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THE WORLD  作者: SEASONS
4月16日
775/1254

コート

「お待たせ致しました!」



大きな木箱を鞍馬元代表の前に下ろした兵士は、

木箱の蓋を外してから中身を見せてくれたわ。



月明かりと篝火の明かりが照らし出す木箱の中身。


鞍馬元代表自身も確認の為に覗き込む箱の中には、

綺麗に折り畳まれた数着の服が仕舞われていたのよ。



「うむ。間違いないな。」



中身を確認した鞍馬元代表が話しかけてくる。



「これが頼まれていた物だ。」


「ありがとうございます。」



箱の中身は私も確認したわ。


中に入っているのは大小10着を越える戦闘用の服よ。



大きさまで指定する余裕はなかったから、

適当に揃えてもらうように頼んでいたんだけどね。


鞍馬元代表はちゃんと私の希望通りに用意してくれていたみたい。



「無理を言ってごめんなさい。」


「いやいや、この程度ならば大した手間ではない。朱鷺田に声を掛けたら僅か数時間で用意しおったからな。」



…ああ〜。


…そうなのね。



これはこれで困ったわ。



楽しそうに笑い出す鞍馬元代表だけど。


話を聞いた私はマールグリナの知事である朱鷺田直道ときたなおみちに、

挨拶さえ出来ないまま出発してきたことを少しだけ後悔してしまったのよ。



「帰ったら、ちゃんとお礼を言わないとね。」



今更後悔しても遅いわ。


だから反省はしながらも、

背後にいる御堂君達に振り返って指示を出すことにしたのよ。



「それじゃあ、準備を始めましょうか。」



箱の中の服を指差す。



「今から皆にはここにある服を着てもらうわ。学園の制服は『対魔術用』に加工してあるけれど、これから行うのは魔術戦ではなくて物理的な戦闘よ。向こうは武器を手に襲い掛かって来るから、これはその為の防護服になるわ。魔力を込めれば、ある程度の攻撃を防いでくれる特殊な服なのよ。」



国境警備隊や治安維持部隊も着用している対物理攻撃用の防護服なの。



だからね。


グランパレスで栗原薫さんが天城君に用意した服と同じ効果があるわ。



形は様々だけど。


今の制服の上から着るだけで良い魔術師用のコートなのよ。



本当ならしっかり着込めるローブが良いんだけどね。



さすがに動きにくくなる服装はどうかと思うし。


前線で戦う御堂君や北条君には似合わないでしょうから。


今回は動きやすいコートを用意してもらったのよ。



「時間がないから、ささっと袖を通しちゃって!」



急かしながら出した指示に従って、

御堂君達はそれぞれに木箱の中のコートを手にとっていったわ。



「思ったよりも軽いわね~。」



真っ先に選んだ翔子がコートを羽織る。


膝下まで届くロングコートは春の夜風を遮って体を暖めてくれるはずよ。



「これはこれで便利ね〜。見た目も可愛いし。」



…確かにそうね。



軍の支給品とは思えない可愛らしい装飾の白いコートは普段着としても使えそうな一品だと思うわ。



たぶん、事前に生徒用だと伝えていたから、

気を利かせて選んでくれたんでしょうね。



…で。



他のコートを選ぶ子達にも視線を向けてみると。


沙織が選んだのは翔子と色違いの藍色のコートだったわ。



「これにしようかしら?」



色以外はほとんど同じはずなのに、

沙織が着ると大人っぽい雰囲気があるわね〜。



…やっぱりこういうのは性格が滲み出るのかしら?



色が違うだけなのに、

翔子は子供っぽく見えるのが不思議なのよ。



…まあ、深海さんや悠理さんに比べれば全然マシだけどね。



「私は…これにします。」



深海さんが選んだのは翔子もちょっぴり羨ましそうに眺めてる純白でふわふわの可愛いらしいコートよ。



コートの大きさは翔子と同じくらいだけど。



…少し短めかしら?



