同類
「さあ、着いたわよ!」
馬車を停止して呼び掛ける理事長の言葉に反応して、
私達はほっと安堵の息を吐いたわ。
ひとまずこれで解放されるからよ。
事前に美春特製の酔い止め薬を飲んでいたとはいえ。
一日中、馬車に揺られているとさすがにね〜。
体力が限界に差し掛かってきているのよ。
…だって12時間の大移動だったのよ?
昨日に比べればマシだけど。
気持ち悪さを感じる程度には体調を崩しているわ。
見た感じだと龍馬はまだ大丈夫そう?
私と沙織はちょっぴり疲労感が漂ってる感じ?
優奈ちゃんと悠理ちゃんは立って歩くのが精一杯っていう感じね。
特に悠理ちゃんは薬を飲んでないせいか、
最も重症に陥ってるように見えるわ。
吐き気さえ感じながら顔を青く染める悠理ちゃんは長時間の揺れのせいで目が完全に死んでるわね。
昨日の私達と同じ状況なのよ。
「ね…ねえ。悠理ちゃん、大丈夫?」
「………。」
心配して問い掛ける優奈ちゃんだけど。
すでに返事を返す余裕さえないみたい。
悠理ちゃんは俯いたまま一言も話せずに、
力なく優奈ちゃんに寄りかかっているわ。
「みゃ~♪」
頬に擦り寄るミルクにも悠理ちゃんは反応を示さないのよ。
これはもう完全に病んでるわね。
気を失えればまだ苦しまずに済むんだけど。
酔った状況では眠ることさえできなくて、
ただただ吐き気を耐えるしかないわ。
今の悠理ちゃんの気持ちは私も昨日経験したから嫌っていうほど理解できるのよ。
「う~ん。瀕死の重症ね…。」
悠理ちゃんを見て呟く。
「早く医務室に運んだほうが良いんじゃない?」
ここに美春はいないけれど。
他にも薬剤師はいるだろうし。
医療重視の学園なんだから薬は一杯あるはずなのよ。
「薬を貰えば楽になるはずよ。」
今はそれくらいしか言えないから保健室に向かうように説得してみる。
とりあえず沙織と優奈ちゃんも同じ考えなのかな?
何度も何度も頷いていたわ。
二人も昨日、同じ経験をしてるから悠理ちゃんの容態を心配しているようね。
…だけど。
そんな事情はお構いなしに、
昨日と同様に真哉だけは元気そうな表情で馬車を降りてきたのよ。
「んあー!!腹減ったー!!!」
馬車を降りて早々に、
馬鹿が馬鹿なことを叫んでる。
乗り物酔いを感じさせない真哉の言動を見たせいで今日も羨ましさを感じてしまったわ。
「何でそんなに元気なのよ?」
激しく疑問を感じるんだけど?
…だけどね。
平気そうな人がもう一人いるのよ。
「…皆さん辛そうですね。」
心配そうな表情で私達を眺める武藤君も真哉と同じで平気みたい。
平然とした雰囲気で私達を見回す表情には乗り物酔いの影響が感じられなかったわ。
「…あぅぅ〜。武藤君は…平気なの?」
「はい!僕は全然平気です!」
問い掛ける優奈ちゃんに、
武藤君はしっかりと頷いていたのよ。
わりと本気の笑顔で答えていたわ。
強がりでも何でもなくて、
本当に平気みたいね。
「真哉と同類なのね~。」
類友的な感じ?
類は友を呼ぶ?だっけ?
たぶんどっちも通常の感性って言葉を見失ってるんでしょうね。
きっと何処かに忘れてきちゃったのよ。
…記憶の彼方とか?
…思い出と共に、とか?
もしくは頭を打ちすぎて、
常識という言葉を粉砕されちゃったんでしょうね。
…なんて可哀想なの。
可哀想過ぎて涙が出るわ。
色々な意味で近付きたくないわね。
…私まで同類とか思われたら心外だし!
…私まで仲間とか思われたら迷惑だし!
巻き込まれたら迷惑だから、
これ以上話し合う必要はないわ。
それよりも今は優奈ちゃんと協力して、
悠理ちゃんを馬車から降ろすことにしたのよ。
そのあとに続いて龍馬と沙織が馬車を下りてくる。
最後に武藤君が馬車を降りた丁度その時に。
私達の馬車の後方から、
もう一台の馬車が接近してきたわ。
『ガタガタガタッ!!!』って音を立てながら接近する馬車。
その音に気付いた理事長も馬車を降りてから接近してくる馬車に向き合っていたわね。
車輪の音を響かせながら学園内へと突き進んできた馬車は私達が乗ってきた馬車と並んでから停止したわ。
…ん?
…あれ?
似たような馬車よね?
学園専用馬車っていうのかな?
見た目はほぼ同じだったわ。
校舎みたいに学園ごとに違うってわけじゃないみたい。
…まあ、そこまで差を付ける必要はないのかな?
実用性が最優先だから、
見た目が同じになるのは当然の流れなのかも。
だからあとから来た馬車は、
マールグリナの学園の物でしょうね。
手綱を握っているのは琴平学園長だったからよ。
「すでにお着きでしたか…。」
琴平学園長は理事長と向き合ってから頭を下げたわ。
もちろん頭を下げる必要はないと思うし。
理事長も気にしてないっぽいけどね。
「あらあら?予定よりも遅かったわね。」
「…申し訳ありません。」
理事長に謝罪してから馬車を降りた琴平学園長は、
もう一度深々と頭を下げていたわ。
「会場の清掃で遅れてしまいました。完璧にとはいきませんが、最低限のことはしておくべきだと思いましたので…。」
「ふ〜ん…。」
琴平さんの言葉を聞いた理事長は、
小さくため息を吐いているわね。
怒ってるっていうか、
呆れてる?そんな感じ。
「今の状況を考えれば、清掃なんてどうでもいいと思うんだけど?」
「いえいえ。最悪の場合、グランパレスが民間の避難場所となる可能性もありますので、いつでも使用出来るように区画の整理だけはしておくべきかと思います。」
「ああ、なるほどね。」
琴平さんの説明を聞いて、
理事長は納得したみたい。
「そう考えると、意味があるかもしれないわね。」
納得する理事長を見て、
琴平さんはほっと安堵の息を吐いていたわ。
遅れた理由を話し合う二人。
その間に馬車を降りた栗原薫さんが、
沙織に声をかけようとしてたんだけど。
その前に体調を崩して苦しんでいる悠理ちゃんの姿に気付いたみたい。
進行方向を変えて私達に近付いて来たのよ。
「…どうかしたの?」
気遣うような感じで声をかけてきたわ。
苦しむ様子の悠理ちゃんに問い掛ける栗原さんだけど。
答える気力さえない悠理ちゃんは顔を上げることさえできないみたい。
だから代わりに、
私が答えることにしたのよ。




