戦い続ける義務
《サイド:吉澤圭吾》
…ちっ!
他の部隊の状況はわからないが、
南門の戦いは共和国軍の勢いに押されて苦戦してしまっていた。
開戦当初に兵藤進一が率いていた南門の部隊はすでに全滅している。
…女も、子供も、老人も。
誰一人として生き残ってはいない。
そして兵藤自身も敗走したようだ。
もちろん逃げたわけではない。
砦の内部で軍を再編成しているはずだからな。
…とは言え。
援軍としてこちらに来ることはおそらくないだろう。
砦から出撃して戦うことなど最初から想定していないのだ。
今でこそ砦の外部において指揮をとっているが、
本来の目的は遊撃であって囮でもあった。
元々は共和国軍を砦内部に誘い込んで、
退路を封じた上での挟撃の作戦予定だったのだからな。
作戦を実行する前に西部の共和国軍は瓦解。
南部の共和国軍は現在も南門の周辺で奮闘中だが、
砦側から攻撃を担うはずの相棒の伊川拓郎が援軍に駆け付ける様子がない。
理由は不明だが、
このままでは私の部隊は全滅してしまうだろう。
砦の外で孤立しているのだからな。
防壁を盾にすることもできず。
砦の内部に逃げ込むことすらできない。
すでに敗北が濃厚な現状で水路まで逃走する余裕もないだろう。
戦線が瓦解すれば共和国軍に蹂躙されるのは明らかだ。
率いていた1万の部隊も今では半数にも満たない。
これでは突撃も逃走もできない。
できるのはただ耐え凌ぐことだけだ。
数だけで見れば、
もはや共和国軍にも劣ってしまっている。
南門での勢力はアストリア軍が4000程度で、
共和国軍が13000程度だろう。
西と南の二つの部隊が合流した共和国軍の勢力は肥大化し。
孤立した私の部隊は砦に逃げ込むことも出来ないまま絶望的な戦いを強いられている。
「援軍が来る気配はない…。伊川は他の部隊へ回されたか?」
おそらくそういうことだろう。
東か北かは分からないが、
おそらくどちらかの防衛部隊が壊滅したのだ。
その埋め合わせとして伊川の部隊が派遣されたのだとしたら、
援軍として南門に現れない理由に説明がつく。
…となれば。
もはや増援は期待出来ない。
そして砦に逃げ込むことさえ出来ない。
逃亡して別の門を目指すことも不可能だ。
共和国軍は見逃してくれないだろう。
そんな甘い戦いではないからな。
それになにより逃げることなど許されはしない。
私達には死んでいった者達の為にも戦い続ける義務があるのだ。
「最早、生き残る術なし!」
ここが最期の意地の見せ所だ!
「一人でも多くの魔術師を倒す為に!!その身と引き換えに一矢報いる時!いざ!全軍、突撃せよっ!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!」」」」」
雄叫びを上げながら走り出すアストリアの兵士達。
その果敢なる最期の突撃を見て、
共和国軍が大きくざわめいていた。