腰の辺りにリボンが付いていて、

長さは膝の辺りまでしかないわ。



…さすがに翔子や沙織に比べると。



だいぶお子様っぽく見えるわね。



実施にはそこまで年齢が離れてるわけじゃないのに、

実年齢よりも幼く見えてしまうのは性格の問題でしょうね〜。



「…じゃあ、私はこれかな~?」



悠理さんが選んだのは深海さんと同じ形で色違いの桃色のコートよ。



年相応というか…まあ、

どちらにしてもお子様に見えるわね。



…でもまあ、一応最年少にはなるのかしら?



深海さんはすで誕生日を終えているから、

年齢的には悠理さんが一番年下のはずなのよ。



…まあ、年齢なんてどうでも良いけどね。



あまり年齢を考え出すとね。


私だけ『ちょっと年上』っていう事実に泣きそうになるからよ。



…ホントよ?



ちょっとだけなのよ!



…9歳差なら、ほら!



ギリギリ一桁差だから、ちょっとのはずよ!!



沙織翔子となら6つしか変わらないから、

ちょっと年上のお姉さんでしかないわ!



そうでしょ!?


そうに決まってるわ!!



…って。



叫んだところで虚しいだけよね。



とりあえず4人の選んだコートを見て思うことはただ一つ。



…みんな見た目で選んでるわよね?



別にいいんだけど。


お出かけに行くわけじゃないのよ?



この状況でおしゃれさとか可愛らしさって必要なのかしら?



ちょっぴり疑問に感じるけれど。


そもそも用意されてるものだから、

もっと真剣に選びなさいとも言いづらいわね。



まあ、気に入ってくれたのならそれで良いんだけど。



続いて選んだのは御堂君よ。



「僕はこれにしようかな。」



御堂君が選んだのは無駄な装飾のない足元まで届く質素な漆黒のコートだったわ。


どちらかと言えば色合い的に天城君が着たほうが似合いそうな気がするけれど。



それでも御堂君が着ると、

とても格好よく見えるわね。



続いてコートを手にとったのは北条君よ。



「動きにくくなる服は、あんまり好きじゃねぇんだが…」



一番短いコートを選んだ北条君は防具としての効果よりも動きやすさを重視して選んでいるようね。



その判断は良いと思うわ。


むしろ北条君の考え方が正しいのよ。



見た目よりも実用性!



それが戦場を生き抜くコツだと思うわ。



…そして。



最後に歩みを進めるのは武藤君よ。



「これが無難かな?」



残りの中から動きやすそうなコートを選んで袖を通してる。



武藤君の場合は見た目や実用性と言うよりも、

単に余り物の中から適当に選びましたっておう雰囲気があるけれど。



…たぶん根本的に服装に興味がないんでしょうね。



良いか悪いかと聞かれたら、

間違いなく悪いんだけど。



おそらく悠理さん以外に興味がないんでしょうね。



そんな雰囲気が感じられるのよ。



…まあ、その辺りもどうでも良いんだけど。



ひとまず7人全員がコートを選び終えたのを確認したあとで再び仕切ることにしたわ。



「みんな準備出来たわね?」



頷く一同。



全員が準備を終えたことで、

鞍馬元代表が話しかけてきたわ。



「…さて。順番が前後してしまったが、美由紀にはこれを渡しておこう。」



…ん?



鞍馬元代表が一通の封書差し出してくれたのよ。



真っ白な封筒。


表も裏も、何も書かれていないわ。



…でもまあ。



差出人だけは分かるわね。


封蝋が押してあるからよ。



赤い蝋に刻印された紋章。



これを見ただけでアストリア王国から送りつけられたものだと判断できてしまうわ。



「…これは?」


「中身はまだ確認していないが。アストリアの使者が1時間ほど前に届けに来た物だ。」


「え…っ?」



…1時間前!?



