嫁に
昭人と共にたどりついたのは数人の子供達がいるだけの静かな公園でした。
「ここなら安全だ。」
昭人の案内を受けた僕達は、
噴水の側へと歩み寄ってから空いているベンチに腰を下ろすことにしました。
そして無邪気にはしゃぐ子供達を眺めながら話を再開することにしたんです。
「ここで昭人に会えて良かったです。」
マールグリナに戻らないと決めた現状で、
話を聞いてくれる人がいるのは有難いからです。
状況が状況ですので王都に向かうのは構わないのですが、
肝心の砦の情報がマールグリナに届けられませんからね。
場合によっては僕達の中の誰か一人がマールグリナに帰還するという可能性も考えていただけに、
こうして味方と遭遇できたのは本当に良かったと思います。
…なので。
僕達の代わりに情報を届けてもらうために、
砦で調べた情報の全てを昭人に話したいと思います。
「今から説明することを覚えておいてください。」
昭人に願いを込めてから、
順番に説明することにしました。
『正規軍の不在』と『兵士の水増し』
『時間稼ぎの砦』と『謎の兵器』
そして現在に至る状況ですね。
最終的に王都を目指しているというところまでを昭人に説明しました。
「はあ…?なんだよそれ?相当、面倒なことになってるじゃないか。」
…ええ、そうですね。
僕もそう思います。
「だからこそ今の話を学園に戻って学園長に説明して頂けませんか?」
「ん?ああ、それは良いけどな。王都は危険だぞ?町に入るだけならともかく…諜報や潜入は相当厳しいぞ。現に潜入した部隊は一人も帰ってきていないらしいからな。」
…うわっ!?
「それほどまでに危険な状況なのですか?」
「王都からの脱出が出来ないだけなのか…それとも全滅したのかはわからない。それさえも判断出来ない状況だからな。だからはっきりとしたことは言えないが…現状では誰一人として生還していないのは間違いないはずだ。」
「そ、そうですか…。」
思っていた以上に危険地帯のようです。
昭人の説明を聞いたことで悩んでしまいました。
ですが今更、引き返す余裕はありません。
調査を諦めれば兵器の力によって共和国が致命的な被害を受けることになってしまうかもしれないからです。
例えどれほど危険でも、
問題の兵器に関する情報を集める必要があります。
「危険を承知で向かうしかありませんね…。」
「きっと大丈夫です。」
僕としては死地に向かう心境ですが、
愛里ちゃんは前向きに考えているようですね。
「砦も何とかなりましたし、きっと大丈夫ですよ。」
「…ははっ。そうか…。」
笑顔で答える愛里ちゃんを見たからでしょうか。
昭人も説得を諦めた様子でした。
「まあ、行くのは構わないが、危なくなったらすぐに逃げろ。俺達は死ぬ為に戦ってるわけじゃないからな。これは生きる為の戦いだ。だから危ないと感じたら迷わず逃げろ。生き残ることでしか未来は見れないんだからな。」
…ええ。
それはもちろん分かっています。
マールグリナには家族を残してきましたし。
妹も一人にさせてしまいましたからね。
「こんなところで死ぬつもりはありませんよ。」
「だったらいい。」
僕の返事を聞いたことで、
昭人は立ち上がって僕達に背中を向けました。
「情報は必ず届ける。だからお前達も必ず帰って来い。」
「ええ、必ず帰りますよ。妹が…薫が待っていますからね。」
「ああ、そうだな。まあ…徹が死んだら俺が嫁にもらってやるよ。」
…むむっ!!!
「それは絶対に許しませんよ!!」
薫は誰にも渡しません!
「大事な妹を嫁に出すなんて、例え死んでも許しません!!」
「…ははっ。そう思うのなら、意地でも帰って来い。」
「ええ!薫の幸せを守るために必ず帰還します!!」
「…ああ、それでいい。」
満足そうに大きく頷いてから、
昭人は走り去っていきました。
………。
どうやら上手く乗せられてしまったようですね。
僕が途中で諦めてしまわないように応援してくれたようです。
「それほど仲が良いとは思っていませんでしたが…彼には借りが出来てしまいましたね。」
「あはっ。そうですね。徹さんの気力を引き出す最高の方法だったと思います。」
愛里ちゃんにも笑われてしまいました。
…ですが。
確かにそうかもしれません。
自分で言うのもどうかと思いますが、
誰よりも妹を溺愛していますからね。
その妹を奪われるなど。
死んでも許容できません。
「無事に帰れたら、何らかのお礼はするべきでしょうね。」
「薫ちゃんをお嫁に出すんですか?」
「…もちろん、それ以外の方法です。」
「ですよね♪」
僕がどう答えるのかを愛里ちゃんは知っていたからでしょう。
笑いをこらえきれないといった雰囲気で笑顔を浮かべていました。
「ま、まあ、それはそれとして…。」
離れていく昭人を見送りながら、
僕も立ち上がることにしました。
いつまでものんびりとしているわけにはいきませんからね。
そろそろ宿に戻るべきだと思います。
「行きましょう。少しでも体を休めて生き残る確率を上げておかないといけませんからね。」
「はいっ!」
愛里ちゃんはしっかりと頷いてくれました。
相変わらず楽しそうな雰囲気ですが、
今はこれでいいと思います。
これから王都での命をかけた作戦を行うことになるからです。
今度は砦以上の危険地帯への潜入になります。
…本物の軍が潜伏する王都での調査です。
砦のようなごまかしはききません。
命懸けの戦いになります。
だからこそ。
今だけは笑顔でいても良いと思います。
そんなふうに考えながら、
宿に向かって歩みを進めることにしました。




