数よりも質
《サイド:米倉美由紀》
そろそろ午後11時30分頃かしら?
共和国軍は問題の砦に接近したわ。
北側を『総司令官』の鞍馬宗久。
西側を『司令官』の岸本克也。
南側を『隊長』の近藤悠護。
それぞれに各1万ずつの魔術師を預けて部隊を任せてあるのよ。
…そして。
肝心の私は5千の魔術師を率いて、
正門がある東側へと軍を進めているの。
もちろん私の部隊には、
切り札でもある御堂君達も参加しているわ。
総合的な戦闘能力がどうこうよりもね。
一撃の破壊力は間違いなく最上位だから、
御堂君達が本気になれば万単位の兵士達でも一掃できてしまうはずなのよ。
…まあ。
味方を巻き込まずに上手く狙えれば…だけどね。
知らない間に勝手に行動されても困るし、
攻撃力だけを見れば強力な戦力になると信じて同行してもらっているの。
ひとまず。
現状としては明かりも点さずに進軍してる最中なんだけど。
…さすがにね。
万を越える部隊の接近に気付かないほど砦の兵士達は馬鹿じゃないみたい。
『敵襲だー!!!』
『魔術師が攻めてきたぞーー!』
一気に慌ただしくなったわね。
当然だけど、私達の接近に気づかれたのよ。
…まあ、予想はしてたから慌てはしないけどね。
まずはアストリア軍に反撃の余裕を与えないために、
全ての部隊に突撃の合図を出すことにしたわ。
「一気に攻めるわよ!全軍前進っ!!!」
広大な砦を目指す4方の仲間達に、
突撃の指示を出したのよ。
夜空に打ち上げる開戦の合図。
炎の魔術による合図によって、
全ての魔術師達が一斉に動き出す。
「攻撃開始っ!!!」
文字通りの総攻撃よ。
突然の夜襲ということもあるけれど。
そもそもまともに兵士としての訓練を受けていないような寄せ集めの部隊なら10万人を揃えても私達の進行を止めるには到らないはず。
…情報が正しければ、だけどね。
もちろん天城君達を疑うつもりはないから、
アストリア軍の兵の質は低いという前提で部隊を分散して砦を攻め落とすことにしたのよ。
次々と城門を目指す魔術師達によって、
砦を包囲されたアストリア軍は恐慌状態に陥っているわ。
すでに砦の内部も大混乱になっているみたい。
遠目からでもはっきりと分かるのよ。
…さすがにね。
配備されているのが正規の軍じゃないのなら、
これは当然の反応だと思うわ。
もちろん本格的に動き出す正規軍もいるでしょうけど。
そもそも1万程度では話にならないのよ。
四方に送れる頭数は僅か2500人なのよ?
とても各方面1万人の魔術師に対応できる数ではないわ。
それにね。
「単純な数だけじゃ勝てないのよ。」
魔術師を殺したければ数よりも質が重要なの。
例え十万人集めようとも、
戦えない戦力では足止めにもならないわ。
まともにぶつかり合えば確実に共和国軍が勝てるはずなのよ。
…そう思いかけていたんだけど。
予想に反して、
アストリア軍の混乱が急速に収まり始めたわ。
その理由はただ一つ。
怒号と悲鳴が響き渡る砦の中で、
たった一人の人物の声が響き渡ったからよ。
「鎮まれっ!!!」
…なかなかの声量ね。
姿は見えないけれど。
声の質からして老人なのは間違いないと思うわ。
だけどとても老人とは思えない大声だったわね。
砦の外部にいる私達のところにまで届くほどの声量だったからよ。
…何かしらの伝達方法があるんでしょうけど。
それでもね。
重圧感すら感じさせる威厳のある声だったの。
…ただ声を聞いただけなのに。
私まで震えてしまうほどだったのよ。
この声はおそらく砦の全域に届いているでしょうね。
混乱が広がる砦の内部で、
老人の声に気付いた者達が一斉に砦の中央へと視線を向けたわ。
…砦の中央?
…ということは?
それって、あれよね?
国光君の報告から考えて、
天城君が忍び込んだと思われる建物よね?
その展望台に誰かがいるみたい。
指揮官と思われる人物の声に気付いた多くの兵士達が老人の姿を確認した瞬間に、
急速に冷静さを取り戻して一斉に頭を下げ始めたのよ。
戦場に広がる静寂。
私達の接近さえ無視する兵士達は、
指揮官の言葉に静かに耳を傾けていたわ。
「…皆の者よ…。」
語り始めた老人の言葉を、
多くの兵士達が耳を澄ませて聴き入ってる。
「これは我等が定めた宿命である。怯えることはない!!勇気を持って立ち上がれ!!死してなお、救われぬ者達の為に!そして今もなお、悲しみと共に生きる全ての者達の為に!憎むべき魔術師達を、一人でも多く道連れにするのだ!!!」
闇夜に響き渡る宣誓。
老人の宣言によって、
指示を受けたアストリア軍の全ての兵士達が体を震わせているように見えたわ。
…これは、何なの?
異様な雰囲気なのよ。
老人の激励を受けた瞬間に。
全てのアストリア軍の目つきが変わったの。
その目に宿る意思には軍人も素人も関係なく、
ただ戦いに身を投じる闘志が宿って見えたのよ。
…これはもう、正気じゃないわね。
普通じゃないのよ。
…そもそも戦争という時点で異常ではあるんだけど。
これはそういう問題じゃないの。
軍人でもないただの素人を戦士に変えるほどの何かがあるということよ。
「照栄様!」
誰かの呟く声が聞こえたわ。
…ああ。
あの老人は照栄だったのね。
その名前の人物が何者なのかを私は知っているわ。
…厄介なのが出てきたわね。
まさかこんな最前線に出てくるなんて思ってもいなかったけれど。
だけどあの場所にいるのがもしも本当に照栄だとすれば、
この戦いは相当面倒なことになると思うわ。
「「「「「照栄様っ!!!」」」」」
次々と老人の名を叫ぶ者達の声が砦全域に広がっていく。
「「「「「照栄様ーーっ!!!」」」」」
尊敬の眼差しを向ける者達の声を聞きながら、
照栄は全ての者達に宣言したのよ。
「今こそ悪しき魔術師達に立ち向かう時!!今こそ弱き者達による反逆の時なのだ!!皆の者達よ!恐れることなく立ち向かえ!全ての想いをさらけ出し!その心に刻まれた無念を晴らすのだっ!!!」
寄せ集められた人々を扇動する照栄。
その言葉を聞いた多くの者達が覚悟を決めて立ち上がる。
「今こそ戦う時だっ!!!」
誰かが叫んだわ。
そして大きな意志を秘めた弱き人々による戦いが…ついに始まったのよ。
「「「「「行くぞー!!!!」」」」」
武器を手に取って戦場へと走り出す人々。
その姿を眺めてから、
問題の照栄は後退したようね。




