偽装
ひとまずここまでは順調ですね。
ですが。
ここからが問題になります。
「このままでは巡回の兵士達に穴が見つかります!」
「大丈夫だ。すぐに塞ぐ。」
焦る栗原さんが慌てる隣で、
天城さんは冷静に穴へと手を伸ばしてからルーンを発動させました。
瞬間的に光り輝く剣が現れます。
私も天城さんのルーンを見るのは初めてなのですが、
剣を構えた天城さんは何らかの力を発動させようとしています。
「クリエーション!」
掘り進めた穴に向けて展開される魔術。
魔術が発動した直後に煌めく光りが放たれて、
侵入の為に開いたはずの穴が一瞬にして復元されました。
「穴が消えた!?」
驚く栗原さんですが、
それは私も三倉さんも琴平さんも同様です。
魔術は破壊に特化しているために消し去ることは簡単なのですが、
元に戻すことはできないはずです。
何もない空間を土で埋めるなどということは決して出来ません。
その理由はとても簡単です。
存在しないものを作り出すことはできないからです。
「…凄い…。」
私も素直にすごいと感じました。
特に何も言わずに無言で地面から神剣を引き抜いた天城さんは、
侵入の証拠を消し去ったことでルーンを解除しています。
「物質の再構築が可能なのですか!?」
驚きのあまりに慌てて問いかけてしまいました。
破壊に関する魔術は星の数ほどありますが、
復元出来る魔術など今まで見たことがないからです。
だからこそ驚いてしまったのですが、
天城さんは極々冷静に答えてくれました。
「魔力を凝縮、擬装して再現しているだけだが、それでもほぼ同一のものと言えるだろう。さすがに生命に関わる魔術は存在しないから生物を作り出すまではできないが、この程度なら出来る。」
物質の再現ですか。
素晴らしい能力ですね。
「復元の能力は初めて見ました。」
「精霊を作り出すのと同じようなものだ。自然現象を魔力で構築する能力があるのなら大地を復元するのは難しくはないだろう。」
ああ、なるほど。
精霊の理論の応用ですか。
それなら理解できなくもありませんね。
ですが、とても難しい技術だと思います。
そのような技法は今まで聞いたことがありませんからね。
「もしもそれが可能だとすれば、あらゆる金属も増殖できるのではないですか?」
例えば金などですが。
「いや、無理だろうな。無理にやろうとすれば風化するか化石化するくらいだろう。そもそも復元はあくまでも元に戻すという考えだ。大地に干渉して土を戻すくらいは出来るが、それだけでしかない。決して増やしているわけではないからな。」
「それでは…増殖か、あるいは増加は不可能ということですか?」
「復元では無理だな。作成そのものは別の方法で出来るかもしれないが、出来上がる物は偽造品でしかない。100%本物というのは無理だろう。元が魔力だからな。幻術に近い誤魔化しになるだけだ。」
ああ、幻術ですか。
確かにそうかもしれませんね。
「それでも凄いですよ。」
「あくまでも魔術で再現した偽物に過ぎないからな。増幅系は魔力が消失するか、解呪系統の魔術の影響を受ければ消失するはずだ。」
「…なるほど。そういう欠点はありますか…。」
「ああ。だが、復元した物質は解呪でも消えない。そもそもそこにあるものだからな。」
ふむふむ。
色々と法則があるのですね。
増殖は元が魔力だから解呪で消え、
復元は元が物質だから解呪で消えないということでしょうか?
どちらも魔術的に行っているとは言え、
媒体の有無によって結果が変わるということなのかもしれません。
一例としてわかりやすく言うなら、
回復魔術で治療した傷が解呪で再び悪化することがないという話でしょうか。
人体を治療するのと同じように、
大地も治療したという考えであれば、
復元の能力も理解できるような気がします。
「なんとなくですが理解できたような気がします。」
「そうか。それならいいが…」
感心する私から視線を背けた天城さんは王都の内部を見回しました。
「ここで立ち止まっている暇はないからな。問題の兵器がどこにあるのかを調べるぞ。」
ええ、そうですね。
天城さんの指示に頷きます。
「行きましょう。」
無事に王都の内部へと潜入することに成功した私達は急いで夜の王都を移動することにしました。