それはつまり。


私達がマールグリナを出立した頃に届けられたということよ。



…はぁぁぁぁぁ。



ただただ嫌な予感しかしないわね。



戸惑いを感じながらも急いで封書を開封してみたわ。



封書の中身はたった一枚の書状だけ。



そこに書かれているのは一方的な宣言だったのよ。



『明日の夕刻までに降伏しない場合。全軍を持って共和国に進軍する』



ただそれだけが記されていたの。



だけどね。


この書状こそが『宣戦布告』だと私と鞍馬元代表は判断したのよ。



この書状が偽りでなければ、

明日の夕刻には軍隊が動き出すことになるわ。



今の時刻を考えると、

ほぼ一日の猶予があるけれど。



一日しかないとも言えるわね。



「…どんどん状況が悪化するわね〜。」



不満は感じるけれど。


こうなった以上は行動するしかないのよ。



「すぐにでも軍は動かせるの?」


「もちろんだ。すでに準備は整っているからな。いつでも進軍は可能だが…。だが出発の前に一つやるべきことがある。」


「…やるべきこと?」



首を傾げてしまった私に、

鞍馬元代表は笑顔で答えてくれたわ。



「食事だ。」


「…食事?」



…この状況で?


…今から食事?



…これから戦争を始めるのに?


…どうして今からなの?



色々と疑問を感じるんだけどね。



私が問い掛ける前に、

鞍馬元代表は笑顔のままで答えてくれたわ。



「戦争である限り死の危険は否定出来ん。これが最後の食事になるかもしれない者達が大勢いるだろう。ならば出発の前くらいは思う存分食わせてやるのが、せめてもの思いやりだとは思わんか?」



…あ〜、まあ、確かに。



これが最期なる可能性は否定できないわ。


全員が生きて帰れるなんて甘い考えは捨てる必要があるのよ。



だからそれくらいの配慮は必要になるの。



…と言うよりも。



この程度の配慮くらいはしておかないと、

全体の士気が上がらないでしょうね。



鞍馬元代表の言葉を聞いた私は、

焦る気持ちを押さえながら同意することにしたわ。



「…そうですね。その方が良いかもしれません。」



最後の休憩を取るために。


御堂君達に振り返ることにしたのよ。



「聞いての通りよ。全員が生きて帰れる保証なんてないから、全員揃っての食事はこれが最後になるかもしれないわ。」



命を失う可能性はね。


誰にでもあるのよ。


それこそ私や御堂君達でさえ無関係ではないの。



この中の誰か一人でも欠けてしまったら、

もう2度と全員が揃うことはなくなってしまうのよ。



「だから悔いのないように、思う存分楽しみなさい。」



指示を出す私の背後で、

鞍馬元代表も兵士達に指示を出していたわ。



「最後の晩餐だ!!倉庫の全ての食糧を開放して、全員に行き渡るように手配しろ!」


「はっ!了解しました!!」



即座に動き出す兵士達。


すでにある程度の準備は整っていたんでしょうね。


食糧の配給は滞りなく行われていったわ。



忙しく動き回る国境警備隊の兵士達。


その姿を眺めながら思うことはただ一つ。



「最後の晩餐…ね。」



確かにそうかもしれないわ。



ここにいる3万5千人の内の何割が生きて生還できるかわからないけれど。


戦いの中で死んでいく仲間達は確実に出てくるのよ。



…全員が生きて生還なんてありえない。



それこそアストリアが無条件降伏でも宣言しない限り戦いが終わることはないのよ。



だから争い続ける限りは必ず誰かが死んでいくの。


それがアストリア軍の命ならどうでもいいとは言えないけれど。


出来ることなら一人でも多くの仲間達が生き残ることを願うわね。



…とは言え、それでもね。



これが最後の食事になる人もいるはずだから、

せめて今だけは楽しい思い出であってほしいと思うわ。



少なくとも…私自身はそう思うのよ。



…もしも。



もう二度とこの国に帰って来れないとしたら?



悔いのない最期を迎えたいと思うの。


最後まで自分らしく。


ほこらしく在りたいと思うのよ。



…だから今は。


…今だけは。



これから始まる戦争に不安を感じつつも。


最後になるかもしれない食事を始めることにしたわ。



大切な生徒達の笑顔を見守りながら。


少しでも多くの思い出を作りたいと願ったのよ。



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