鞍馬の提案
「美由紀よ。一つ提案があるんだが聞いてもらえないか?」
「え…?あ、はい。」
この状況で提案とか言われると普通に緊張してしまうわね。
「何でしょうか?」
「このまま全軍で攻め込んでも限られた範囲の室内戦では内部に突撃出来る兵の数に限界があるだろう。となれば、ある程度の戦力は援護にしか回れん。ならばいっそのこと、余分な戦力を率いて、王都へと先行してはどうだろうか?」
砦の制圧を行う部隊とアストリア王都に向かう部隊に戦力を分けるってこと?
…どうなのかしら?
天城君が潜入している王都に援軍として向かうのは必要な判断よ。
正体不明の兵器をどうにかしなければ戦争を終わらせることはできないわ。
「先行部隊が敵の増援を足止め出来ればこちらの制圧も少しは楽になるだろう。」
それはまあ、そうね。
足止め出来れば…だけど。
「それにどちらにしても、増援部隊に向けて戦力を分ける必要はあるのだ。ならばいっそのこと、王都に近付いた方が効率が良いはずだ。上手く王都を戦場にできれば、王都の民を人質に取ったも同然だからな。」
…う~ん。
…確かにそれはそうなんだけど。
そんなに上手く行くかしら?
鞍馬元代表の提案を聞いた私は、
作戦の有効性を深く思考してみたわ。
…まあ、確かにね。
鞍馬元代表の指摘通り。
砦内部に侵入出来る兵数には限りがあると思うのよ。
2万人以上の魔術師全員が突撃出来るわけじゃないわ。
どれだけ多く見積もっても数千程度でしょうね。
殆どの部隊が砦の包囲だけで終わるでしょうし。
直接的な戦闘には加われないと思うのよ。
もちろんいざという時のために控えの部隊は必要だけど。
全軍を残す程ではないのかもしれないわ。
「先行するとなると、そちらにもかなりの戦力が必要よね?」
中途半端な戦力では王都の包囲なんて不可能よ。
ここの制圧は数千人程度でいいとしても。
まだ遭遇していないアストリアの正規軍との戦いを考慮すればまとまった戦力が必要になるわ。
むしろそちらのほうが激戦になるはずなのよ。
「アストリア側の増援部隊が軍の正規軍だとしたらこれまで以上に苦しい戦いになるはずよ。中途半端な戦力では足止めにもならないわ。」
戦力を分散させる危険性を考慮したことで、
雨宮さんが戦力の試算を答えてくれたわ。
「司令塔に残っているアストリア軍の残存兵力を考慮すると包囲網には最低でも1万の部隊が必要です。予備戦力としてはもう少し欲しいところですが…」
雨宮さんの分析を聞いて単純に計算してみる。
「こちらの兵数はざっと2万4千よね?制圧部隊を『1万と少し』とすると、単純に戦力を半分に分けて1万2千でどうかしら?残る1万2千で王都に進軍。ここに残る部隊は砦を制圧後に先行部隊と合流。こんな感じでいいと思う?」
私の問い掛けに、雨宮さんは小さく頷いてくれたわ。
「宜しいかと。ただ、敵の増援がどの程度の規模なのか分かりませんので、先行部隊が1万程度では不安があります。」
…まあ、ね。
それは私も同じ意見よ。
だけど悠護の考えは違うようね。
「どちらにせよ、戦いが避けられないのならやるしかない。まともに敵の増援部隊を撃破出来なくとも、足止めが出来れば十分だろう。」
それも一理あるわね。
下手に援軍を砦に引き寄せて司令塔にいるアストリア軍の士気を高めてしまうより、
援軍の接近を阻んで砦の制圧を急いだほうが無難かもしれないわ。
それに兵器の破壊のために急いでるのも事実だし。
王都に向かって先行する必要性はあると思うのよ。
「とにかくやってみるしかないわね。」
撃破よりも足止めを優先する悠護の意見を採用して部隊を分ける決断をしたわ。
