心意気
《サイド:米倉美由紀》
午後10時。
一通りの食事が終わったことで最後の晩餐が終了したわ。
結局、箱の中身まで全て完食した北条君と武藤君だけど。
それでも食べ足りない二人は、
揃って配給所に向かっていたらしいわ。
だけどあっさりばっさり却下されて、
しぶしぶ食事を諦めていたようね。
「もう十分過ぎるくらい食べすぎなのよ!!」
本気で怒る翔子だけど。
「もっと食いてー!!!」
北条君は全く気にせずにお腹をさすりながら大声で叫んでる。
…うぅ~ん。
さすがにこれはちょっと…ね。
あまり騒がれるとちゃんと食べさせてあげてないみたいで恥ずかしいから出来れば大声で叫ぶのは控えて欲しいわ。
「…はいはい。はしゃぐのはそこまでにしてくれる?さすがに私のところにまで配給係から苦情が来てるわよ。」
いくら立場的にはこの子達の保護者といってもね?
こんなくだらないことで苦情を言われることになるとは思ってもいなかったのよ。
「続きは戦争が終わってからにしなさい。ちゃんと生きて帰れたら、私が何でも食べさせてあげるから。」
もちろん限度はあるけどね。
だけど私の言葉を聞いた北条君は叫ぶのを止めてくれたわ。
そして、即座に確認してきたの。
「今の言葉は本当だな!?」
「ええ、約束するわ。」
『何でも』だけど。
『好きなだけ』じゃないわよ?
もちろんそこは曖昧にしておくけどね。
「よっしゃー!!それまでに全力で腹を空かせておくぜ!!!」
うんうん。
上手くごまかせたわね。
笑顔で騒ぐ北条君を見て、
ひたすらため息を吐いてしまったわ。
…まあ、何でもいいんだけどね。
とりあえず私のお財布がカラになるまでは付き合ってあげるつもりよ。
もちろんみんなの分も含めて、だけどね。
「程々にしないと本当にお腹が裂けるわよ?」
「心配はいらねえ!食える時に食う!!それが俺の流儀だ!!」
………。
それって流儀なのかしら?
単に暴食だと思うんだけど?
本気で言い切る北条君のせいで、
私だけじゃなくて御堂君や翔子達もため息を吐いていたわ。
「本当に底無しね~。」
呆れる翔子だけど。
問題児は一人じゃないのよ。
「って言うか、こっちの馬鹿も食べ過ぎですよね!?」
疑問を呟く悠理さんの視線の先には何を考えているのかイマイチ良く分からない武藤君がいるわ。
彼の胃袋もどうなってるのか疑問だけど。
北条君と同じくらい食べてたんじゃないかしら?
こういうのを食欲旺盛っていうの?
何か違う気がするわね?
育ち盛りなの?
成長期なの?
それとも病気なの?
良く分からないけれど。
悠理さんの言葉を聞き付けた武藤君は笑顔を見せていたわ。
「今の内にしっかり食べて栄養をつけておかないと、いざという時に悠理を守れないからな!」
「はぁっ!?だからそれが余計なお世話だって言ってるでしょ!!ってか、学園最弱のあんたに何が出来るのよっ!?」
「頑張れば何でも出来るっ!!」
…うぅ~ん。
どうなのかしら?
結果を気にしないという意味でなら、
確かに何でもできるとは思うけれど。
結果を出そうと思うのなら実力は大事なのよ?
まあ、何を言っても聞いてくれなさそうだけどね。
自信を持って答える武藤君の言葉が実践されたことはないと思うけれど。
その心意気だけはずっと変わらないから。
ある意味では素晴らしい才能だと思うわ。
そんな武藤君だから、
御堂君は微笑ましく眺めているのかもしれないわね。
「ははっ、そうだね。目的はともかくとして、諦めたらそこで終わりだからね。」
「はいっ!!だから僕は絶対に諦めません!悠理が振り向いてくれるまで全力で頑張りますっ!!」
…う〜ん?
どこまでも方向性が間違ってるのよね~?
発言自体は男らしいと思うけれど。
ここまで実力が伴わない発言は聞いたことがないわ。
だから、でしょうね。
無駄に気合いを入れる武藤君に対して、
悠理さんは冷たい眼差しを向けているのよ。
「…だからさぁ?それはないってば…」
…まあ、ね。
言いたくなる気持ちはわかるわ。
言っても、通じないんだけどね。
まだこの子達の関係性はよくわからないけれど。
悠理さんの心労だけは何となく理解できるわ。
…でも、ね〜?
好きな人に好きって言える勇気というか、
その心意気だけは男らしくて良いと思うわよ。
変にこそこそして何を考えてるかわからない気持ち悪さがないだけまだ良いんじゃない?
こういう一途さは大事なのよ。
例え想いが届かないとしてもね。
武藤君の純粋さ『だけ』は、ありだと思うわ。
目をつけられてしまった悠理さんは不運かもしれないけれど。
傍目で見てる分には青春してるって思うのよ。
…だからね。
そんな緊張感のない生徒達を眺めているとね。
何故か自然と微笑んでしまったわ。
…こうなるともうダメね。
気が緩んでしまうのよ。
「…ったく。あなた達を見ていると、真剣に悩んでる自分が馬鹿馬鹿しく思えて来るわね。」
これから戦場に向かうっていう状況なのに。
どうしても緊張感が薄れてしまうのよ。
「ちゃんと気合を入れなさいよ?」
自分自身に言い聞かせつつ話しかけていると、
背後から鞍馬元代表が歩み寄ってきたわ。
「はっはっは、良い生徒を持ったようだな。」
思いっきり笑われてしまったわね。
ただただ恥ずかしいからこの子達を見ないでほしいんだけど。
見られちゃったからには仕方がないわ。
愛想笑いを浮かべながらも、
慌てて頭を下げたのよ。
「ご迷惑をおかけしてすみません。」
「いやいやいや。子供達はそれぐらい元気な方が良いだろう。その笑顔こそが、この国の目指している守るべき未来なのだからな。」
…守るべき未来、ですか。
確かにそうですね。
こんなふうに馬鹿騒ぎできる未来なら楽しいかもしれませんね。
「騒がしいくらいがちょうどいい。それこそ生きているというものだ。そうは思わないか?」
…う~ん?
ちょうどいいかどうかは疑問だけど。
生きているからこそ騒げるという意味ならまあ、納得できなくはないわね。
「そうですね。良いと思います。」
大きな声で笑い出す鞍馬元代表と向き合いながら同意してみた私は、
改めて気持ちを切り替えて問い掛けることにしたわ。
「それで、準備はどうですか?」
「ははっ。それならすでに整っておる。指示さえあればいつでも行動出来るぞ。」
つまり、私達の準備待ちってことね。
鞍馬元代表の返事を聞いて即座に決断を下すことにしたのよ。
「それなら行きましょう。敵の本隊が動き出す前に砦を落とします!!」
それだけで戦争が終わるわけじゃないけれど。
そこから始めなければ何も変わらないのよ。
「進軍します!!」
力強く宣言する私の決断を受け入れて、
鞍馬元代表が兵士達に指示を出してくれたわ。
「良し!では、行軍を開始するぞ!!」
鞍馬元代表を中心として、
全ての魔術師に伝令が広がっていく。
「全軍行動を開始せよっ!!!」
指揮を執る岸本司令官の言葉を合図として、
一斉に動き出す3万5千の魔術師達。
共和国の未来を決める戦争が、今…始まろうとしているのよ。




