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THE WORLD  作者: SEASONS
4月17日
831/1200

どちらが無難

《サイド:米倉美由紀》



さてさて。



そろそろ午後7時頃かしら?



なんだかんだで夜になっちゃったわね〜。




私が率いる共和国軍は現在、

砦の中央部にある『司令塔』を包囲しているところよ。



アストリアの国旗を掲げる大きな建物なんだけど。


ここだけは他と違ってかなり頑丈に作られているみたい。



ちょっとやそっとの魔術だと壁をぶち抜くどころか削り取ることさえできないんじゃないかしら?



…まあ。



すぐ傍にいてくれる翔子ならアルテマの一撃で一気に破壊できる気もするけれど。


さすがにそれをしてしまうと周りにも被害が出るわよね?



…でも。



一応、聞いてみるくらいなら良いかも?



「ねえ、翔子。」


「はい?」



話しかけたことで向き合ってくれた翔子に確認してみる。



…一応よ?


…あくまでも確認よ。



「もしもここからアルテマを放ったとして、あの建物を破壊できると思う?」


「え…っ?やっちゃうんですか!?」


「う~ん。するしないは別として、出来るかどうかっていう話なんだけどね。」


「あ~、まあ、一撃でっていうのはさすがに無理だと思いますけど…。3分の1くらいなら吹き飛ばせるかもしれません。さすがに目標が大きすぎるので…たぶん、その程度です。」


「それじゃあ、アルテマを3回使えれば殲滅できるわけね?」


「…かもしれませんけど。どちらにしても今の魔力だと1回が限界です。」


「深海さんからの供給は?」


「…無理ですね。すでに沙織が供給を受けて負傷者の治療を優先してますので、私に回す余裕はないと思います。」



…う~ん。



そうなると魔力が足りないわね。



「それじゃあ、ちょっぴり反則っぽいけど、魔力に余裕のある魔術師から深海さんに魔力を吸収させて翔子の魔力を回復させるっていう手段はどうかしら?」


「それなら出来そうですけど。吹き飛ばしちゃって良いんですか?」


「ここまで来たら、もうそれでもいい気がするのよね~。」


「でも、それをやっちゃうと敵の幹部も全滅ですよ?」


「何か不都合があるの?」


「いや…むしろないんですか?」



…さあ?



どうなのかしら?


最終的に殺害(処刑)するのなら結果は同じじゃない?



「いっそのことさっさと殲滅して先に進んだほうがいいかな?って思うくらいだけど…。」


「え~っと…。まあ、やれと言われればやりますけど…?」



…ん~。



出来るか出来ないか?という判断で言えば、

出来るって言うことよね。



切り札があるって思えるだけで気持ち的に余裕が出てくるわ。



「今はまだいいわ。」



とりあえずは一つの方針として確認したかっただけだしね。



「でもまあ、わざわざ総力戦をする必要があるかどうかは疑問だから、場合によってはお願いするかもしれないけどね。」



ここに来るまでに8万のアストリア軍を殲滅してきたのよ?



今更ここで人道がどうとか考える必要はないわよね?



そんなふうに考えながらも、

一応、別の方法も考えてみる。



この場合は正攻法って言うのかしら?



司令塔の入口を突破して内部に潜入。



そして敵の殲滅を行いつつ。


アストリア軍の幹部を捉えて捕虜にする。



捉えた幹部を人質にしてアストリア王国に降伏を迫る。



…と言う流れかしら?



実現できれば早期に戦争を終わらせられそうだけど。


上手く交渉できるかどうかはものすごく疑問よね?



10万近い死者を出しておきながら、

幹部だけは交渉で生還させるなんてあり得るのかしら?



国としてどうこうよりも、

国民感情的に無理がある気がするのよね。



幹部も全滅ならまだ戦争を継続する方向で扇動できそうな気がするけれど。


幹部だけは生きてます…だとね。


戦死した兵士の家族とかは納得できないんじゃないかしら?



そう考えるとね。


アストリア側の幹部達が交渉に応じる気がしないのよ。



だけど…どうなのかしら?



こちらの被害を抑えるため、とは言ってもね?



10万の軍を全滅させてから進軍するのと。


ある程度は人質として確保してから交渉に持ち込むのとでは、どちらが無難なのかしら?



…仮に。



仮によ?



今ここでアストリア軍をアルテマで全滅させたとして、王都まで進軍したとするわよね?



途中で遭遇するかもしれない正規軍も全滅させて、問題の兵器の破壊も成功したとする。



その後アストリアの王族を捕らえるなり処刑するなりして、戦争の終了を宣言したとする。



これらの手順を全て完遂できたら共和国軍の勝利が確定するわけだけど。



これってもしかして、

ものすごく危険な行為じゃないかしら?



