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THE WORLD  作者: SEASONS
4月16日
773/1242

帰還報告

《サイド:琴平重郎》



『ドンドンドンッ!!!』と扉を叩く音が聞こえた直後に。


会議室の扉が勢いよく開かれました。



「遅くなってすみません!!」



慌てて室内に駆け込んできたのは私もよく知る人物です。


米倉代表や御堂君達にとっては初対面だと思いますが、

私にとっては顔なじみの生徒でした。



…ですが。



だからこそ疑問を感じてしまいます。



彼は…国光昭人君はここにいるはずのない生徒だからです。



アストリア国内に潜入させていた生徒の一人であり。


砦の北部にあるノーストリアムの町を調査するために、

一週間ほど前から学園を離れていたはずです。



その国光君の突然の帰還を不審に感じてしまいました。



「何故、きみがここに…?向こうで何かあったのですか?」


「それが…」



国光君は少しだけ戸惑うような表情を見せてからノーストリアムでの出来事を話してくれました。



今日の午前中に起きた出来事を説明してくれたのです。



「潜伏していたノーストリアムで、栗原徹と琴平愛里に出会いました。」


「…!?」



国光君の報告に私は驚きを隠せませんでした。



ですがそんな私の驚きに反して、

御堂君達は笑顔を浮かべている様子です。



彼と共に姿を消していた仲間が砦の外で行動しているという事実に期待と希望を抱いたのかもしれませんね。



…とは言え。



その判断はまだ早いのではないでしょうか?



彼らは『砦の調査』に向かったのです。


そして手に入れた情報をマールグリナに持ち帰るのが今回の任務なのです。



それなのに。


方角的に真逆とも言えるノーストリアムに移動しているという報告は明らかに異常な出来事です。



栗原君と愛里の生存情報は嬉しく思いますが、

同時に言い知れない不安を感じてしまいました。



「…話が出来たのですか?」



見かけただけではなくて、

直接話ができたのかどうかを問いかけてみると。


国光君は即座に頷いてくれました。



「はい。例の天城総魔を含めて5人で行動していると聞きました。」



国光君の言葉を聞いた瞬間。


この場にいる誰もが、ほっと息を吐きました。



「…そうですか。彼等は無事なのですね?」


「そのはずです。直接確認したわけではありませんが、徹達からはそう聞いています。」


「ふむ…そうですか。それが事実であれば喜ばしい出来事ですが…なぜ彼らはノーストリアムに?」



私の疑問に対して、

国光君は栗原徹君から預かったという伝言を伝えてくれました。



「その…。徹達はこちらに戻らずに直接『王都』へ向かうそうです。」


「な、なんですと…っ!?」


「あくまでも伝え聞いた話ですが…」



国光君は栗原徹君から聞いた報告を説明してくれました。



『砦にいるのは寄せ集めの部隊であること』


『共和国軍の足止めが目的であり、本当は別の目的があること』


『その目的は未確認の戦略兵器による遠隔攻撃の可能性が高いこと』



それらを説明したことで、

国光君は報告を終えました。



「なんと…。」



予想していなかった報告によって言葉を失ってしまいました。



それは御堂君達も同じようで、

どう言えば良いのか悩んでいる様子ですね。



…ただ。



誰よりも冷静でいることを心がける米倉代表だけは、

静かに席を立ってから国光君に問い掛けていました。



「その『戦略兵器』がどういう物なのかを確認する為に天城君達は調査に向かったのね?」


「はい。そう聞いています。」



自信を持って頷く国光君の返事を聞いて、

米倉代表は僅かに思考し始めました。



もちろん私も考えを止めるつもりはありません。



…ですが。



アストリア軍の砦と10万の軍隊だけでも厄介な状況です。


ここにさらなる兵器の投入となると、

もはや私の手に負える状況ではありません。



…どうするべきでしょうか?



兵器の実在と効果を判断するには情報が少なすぎます。



現状では考慮出来ません。



今出来ることは『早急に砦を制圧すること』だけです。



そして可能であれば『天城君達の援護に向かうこと』でしょうか。



兵器の発動を阻止することに関しては、

現状では彼らに期待するしかありません。



仮に救援に向かうにしても間に合うかどうかは疑問が残りますが、

急げば急ぐほど彼らの生存率は高くなるはずです。



そしてその考えは米倉代表も同じ様子でした。



「こうなると急いだ方が良さそうね。」


「すでに進軍の準備は整っています。ですが、兵器の効果が不明な現在。軍を動かしても狙撃される可能性は否定出来ません。」


「そうならないことを祈るしかないわ。それにここで立ち止まっていても、いずれ狙われることになるのよ。その威力の大小に関わらず、被害は避けられないわ。だったら敵の中に飛び込んだ方がまだ安全よ。」



