騒ぎを起こさないよう、まずは調査だけで戻るつもりです。」



破壊工作はしないと宣言してから、

朱鷺田は更衣室を出ていく。



「そ、それでは…僕も行ってきます。」



まだまだ不安を隠しきれていない様子だが、

徹も地下に向かうために出発した。



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