戦争に勝つことは大事よ。



でもね?



それ以上に終戦までの過程も考えないとまずいんじゃない?



下手に残虐な行為を続けてしまうとね。


他の近隣諸国からも危険視されかねないわ。



場合によってはアストリア王国が救援を要請して、

複数の国が共和国になだれ込んでくる可能性もあるってことよ。



その最悪の事態を回避するためにはアストリア王国と交渉できる状況を用意しなければいけないわ。



だけどそれは単純に王都に進軍して王族を脅迫するだけじゃ駄目なの。



最悪の展開を避けるためには、

共和国が『交渉のできる国である』ということを各国に示すことが重要になるのよ。



…だとすれば?



アストリア軍を全滅させるよりも、

捕獲して捕虜にしたほうがいいかもしれないわね。



アストリア側が捕虜を無視して切り捨てるのは勝手だけど。


味方を切り捨てるような行為をしてしまえば他国に救援を要請しても聞き入れてもらえないでしょうし。



民衆からの評判も下がるはずよ。



そうなれば戦争に反対する人々も出てくるでしょうから、

上手く流れを利用できればアストリア王国に対する抵抗勢力を作り出せるかも知れないわ。



…そうなると。



ここで翔子の力を借りるよりも、

アストリア軍の捕獲を優先したほうが今後の流れが良くなるかもしれないわね。



…はぁ。



今まで砦を制圧することばかり考えていて、

その後のことまで考えてなかったけれど。


ここでどう行動するのかが結構重要になってきそうよね?



「一度、幹部を集めて話し合うべきかしら?」



鞍馬元代表の意見も聞いてみたいし。


悠護隊長の意見も聞いてみたいわ。



捕獲か、殲滅か。



どちらを優先するべきか…ってね。


話し合っておいて損はないはずよ。



「伝令部隊!」



すぐ側に控えてる伝令部隊を呼び出して、

幹部の招集を命じる。



「少し話したいことがあるの。悪いけど国境警備隊の幹部を集めてちょうだい。」


「はっ!畏まりました!!」



即座に走り出す伝令部隊を見送ってから、

改めて敵軍の司令塔を眺めてみる。



司令塔の外周はすでに共和国軍が取り囲んでいるわ。



2万4千人の包囲網よ。



アストリア軍にとって最後の拠点といえども、

これだけの人数がいれば包囲は可能だし、

地下に通路でもない限り逃走も不可能よ。



見た感じだと内部に侵入出来る入口は二カ所。


表の正面口か…裏の勝手口のどちらかね。



窓からの侵入は不可能よ。


全ての窓にはアストリア軍が弓を構えて待ち構えているわ。



頭上を抑えられているから一方的に攻撃を受けてしまいそうな状況ではあるけれど。


弓矢での攻撃程度なら防御結界でどうとでも出来るわ。



まあ、下手に攻撃を開始したらこちらも攻め込む以外の選択肢がなくなるから今はまだ待機しているんでしょうけど。



こっちとしてもどう攻めるか悩むところよね。



現時点で地下通路が存在してるかどうかはわからないけれど。


砦の図面では隠し通路の存在は確認できないわ。


地下水路も司令塔には直結してないみたいだし。


大規模な移動は出来ないはずよ。



それでも退路があるのかないのかによってこちらとしても対応が変わってくるわけだけど。


今はまだ分からないから手の打ちようがないわね。



仮に地下通路があったとしても大軍を移動させられるほどとは思えないし。


少数の遊撃部隊が襲いかかってくる程度なら恐れる理由はないわ。



…まあ、仮に隠し通路が存在していたとして。



敵の幹部連中が逃走用として使用してしまうと色々と面倒な事態になるんだけどね。


さすがにそこまでは対応しきれないわ。



それよりも今はアストリア軍の動きを考えるべきよ。



とりあえず国境警備隊の幹部が集合するまでの間に司令塔の動きを観察してみる。



ひとまず向こうから攻撃を仕掛けてくる様子はなさそうね。



その理由が物資の都合なのか、

それとも指揮官の判断なのかは分からないけれど。


今のところ、むやみに矢を放って来る様子はないわ。



たぶん、遠距離攻撃は魔術師の方が圧倒的に有利だから、

下手にこちらを刺激しないために牽制だけにとどめているのかもしれないわね。



反対に言えば共和国軍が窓に魔術を打ち込むことは簡単だけど。


攻撃をきっかけに戦闘が始まってしまうからこちらもむやみに仕掛けられない状況なのよ。



とりあえずは砦を制圧する為の最後の激戦をどう乗り切るか?



…決戦の前に方針を決めるべきでしょうね。



ひとまず司令塔の正面口を睨みつけながら、

駆けつけてくれた鞍馬元代表達と共に作戦会議を行うことにしたのよ。



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