幹部の意見
「さて、いよいよ最後の詰めの部分だけど。どうするべきかしら?」
「ふむ。そうだな…。」
問い掛けてみると。
鞍馬元代表が答えてくれたわ。
「共和国軍には攻城戦の経験を持つ者がいないからな。まともに攻め落とそうと思えば長期戦は避けられんだろう。」
そうなのよね。
だから悩んでいるのよ。
「向こうが無謀な突進でもしてくれれば話は早いが、これまでの戦闘を考えれば難しいだろうな。」
…でしょうね。
各門ですでに経験済みだけど。
魔術による範囲攻撃を避けるために、
小出しで突撃する作戦をとってくると思うのよね。
「篭城されれば攻め落とすまでにどうしても時間がかかるはずだ。」
そうなるとやっぱりね。
時間の問題もそうだけど。
魔力の問題も発生してしまうのよ。
長い目で見れば長期戦もありなんだけど。
中途半端に時間稼ぎに徹されてしまうと、
魔力の回復が追いつかなくなって戦えなくなってしまうのよ。
「いっそのこと、戦略級の魔術で司令塔を破壊する作戦はどう?」
「やれと言われればやるが、あまり良い策ではないな。」
…やっぱり良くはないみたい。
「現時点ではアストリアだけが戦争を宣言しているが他国の動きも怪しい状況だ。少なくともミッドガルムとセルビナは連合を組むつもりで動いているが、ここでアストリア軍を血祭りに上げて共和国の力を示し過ぎれば傍観中の他の国々まで共和国を敵視して進軍してくる可能性が高まってしまう。」
すでに予想していたけれど。
鞍馬元代表も私と同じ判断のようね。
「各国を巻き込む乱戦となれば、仮にアストリアとの戦いに勝てても戦争は泥沼に陥ってしまうだろう。」
…やっぱりそうよね。
私が考えていたように、
鞍馬元代表も殲滅作戦には否定的だったわ。
「他のみんなはどう思う?」
近藤悠護達にも聞いてみる。
「こちらの仲間達の安全を考えれば個人的には殲滅作戦に賛成します。ですが鞍馬総司令官の考えも無視できません。可能性として少しでも危険性があるのならアストリア軍の殲滅は控えるべきかと思います。」
まあ、無難な答えよね。
「私も同意見です。殲滅作戦も良いとは思いますが、一刻も早い終戦を目指すためにはアストリア軍を捕虜として捕らえて終戦への交渉に持ち込むべきかと思います。」
雨宮さんも否定派ね。
だけど予想通りではあるわ。
やっぱり翔子の力でさくっと殲滅っていうわけにはいかないみたい。
「それじゃあ、無難に正攻法で行くしかないわね。」
一人でも多くのアストリア軍を捕虜として捕らえて、
一人でも多くの幹部を人質としてアストリア王国との交渉に持ち込むしかないっていうことよ。
「まだまだ犠牲が出ることになるでしょうけど、ここは耐えるしかないわね。」
籠城を決め込むアストリア軍を捕獲するのは至難の業よ。
扉の裏側に多くの兵士が待機しているのは明白だし。
窓には狙撃部隊が構えているわ。
遠隔からの狙撃だけなら魔術師の得意分野だけど。
それだけでは敵を殲滅出来ないし。
砦に突撃して内部に至るまで一掃する必要があるのよ。
だけどこれ以上の接近は危険だし。
司令塔の内部に突撃できたとしても、
混戦状態になってしまうはず。
それにね。
攻城戦ともなれば指揮を執るのも一苦労よ。
正面の扉を突破して内部に侵入するまでにどれ程の犠牲が出るのか分からないし。
内部に入ってしまえば大局を見ることなんてできないわ。
外からの指示なんて届かないでしょうしね。
指揮官が最前線で突撃っていうのもどうかと思う部分よ。
なかなか判断の難しいところだけど。
さすがにこのまま敵を放置して王都に進軍するわけにもいかないわ。
現段階では打って出る気配がないアストリア軍だけど。
出て来ないからと言ってこのまま放置すれば背後から襲われる可能性があるんだから。
今後の為にもこの砦は制圧しておく必要があるのよ。
…どうするにしても困った話ね。
未だ数多くの兵士が残存する司令塔。
その様子を眺めながら、悠護が進言してきたわ。
「敵の残存戦力はおよそ2万程度だと思われます。こちらの戦力が2万4千程度なのでほぼ互角と言える状況です。」
まあ、そうね。
「こちらは時間をかけるほど魔力が回復して怪我人の手当を行えますが、対する敵軍は時間をかけるほど指揮が低下して手当もままならないまま、戦力外に陥る兵士が増えていくはずです。」
ええ、それも分かっているわ。
「野戦とは違って攻城戦であれば長期戦はこちらが有利なのは確実だと思います。」
そうでしょうね。
こっちは包囲してる側だし。
敵の攻撃手段は限られているわ。
この状況は明らかに共和国軍が有利よ。
地の利はこちらにあると言えるでしょうね。
「それでもアストリア軍が籠城戦を行うのには何らかの理由があるはずです。」
それもそうでしょうね。
籠城なんて作戦は結末を先延ばしするだけに過ぎないわ。
負けない状況を必死に作り出しても絶対に勝てはしないのよ。
私達を壊滅させるためには戦う以外に方法はないの。
わざわざアストリア側から戦争を仕掛けてきてるわけだし。
ここで引きこもることに意味なんてないわよね?
だから籠城の構えを見せるからには別の意味があるはずなのよ。
…それは、例えば。
「おそらく王都からの『援軍』を待っている可能性が一番高いかと思います。」
やっぱりそういうことよね。
悠護の予想はすでに考慮していたわ。
『王都からの援軍』は必ずあると思うの。
だからこそ、砦の制圧を急いでいるのよ。
これ以上、敵が増えないように短期決戦で軍を進めてきたの。
「万全とは言い難いこの状況で敵の増援部隊は痛いどころの騒ぎじゃないわね…。」
砦の制圧さえ完了してしまえば今度はこの砦を拠点としてアストリア軍を迎え撃つことができるけれど。
制圧が完了する前に増援部隊が到着してしまえば再び多方面から敵の攻撃を受けることになってしまうのよ。
「司令塔の制圧を急ぎたいわね。」
期待を込めてみるものの。
「うーむ…」
鞍馬元代表は小さく唸っていたわ。
「確かに早急に砦を制圧して援軍到着までに迎撃体制を整えたいところだが、向こうもそうそう簡単には砦を明け渡してくれんだろう。」
見るからに頑丈に造られた城塞は並の魔術ではビクともしないように見えるわ。
だけど戦わなければ戦闘は終わらないの。
「もはや作戦とは言い難いが、力付くで押し切るしかないだろうな。」
「自分もそう思います。」
鞍馬元代表の提案を悠護が肯定する。
「犠牲が出るのは砦へ進軍した当初から覚悟の上です。ですからここは全力で攻め込み早々に砦を制圧するべきかと思います。」
鞍馬元代表と悠護の意見は決まったわ。
二人の意見を聞いたことで私も決断を下すことにしたのよ。
「これ以上迷っている時間が勿体ないわね。私達にはまだまだやるべきことがあるのよ。ここで敵の足止めを受けている暇はないの。だから落とすわよっ!司令塔を!!」
殲滅ではなくて攻城戦を決意したわけだけどね。
ここで鞍馬元代表が『一つの作戦』を提案してきたわ。