「それじゃあ、その方向で考えましょう。あとは部隊をどう分けるかよね?」
別行動をとるのであれば各部隊ごとに指揮官が必要なのよ。
「それならばワシがここに残ろう。美由紀は兵を率いて先行するが良い。それと悠護、お前も先行部隊に参加しろ。残存する国境警備隊を率いて指揮を取れ」
「分かりました!警備隊を率いて先行部隊に参加します!」
鞍馬元代表の指示を受けて、
悠護は素直に従ってた。
「それでは私も先行部隊ですか?」
雨宮さんの問い掛けに、
鞍馬元代表は頷いてから答える。
「うむ。悠護の補佐として頑張ってくれ。」
「分かりました!!私も部隊を率いて先行します!」
雨宮さんは自分の部隊を率いる為に作戦会議から離脱したわ。
「僕も兵を召集してきます」
悠護も会議から離脱したわね。
そのあとも鞍馬元代表と話し合いを続けていると、
すぐ側で話を聞いていた御堂君達が歩み寄ってきたのよ。
「僕達も先行部隊に参加して宜しいのでしょうか?」
まあ、当然ね。
御堂君達には私の監視下にいてもらうことが前提条件なのよ。
だからしっかりと頷いたわ。
「ええ、もちろんよ。それに、危険だから待機しなさいと言っても聞かないんでしょ?」
言うことを聞いてくれないのなら傍にいてもらったほうがまだマシなの。
そんなふうに思いながら苦笑する私を見て御堂君達も苦笑してる。
だけど鞍馬元代表だけは、
真剣な瞳で悠理さんに視線を向けていたわ。
「一応言っておくが、無理に行くなとは言わん。行きたければ行くが良い。だが約束は忘れるな。軍に参加する限り、指揮官の指示には必ず従え。いいな?」
「………。」
真剣な表情で告げる鞍馬元代表の威圧に気後れしながらも悠理さんは無言で頷いていたわ。
「うむ。ならば良い。いいか?兄の指示には従え、それがお前の為でもある。」
鞍馬元代表の強く厳しい言葉。
それでもその言葉には『優しさ』が込められていたように思えるの。
「互いの気持ちを知る為の良い機会でもあるからな。兄妹として互いに協力しあうことだ。」
微笑む鞍馬元代表の笑顔を見て、
悠理さんもホンの少しだけ笑顔を浮かべていたわね。
「…頑張ってみます。」
それが精一杯の言葉でしょうけど。
悠理さんの正直な気持ちだったと思うわ。
すぐに仲良くなんてなれないのよ。
だけど、努力しない限り何も変わらないの。
だから頑張ると言えるだけでも大きな前進だと思うわ。
「うむ。では行くが良い。お前達の無事を祈っておる。」
「ありがとうございます。」
自然と出る感謝の言葉を聞いて、
鞍馬元代表は嬉しそうに頷いてた。
「家族とは良いものだ。悠護やお前にとっても、そうであってもらいたいと思う。」
血の繋がった家族であるということ。
それが束縛ではなくて愛情であることを祈りながら、
鞍馬元代表は悠理さんとの会話を終えたのよ。
そしてまっすぐに司令塔を見つめる鞍馬元代表の表情からはすでに笑顔が消えているわ。
たぶん、目の前の現実と向き合っているんでしょうね。
真剣な表情で司令塔を見つめる鞍馬元代表の瞳は、すでに命の計算を始めているみたい。
「ここはワシに任せておけ。美由紀達は準備が整い次第、王都に向かって出発するが良い。」
「分かりました。」
鞍馬元代表に別れを告げてから、
兵をまとめるために歩き出す。
「あとのことはお願いします。」
「うむ。任せておけ。」
短い挨拶だけど。
私達はそれぞれの役目を担って動き出したのよ。
「それじゃあ、行くわよ!」
私の先導を受けて歩き出す御堂君達。
…だけど。
この状況で一人だけ、
その場に留まる子がいたわ。




