一人一殺
《サイド:米倉美由紀》
…う~ん。
困ったわね。
なかなか思うようにいかないからよ。
時間的には、そろそろ午前1時を過ぎた頃かしら?
日付をまたいで2時間にも及ぶ激しい戦い。
それでも私達はまだ砦の内部に侵入出来ずにいるのよ。
四方の門に突撃する部隊の中で、
最も人数が少ない私の部隊が苦戦するのは仕方がないと思う。
だけど1万ずつの魔術師を抱える他の部隊でさえも門を突破出来ずにいるみたいなの。
「まだどこも突破出来ないのっ!?」
焦りを感じて何度も叫んでみる。
だけど返ってくる答えは同じだったわ。
「敵軍の勢いが強すぎて防戦を行うのが精一杯です!!」
「防壁の上からの投擲部隊の攻撃も激しくて、とても接近出来ません!!!」
「敵の前衛部隊が前進してきますっ!!」
次々と大声で叫ぶ兵士達の声は焦りに満ちていたわ。
…そしてついに。
焦りは不安に変わってしまったのよ。
「突撃に失敗!こちらの先陣が壊滅!!敵部隊が接近しています!!!」
…なっ!?
ちょっ!?
嘘でしょ!?
一体、どうなっているのよ!?
10万のアストリア軍と言っても、
正規兵はたったの一万しかいないのよ!?
それなのにどうして押し負けるのよっ!?
「くぅぅ…っ!!寄せ集めと思って甘く見ていたのに、とんでもない状況ね。」
完全に予定が狂ってしまったわ。
こんな展開になるなんて思ってもいなかったのよ。
最初から兵数の少なさに関しての不安はあったけれど。
それでも一般人と魔術師では、
明らかに魔術師が有利なのよ?
瞬間的な火力が桁違いなんだから、
まともにぶつかり合えば押し負けるなんてありえないわ。
…それなのに。
現実は違っていたのよ。
およそ2500の正規軍と、
寄せ集めのはずの一般人が2万人。
城壁の上から弓を構える者達も含めると総勢3万弱でしょうけど。
攻め込んでいるはずの共和国軍が、
アストリア軍の猛烈な反撃を受けて押し戻されようとしているのよ。
…無意識の内に唇を噛み締めてしまうわね。
「うっわ〜〜。何なのよ…これ?」
…ええ、そうね。
言いたくなる気持ちはわかるわ。
どうやら翔子も戸惑っている様子ね。
翔子が戦場で見たもの。
それは『死を恐れず』に特攻してくるアストリアの兵士達よ。
10万もの数を揃えて。
砦という強固な防壁を持っているアストリア軍なのに。
防衛に徹するどころか、
死を覚悟のうえで特攻を行ってきているの。
普通に考えればアストリア軍が優勢で、
命懸けの特攻なんてする必要はないはずなのに。
『命懸け』というのなら、
それは人数の少ない共和国軍側であって、
アストリア軍は防戦さえ行っていれば良いはずだったのに。
…それなのに。
彼らは死を恐れずに、
無茶な特攻を繰り返しているのよ。
こんな展開は想像もしていなかったわ。
そもそも死んでも良いなんて考えを持っていること自体が異常なのよ。
なのに。
決死の突撃を行うアストリア軍の猛攻によって共和国軍は押し返されてしまっているの。
相手はほとんどが寄せ集めの一般人のはずなのに。
死ぬ気で仕掛けてくるから、
どれだけ攻撃しても一切諦めないのよ。
…これはもう、あれね。
『一人一殺』
自分の命と引き換えに魔術師を仕留めることを目的としているようにしか思えないわ。
だからこそ翔子も戸惑っているのよ。
どうしてそこまで命を懸けることができるのか?
どうして戦争に参加して死の特攻を行っているのか?
おそらく翔子には理解出来ないでしょうね。
私だってどうしてここまで戦えるのかが分からないわ。
包丁や草刈り鎌というとても武器とは呼べない凶器を手にしてるアストリアの兵士達。
それでも彼らは死を覚悟の上で共和国軍に突撃してくるのよ。
その気迫には鬼気迫る迫力があるわね。
「何でよ…!何でそこまでっ!?」
状況が理解できずに叫ぶ翔子だけど。
その問い掛けに答えてくれる者なんてどこにもいないわ。
その代わりに。
容赦なく振り下ろされる刃が、
動きを止めている翔子にも襲い掛かろうとしていたのよ。




