魔術の種類
さて。
生徒手帳にも記されてはいるが、
まず最初に気になるのは学園での授業に関してだな。
基本的に全ての授業は校舎内の各教室で行われるらしい。
授業内容は大別して3種類になる。
第1に『攻撃系』魔術の授業で、2階に教室がある。
第2に『補助系』魔術の授業で、3階に教室がある。
第3に『回復系』魔術の授業で、4階に教室がある。
どうやら1階に教室はないらしい。
かなりの部屋数があると予想していたのだが、
1階は職員室や医務室の他に
購買や食堂などの各種施設が揃っているようだ。
特に食堂は規模が大きく、
1階の敷地面積の3割ほどが食堂の区画になっている。
…さすがに生徒の数が多いからな。
食堂の広さも当然といえるだろう。
ちなみに5階は各種部室や会議室などがあるらしい。
6階はほぼ倉庫のようで、
生徒が立ち入ることはなさそうだ。
そして最上階となる7階には学園長室や理事長室など、
基本的に立ち寄ることがなさそうな部屋が並んでいる。
…基本的に5階から上に行くことはなさそうだな。
今のところ興味を惹かれるのは購買だろうか。
手持ちの資金を考えると苦しい部分はあるが、
魔導書の販売を行う書店があるらしい。
興味はあるが、金銭的に余裕がないからな。
確認するのは後でいいだろう。
まずは授業に関してだ。
魔術は大きく分けて3種類。
『攻撃』『補助』『回復』
それぞれの種類毎に階級が分かれているようだ。
『入門』……基礎理論
『初級』……簡易技術
『中級』……基本魔術
『上級』……高位魔術
『最上級』…最高位魔術
ざっと5部門に分けられている。
その中でも属性や効果などの分類によって細分化されるため、
合計500を越える授業があると記されていた。
おそらく、そのせいで校舎の部屋数が膨大になっているのだろう。
基本的に各授業は何時でも何度でも好きな日に受けられるらしい。
授業に関しては強制ではないと明記されている。
つまり。
学園にいるからと言って『全ての授業に参加しなければならない』という決まりはないということだ。
これも少し考えればわかることだが、
各生徒それぞれに得意分野が異なるからな。
それぞれの自主性に任せているのだろう。
どの授業に参加して、
どういった方針で勉強を進めるのか。
勉強の方針そのものを個人の判断に委ねるということでもある。
極論すれば攻撃のみを重視する事も出来る。
反対に回復魔術のみに専念する事も出来る。
だからこそどういった勉強を進めてどの魔術を覚えるのかは各生徒の判断であって、
自由に選択する事が許されているということだろう。
かなり極端な言い方にはなるが、
本人にとって不要であれば『授業に参加しない』という選択肢も許されるのかもしれない。
そこまで極端な行動をとる生徒はあまりいないと思うが、
学園内に保管されている膨大な書物や魔導書による『独学も可能』
それが学園の基本方針らしい。
…自由度は高いが。
全ての生徒が自主性をもって行動できるわけではないからな。
戸惑う生徒も一定数いると思われる。
…それよりも、だ。
学園の方針や校則など。
数え切れない項目が網羅されている生徒手帳だが、
その中で最も興味をひかれるのは卒業試験の項目だろう。
《卒業は試験において抽選かあるいは推薦で選ばれた学園の試験官『10人』全員の許可を得ることによって認めることとする》と記されている。
つまり卒業できるかどうかは10人の試験管の判断に委ねられるということだ。
この一文を見ただけで試験の厳しさが感じられる。
文面だけを見れば簡単な内容にも思えるが、
幾つもの疑問が思い浮かぶからな。
第1に試験官の選出が抽選であった場合。
事前に対策を考えるのは不可能だ。
どの教師が選ばれるかが分からないからな。
全ての教師の実力を把握するか、
全ての教師を上回る実力を持たなければならないことになる。
第2に戦闘の試験だった場合。
10人と戦うとすれば力の消費は並みではない。
最初から最後まで全力で戦えるほどの実力を身につけて積極的に攻めるか、
それとも力の配分を考えて消極的に戦うか。
どちらにしてもかなりの実力と経験が必要になるだろう。
第3に10連戦であるとも限らない。