同士討ちを避ける為に、

砦への兵器の使用は控えるはず。



だから『砦は安全地帯』と判断したのでしょう。



その考えは理解できます。



「直接、共和国の町を狙われるのは困るけど、こちらの防衛戦力で上手く相殺出来ることを祈るしかないわね。」



…いつ来るか分からない攻撃に対しての防衛など。



「正直、期待は出来ませんが…出来る限りの努力はしてみます。」



兵器の射程距離さえ不明なのです。


どこに部隊を配備して、

どう対応すればいいかなど考えようがありません。



…ですが。



何もしなければ被害は広がるばかりです。



出来ることはほとんどないのかもしれませんが、

それでも緊急時に対応出来るだけの準備くらいはしておくべきでしょう。



「国内に関してはお任せ下さい。」


「ええ、よろしくね。」



米倉代表は町の防衛を私に托してから御堂君達へと振り向きました。



「それじゃあ、行くわよ!ここからが本当の戦いになるわ。命を賭けた『戦争』が始まるのよ!!」



宣言する米倉代表に続いて、

御堂君達も覚悟を決めて立ち上がりました。



「総魔を見つけだすまで、死ぬつもりはありません!」



力強く宣言する御堂君。



「命掛けくらいが丁度良いだろ。」



笑顔を浮かべるのは北条君ですね。



「総魔を見つけて反省させるって決めたのよ!」



気合いを入れる美袋さん。



「必ず、みんなで生きて帰ります。」



宣言する常盤さん。



「総魔さんを…助けたいです。」



祈りを込める深海さん。



そして。


時間の経過と共に薬の効果が現れたようですね。


乗り物酔いから復活した近藤さんが、

全力で深海さんの手を握りしめていました。



「優奈は私が守るわ!!」


「だったら、悠理は僕が守るっ!!」



力一杯宣言する武藤君でしたが。



「あんたはいらないのよ…。」



呟く近藤さんの言葉をあっさりと聞き流した武藤君は再び宣言していました。



「悠理は僕が守るっ!!!!」


「…はぁ。もう、勝手にして…?」



ため息を吐く近藤さんを気にせずに、

武藤君は気合い十分に燃え上がっていますね。



どういう関係なのかはよく分かりませんが、

助け合う気持ちは大切です。


今は何も言わずに見守るほうがいいでしょう。



「…まあ、なんでもいいけどね。」



米倉代表も達観した様子ですね。


全員を眺めてから指示を出していました。



「もう休憩してる暇なんてないわ!急いで共和国軍に合流するわよ!!」


「「「「「「「はい!!」」」」」」」



全員の声が揃う中で、

私に振り返った米倉代表は最後の挨拶をしてくれました。



「それじゃあ、あとのことは任せたわよ。」


「はい。最大限の努力はいたします。そのために…という言い方はおかしいかもしれませんが、この町からの援軍はもうありません。手持ちの部隊だけでいかに戦況を覆すか…米倉代表の実力と采配に全てがかかっています。」



共和国の全軍をアストリアに向けるわけにはいかないからです。



隣接するセルビナとミッドガルムへの牽制。


そして周辺海域の防衛など。


共和国全域に部隊を広げなければならないのです。



…それになにより。



各国からの密偵や工作部隊を撃退するだけの自衛力も必要です。



さらには国内の問題もあります。



協調性のない自分勝手な魔術師や、

そもそも魔術師ではない一般人など。


共和国を裏切る可能性のある人物が絶対にいないとは言い切れないのです。



戦争に勝つために戦力を派遣することによって、

各町の治安は確実に低下してしまいます。



その間に犯罪を企む人物も少なからずいるでしょう。



そういった内部の問題にも目を向けなければならないのです。



そのせいで。


ありとあらゆる戦力をアストリアだけに向けることはできないのです。



「圧倒的に不利な状況ではありますが、苦難を乗り越えて勝利を手にする日を心より願っております。」



私には願いを込めることしかできません。



ですが。


そんな私を米倉代表は励ましてくれました。



「苦難はお互い様よ。限りある戦力で、それぞれの立場で出来ることをするしかないの。だから落ち込むのはやめましょう。国内に関しては貴方達に任せるわ。」



米倉代表は誰を責めることもなく、

会議室を出て行きました。



そのあとを追う御堂君達。


最終的に会議室には私と国光君だけが残ることになりました。



「良く知らせてくれましたね。あなたのおかげで少しは戦況が良くなるかもしれません。」


「…いえ。情報を集めたのは徹達です。感謝するならあいつらにしてください。」



おごることもなく。


感謝を求めることもなく。


国光君も私に背中を向けました。



「潜入に戻ります。自分に出来ることは精一杯しておきたいので…。」



帰ってきたばかりだというのに、

国光君も会議室を去ってしまいました。



誰もが命懸けで行動しているのです。



「自分に出来ること…ですか。」



私に出来ることは皆さんの無事を祈るだけですが、

それでも考えられる努力は全てしておきましょう。



この町の今後のために。


そして一人でも多くの人々を守り抜くために。



私も…会議室をあとにしました。



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