苦戦
《サイド:近藤悠護》
「戦況はどうなっている!?」
砦の各地で混戦が行われていると思われる中で、
南門を攻める部隊も激戦を繰り広げていた。
…だがそれは。
敵が強くて勝てないという意味ではない。
むしろその逆だ。
どう見ても戦力とは思えない女性や老人が命懸けの特攻を仕掛けてくるために上手くあしらえずにいたからだ。
俺が率いる部隊は国境警備隊3000名を主力とする総勢1万の魔術師だ。
戦闘能力という意味ではアストリア軍を恐れる理由はない。
だが立ちはだかるのが無力な非戦闘員となれば話は別だ。
さすがに非戦闘員を虐殺するような行為は指示できない。
戦争といえども部下達に皆殺しを命じるのは本意ではないからだ。
殺さなければ殺される状況でも、
女性や老人を容赦なく殺せるような残虐な行為は素直には認められない。
そのせいで、というべきなのだろう。
俺が預かっている部隊はすでに千名を越える犠牲者を出してしまっている。
…非戦闘員との戦いによって、だ。
これは完全に俺の失態だ。
倒れた多くの仲間達は魔術師ギルドから派遣されてきた魔術師達なのだが、
国境警備隊の兵士達も少なからず倒れてしまっているだろう。
戦闘が始まってからホンの数時間。
そのわずかな時間で1割もの戦力を失ってしまったのだ。
指揮官としては最低の采配としかいえない。
もしもこのまま戦闘を続けた場合。
これからどれほどの命を失ってしまうのだろうか?
砦さえ落とせばアストリア軍が引き下がってくれるかも知れないと思えたのは昨日までだ。
その期待は既に否定されてしまっている。
仮にこの砦を落としたとしても、
アストリア側にはまだ謎の兵器が残っているからだ。
俺達はこの砦を落とした後に、
アストリアの王都まで進軍しなければならない。
その道のりは決して楽ではないだろう。
道中で戦闘を繰り返す可能性は十分にある。
そのうえ。
王都についても戦闘になる可能性が高いはずだ。
それなのに。
ここで戦力を減少させてしまうのは得策ではない。
いや、このままでは王都に向かう戦力が維持できるかどうかさえもわからない状況だ。
砦での戦闘そのものは互角だとしても、
大局を見れば明らかに共和国軍の劣勢だからな。
この状況を覆す手段を考えなければならないのだが、
防壁さえ突破できないのが現状となる。
どうにか出来ないものだろうか?
焦りは禁物とは言え、残り時間に余裕はない。
魔力の残存量には限りがあるからだ。
早々に決着をつけなければならない。
このままではジリ貧で返り討ちになってしまうだろう。
そうなる前に何とか流れを変えたいと思うのだが…。
「…どうする?どうすれば良い?」
考えても答えは出ない。
何もかもが上手くいくような都合のいい作戦があれば最初から苦労はしない。
…とは言え。
考え続けなければ答えが出ることもないままだ。
「何とか突破口を開けないか?」
敵の攻撃を防ぎつつ。
周囲の様子を眺めてみる。
共和国軍の戦力は依然として低下中だ。
頭数もそうだが、
魔力を温存している者はそれほどいないだろう。
誰もがギリギリの状況を強いられてしまっている。
それでもアストリア軍の被害はこちらの数倍に及ぶはずだ。
兵力の絶対数が違う上に、
一人一人の戦力に大きな差があるからな。
アストリア軍の多くは共和国軍の魔力を減少させるための肉壁となって立ちはだかっている。
広範囲に散開して死を覚悟の上で特攻してくるのだ。
攻撃しなければこちらがやられてしまうことになる。
だが、攻撃すればするほど魔力が消費されてしまう。
そんな命の削り合いによってアストリア軍の死者は軽く1万人近くに及ぶだろう。
死者の数だけを見れば10倍の差となる。
単純に考えれば共和国軍の圧勝に見えなくはない。
だが、それは錯覚だ。
共和国軍の目的はあくまでもアストリアに敗戦を認めさせることにある。
ここで戦力を低下させた状態で砦に集結していない本物のアストリア軍に攻め込まれてしまったら?
共和国軍は王都にたどり着く前に全滅してしまうだろう。
砦での戦いはあくまでも中継点でしかないのだ。
ここで戦力を減少させてしまっては戦争で勝ち残ることはできない。
「軍隊ではない一般人に、こうまで苦戦させられるとはな…っ。」
素直に悔しいと思う。
だが、これが戦争なのだ。
どれほど屈強な戦士も数の力には勝てないだろう。
どれほど優秀な魔術師も魔力がなければただの人だ。
アストリア軍はこちらの弱点を考慮して、
最も効率の良い作戦で立ち回っている。
死を恐れない一般人を使うことで、
共和国軍の戦力の低下を狙ってきているからだ。
それが分かっているのに。
思うように踊らされている現状を打開できない自分自身に憤りを感じてしまう。
「このままでは押し戻されるぞ…。」
刻一刻と共和国軍の攻撃力が低下していく中で最良の手段は何だろうか?
「強行突破を試してみるべきか?」
南門を奪い取ること。
内部から閉ざしてしまえば周囲の一般人を無力化できるかもしれない。
だがこの作戦だと他の門に流れる可能性がある。
東西の門に向かわれてしまうと、
味方の軍が背後から襲われかねない。
「門を塞ぐのは無理か…。」
全てのアストリア軍を締め出せればいいが、
攻守が入れ替わった瞬間に攻撃の矛先をマールグリナに向けられてしまうと困るのは共和国側だ。
敵軍を自由に行動させるのは危険でしかない。
だがそれでも内部に侵入できれば防壁に上がるための通路にはたどり着けるだろう。
上手く頭上を抑えることができれば投擲による攻撃を防ぐことができるうえに、
魔術による範囲攻撃も狙えるはず。
現状の乱戦さえ収束できるのなら、
多少強引でも突き進む価値はあるかもしれない。
「どのみち撤退するつもりはない。だとしたら突き進むしかないか!」
一発逆転を狙うために全軍に突撃命令を出す。
「全軍前進!!南門を制圧して防壁を奪い取れ!!」
「「「「「うおおおおおおおおおっっっっ!!!!!!」」」」」
俺の指示に従って、
一斉に南門へとなだれ込む仲間達。
多くのアストリア軍の命を引き換えとして、
俺の部隊は南門を突破しようとしていた。
「あと少しだ!!最後まで気を抜かずに攻め続けろっ!!!」
指示を与えることで一気に加速する共和国軍。
その勢いに追い付けずに、
アストリア軍は徐々に後退していく。
周囲に散開している一般人達も妨害できずに浮き足立っている状態だ。
このままなら押しきれるかもしれない。
南門の目前に迫り。
あと少しで突破出来る…という所で、
共和国軍は思わぬ敵の出現によってその足を止めてしまうことになった。




