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THE WORLD  作者: SEASONS
4月16日
771/1254

最高位の魔術医師

《サイド:常盤沙織》



理事長と琴平学園長の2人がそれぞれの馬車を移動している間。


私達は薫の案内で学園内の会議室を目指して移動することになりました。



4階建ての校舎の3階にある会議室です。



その一室に向かう途中で、

隣を並んで歩く薫に話しかけることにしました。



「…ねえ、薫。ちょっと相談があるんだけど、聞いてもらってもいいかしら?」


「ん…?何?私で良いなら聞くわよ。」


「ありがとう。」



お礼を言ってから、

先ほどの休憩で龍馬から預かっていたノートを鞄から取り出します。



「この部分なんだけど…。」


「ん~?」



差し出したノートを受けとった薫は、

すぐに内容を確認してくれました。



「これって…眼の治療法?」



そう記されているから、

そうだと理解してくれたようですね。



ですが。


その一文がなければ何の理論なのか分からなかったかもしれません。



幾つもの理論を連ねて構築された理論だけを見ると。


それが何の為の理論なのかさえ理解出来ないほど複雑な魔術構成だからです。



「…う~ん。理論そのものは理解出来なくもないけど…これを実際に使おうと思うと相当難易度が高いかも?」


「それは…実現不可能ということ?」


「そこまでは言わないわ。理論上は正しいと思うし、有効的な方法だとも思うから。」



出来ないわけではないようです。



「きちんと理論通りに発動出来れば治療出来なくはないはずよ。」



出来れば…と言うことは。


そもそも出来ない可能性もあるということでしょうか?



「…ん〜。ちょっと工程がややこしいから完璧に実践出来るかどうかは正直に言って自信がないかな?」


「…そう。やっぱり難しいのね…。」



天城君にしか実現出来ない理論なのかもしれません。



「あ〜、う〜ん。なんて言うか…難しいって言うか…そもそも仮説だけで実験記録がないから発動出来ても効果があるかどうかが不明なのよ。」



…ああ。



そういう意味なのですね。



理論がどうこうよりも、

発動させた魔術が実際に効果を発揮するかどうかが分からないという意味のようです。



「意味があるかないかは実際にやってみなければ何とも言えないわ。でも…これはちょっと、厄介ね。」



薫は天城君の記したノートを読み直して小さくため息を吐いています。



「誰の理論か知らないけど、これを考えた人はとんでもない天才よ。」


「…どうしてそう思うの?」


「普通の医師なら考えもしないと思うからよ。」



………。



その意見はなんとなく分かります。


天城君は医師ではありません。


医療の技術もないと思います。



「一応、補足まで加えた詳細な方法が記されてるけど、指示通りに実践しても私だと使いこなせる自信がないわ。これは医療技術じゃなくて身体強化に近いから管轄外なのよ。」



…確かに。



天城君の残してくれた理論は医療技術ではありません。


瞳そのものを治療するのではなく、

瞳に本来の視力を付与するという方法だからです。


そこまでは私にも理解できたので把握しているつもりです。



「私が思うに、これを使えるのは理論を考えた本人か…あるいは馬鹿な兄貴くらいでしょうね。」


「…お兄さん?」


「そうそう。私の兄貴はね。色んな意味で馬鹿だけど、実力は凄くあるのよ。」



実力はあるのに馬鹿って、

どういう意味でしょうか?



「本当は私以上の実力があるくせに、私を1位にしたいだけの理由でわざと出来ないふりをしているのよ。」



…ああ、なるほど。



それはちょっと…変わったかたですね。



「才能というか技術的な部分を見れば学園長さえも上回ってると思うわ。たぶん、兄貴が本気になれば、きっと共和国で最高位の魔術医師になれるんじゃないかな?」



最高位の魔術医師…ですか。



薫がそう言うのなら疑うことはしませんが、

それはつまり私が尊敬する神崎慶一郎さんと同格ということです。



本当にそうだとすればとても凄いと思うのですが、

実際にお会いしたことはないので今はまだ何とも言えません。



ですが。



天城君のように突出した才能を持つ人が他にもいたとしても不思議ではないと思います。


だから自信を持って答える薫の言葉を聞いた私は質問を続けることにしました。



「確かお兄さんも…この学園の生徒だったわよね?」


「ええ、そうよ。でも…今はいないわ。」


「え…?そうなの?」


「…ええ。少し…ね。遠くに出掛けてるから…。」



外出中だと答えてから薫は足を止めました。



「…着いたわ。ここが会議室よ。」



薫の視線が示す先には、

第2会議室と書かれた扉があります。


遠慮なく扉を開いた薫は会議室の中へと歩みを進んで行きました。



夕暮れの陽射しが差し込む会議室。


無人の部屋に入り込んだ薫は私達を室内に招いてくれました。



「とりあえず適当に座って待ってて、すぐに学園長達も来るはずだから。」



こうして道案内役を終えた薫ですが、

再び私に話しかけてくれました。



「ねえ…沙織。このノートは私が借りてても良い?」


「え、ええ…良いけれど…?」



天城君に無断で借りているノートを貸し出すということに対して少し罪悪感を感じます。



ですが私達の事情を知らない薫は、

ノートを片手に持ったまま話を続けました。



「色々と事情があって私は戦争に参加できないから…。ここで待ってる間に、仮説の理論を実際に使えるように研究を続けておくわ。」



…戦争に参加できない?



どういう意味でしょうか?



参加したくない、というのなら分かりますけれど。


参加できない、という言い方には少し疑問を感じてしまいました。



「何か事情があるの…?」


「あ〜…うん。まあ…ね。ちょっとした約束があってね。」



…約束?



誰と、何を、約束したのでしょうか?


とても気になってしまうのですが、

薫は話題をそらそうとしていました。



「まあ、これからどうなるかは分からないけれど。ひとまず戦争が終わって沙織が帰ってくるまでには完成させておくから、その間だけ借りておくわね。」



………。



薫の事情は私には分かりません。



ですが、戦争の間だけなら…良いのでしょうか?



事後承諾になってしまいますが、

あとで天城君には謝ろうと思います。



「えっと…あまり汚さないようには気をつけてね?」


「大丈夫よ。治療法の部分だけ書き写して、ノート自体は保管しておくから心配しないで。」



それなら安心ですね。


研究を続けると言ってくれた薫は会議室を出ようとしています。


ですが、すぐに足を止めました。



「…ああ、そうそう。大体の話は聞いてるけど、あなた達の捜してる人はもうこの町にはいないわよ?」



私達が捜している人?


それはつまり、天城君のことでしょうか?



「総魔がどこに行ったのか知ってるの!?」



真っ先に翔子が聞き返していました。



…ですが。



薫は詳細を教えてはくれませんでした。



「…あ~、うん。まあ、一応…?」



言葉を濁しています。



「…あとは学園長が説明してくれるわ。」



少し落ち込んだ表情に見えますね。



何か事情があるのでしょうか?



「…じゃあね。」



結局、薫は何も答えないまま。


会議室を出て行ってしまいました。



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