王城
《サイド:栗原徹》
まもなく午後2時頃になるでしょうか?
昼食を終えた僕と愛里ちゃんは情報収集の為に目的地へと接近しました。
大きく深い堀に囲まれた巨大な建造物。
これこそがまさしくこの国の象徴とも言える壮大な王城です。
…立派な建物ですね。
学園の校舎が小さく思えてしまうほどです。
それほど巨大な王城なのですが、
とても大きな堀に囲まれているために侵入経路は限られてしまいます。
南北に向かって伸びる大きな橋が二カ所に架かっているのですが、
王城の門に近付くためにはどちらかの橋を渡る以外に方法はなさそうですね。
「これから…どうするんですか?」
「…どうしましょうか。」
愛里ちゃんの疑問は僕も感じている部分です。
正直に言えば、
むしろ僕が聞きたいくらいだったりします。
…とは言え。
愛里ちゃんに訊ねてみても困らせてしまうだけだと思いますので、
あれこれ考える前に出来ることから行動したほうがいいでしょう。
「そうですね。まずは外堀を、ぐるっと見て廻りましょうか。」
現段階ではまだ王城には接近できません。
魔術によって堀を飛び越える程度なら可能かもしれませんが、
昼間から王城の外壁に取り付くのは目立ちすぎます。
今はまだ無理をしないほうがいいでしょう。
それでも確認だけはしておかなければ作戦の立てようがありません。
侵入はしませんが、
侵入方法は探っておくべきです。
そのためにまずは状況の把握から始めるべきですね。
「潜入の指示は受けていませんので、調査だけにしておきましょう。」
ゆっくりと歩き出してみます。
隣に並ぶ愛里ちゃんも歩き始めました。
「さすがにお城の近くはドキドキしますね。」
…ええ、そうですね。
「出来ることなら僕も逃げ出したい気分ですよ。」
「ふふっ。そうですよね。」
愛里ちゃんは笑ってくれましたが、
本当に逃げ出すわけにはいきません。
たいした情報は得られないかもしれませんが、
精一杯のことはしてみたいと思うからです。
「もしもの場合に備えて、潜入できそうな場所を探してみましょう。」
最終的に兵器が王城の内部にあるとしたら、
入らないわけにはいかないからです
確率的には低いのかもしれませんが、
可能性が0でないのであれば調べておくべきです。
さしあたって堀の外周から王城までの距離と、
突入できそうな窓までの高さ。
そして内部の様子と警備の状況…などでしょうか。
「夜なら風の魔術で上昇すれば窓には接近できそうですが、さすがに内部の様子までは探りようがないですね。」
「…ですよね。距離もありますし、昼と夜では警備の内容も変わってくると思います。」
「ええ、その辺りも考慮するべきでしょう。」
根本的に昼間の警戒と夜の警戒では異なるはずです。
比較的、夜のほうが侵入しやすいとは思いますが、
内部の警備は夜のほうが厳重そうな気がします。
「さすがに王城の中に忍び込むのは難しそうですね。」
「は、はい…そうですね。すごく難しそうです。」
王城を眺める愛里ちゃんはどことなく怯えているように思えますね。
やはり敵軍の本拠地だけあって、
近づくのも怖いという感じでしょうか。
「大丈夫ですか?」
「…ぇ、ぁ…は、はぃ。大丈夫です。お城を見るのは初めてなので、つい魅入ってしまいました。」
「ああ、なるほど。」
怯えていたのではなく、
感心していたのですね。
「学園の校舎よりも大きいですからね。」
「はい。凄いです!」
素直に感心している様子でした。
こういう仕草はとても可愛らしいと思います。
ここにいるのが薫だったらきっと「税金の無駄遣いなのよ!それだけの資金があるのなら恵まれない人々に分けてあげればいいのに!」などと言うのでしょう。
あまり可愛げのない発言だとは思いますが、
困っている人を助けたいと思う気持ちはしっかりと感じられます。
そんな妹だからこそ、
誇らしく思っているわけですけどね。
「景観も素晴らしいですが、軍事拠点としての防衛能力も高そうですね。」
王城の大きさも驚きの対象なのですが、
全体的な威圧感と存在感も他を凌駕しているように思えます。
一言で言うなら『圧巻』でしょうか。
共和国の各町にある学園もそうですが、
魔術大会が行われる陸軍本部のグランパレスさえも大きく越える荘厳な建造物なのです。
精密に組まれた石垣の配列は美しく。
あらゆる攻撃を防ぐ為の城壁としての能力はとても高そうに思えます。
さらには城壁の四隅に大きな塔が建ち。
投擲機器が堂々と姿を見せています。
弓矢による射撃が主体だとは思いますが、
遠距離攻撃用の投石器まであるようですね。
どう見ても王城は単純な住居ではなさそうです。
戦闘用の城塞と考えるべきでしょうか?
軍事活動を目的としているようにしか思えません。
今がまだお昼ということもありますが、
警備兵が目を光らせる王城にはどう頑張っても近付けそうにありませんね。
「これはもう軍用の施設と言った方が相応しいかもしれませんね。」
「それでも、近付かないといけないんですよね?」
不安を感じる様子の愛里ちゃんの気持ちはわかります。
外堀の外周から得られる情報は王城の外観程度だけです。
軍の動きや兵器の情報を集めるにはもっと接近しなければいけません。
…そうなると。
王城に近づくためには南北にあるどちらかの橋を渡らないと行けないのですが、
橋に近付くだけで警備兵に睨まれてしまうでしょう。
…と言うよりも。
睨まれるだけならまだいいのですが、
場合によっては拘束されてしまう可能性もありそうです。
「近づくのは無理でしょうね。」
橋を渡れば堀の内側を囲う城壁の内部を知ることが出来るのですが、
多くの兵士達が目を光らせる向こう側へ行く勇気はありません。
下手に騒ぎを起こせば、
潜入した意味がなくなるからです。
なにより。
兵器の破壊という本来の目的さえも果たせなくなってしまうかもしれません。
今はまだ慎重かつ安全に行動しなければいけない状況なのですから無謀な突撃は出来ません。
…さて、これからどうしましょうか。
外堀を一周し終えた僕達は、
これからどうするかを相談しながら、
しばらく様子を眺めることにしました。