10対1という可能性もあるだろう。
そもそも試合であるとも言い切れない。
魔導技術の実技試験や特定の条件を達成する等。
あらゆる状況が考えられる。
…というよりも、戦闘以外の試験の方が多いはずだ。
そうでなければあまりの難易度の高さに卒業不能になってしまう。
それでは入学する意味がない。
卒業出来ない学園に入る意味はないからな。
第4に、入学早々の実力で卒業出来るほど甘くはないという点か。
俺の場合は純粋な戦闘技術を求めているわけだが、
そうなると最低でも学園の生徒全員に勝てる実力が必要だと思われる。
何故なら。
学園に在籍している以上。
『卒業試験を達成出来るだけの実力がない』か、
『そもそも試験を受けるだけの実力が足りていない』ということになるからだ。
だとすれば。
全生徒の頂点に立ってようやく試験を受けるだけの実力があると思っておいたほうがいいだろう。
もちろん自らの意思で在学し続けている生徒もいるとは思う。
上位の生徒達が卒業しない理由はわからないが、
卒業試験を受けずにあえて残留している生徒も少なからずいるはずだ。
そしてその理由はいくつか考えられる。
もっと勉強がしたい。
あるいは仕事をせずに学生でありたいなど。
様々な理由が考えられるからな。
個人の事情までは推測できないが、
何らかの事情があって卒業しないという選択肢があってもおかしくはない。
この辺りは学園生活の中で自然とわかることだろう。
まずは努力する。
それ以外の選択肢はない。
ひとまず生徒手帳の内容を読み進めて規則や卒業の項目は確認できた。
ついでに入学式で受け取った書類も全て目を通してみる。
…いや、もう十分か。
特に気になる内容ではなかったこともあるが、
おおよその内容は把握できているからな。
学園の地図と校舎や寮の利用方法。
食堂や購買の使い方程度の情報は覚えるまでもない。
それらも生徒手帳に記されているからな。
おそらく生徒手帳を見ない生徒のための基本情報なのだろう。
抜粋されただけの書類は必要ない。
役目を終えて不要になった生徒手帳以外の全ての書類は手近なゴミ箱に投げ捨てた。
…あとは偵察だな。
目的の方角を確認する。
現在地は学園の西側に立ち並ぶ女子寮の南付近だ。
校舎から見ると南西の方角になる。
ここから目的の場所へは東の方角に向かって20分ほど歩いた先になるだろうか?
「こうして実際に歩いてみると、広すぎるのも面倒だな」
複数ある男子寮や女子寮はある程度密集して建てられているものの。
校舎や催事場、そして図書館などの各施設の距離はざっと500メートルほどの間隔を開けて建てられている。
そのため複数の施設を通り過ぎて目的地を目指すとなると、
当然それ相応の距離を歩いていかなければならなくなる。
ここでの生活に慣れてくれば行動範囲が定まって気にならなくなるのかもしれないが、
初心者にとってはそうはいかない問題だ。
俺もそうだが新入生の多くは、
広すぎる学園内を実際に歩いてみて途方にくれているのではないだろうか。
もちろん生徒手帳に記された地図をみればどちらへ向かえば良いのかはすぐにわかるのだが。
実際に歩いてみるとあまりにも遠すぎる距離によって歩くのが嫌になってくるのは誰もが同じ気持ちのはず。
…それでも、これも訓練のうちか。
学園に集まっているのが魔術師だからな。
何らかの事情で魔術が使用された場合に対しての安全性を確保するために、
各種施設の間隔を広げているのだろう。
学園の端から端までの直線距離だけで1時間程度歩かなければならないほどの距離がある。
そのせいで学園中央の校舎から遠方の目的地までは徒歩で20分以上かかるという問題も発生してしまっているのだが。
それも仕方がないと思うしかない。
おそらく一日の基本的な行動範囲を寮と校舎に定めて、
状況に応じて他の施設へ向かうことが一般的な学生の行動になるのだろう。
長期的に通うことを前提としている学園だからな。
それが普通なのかもしれない。
そこまでは理解できるのだが、
慣れるまでは苦痛でしかなかった。
…それでも。
動き出さない限り、何も始まらない。
まずは明日からの課題となる『検定試験』が行われる会場に向かって移動することにした。




