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THE WORLD  作者: SEASONS
4月16日
762/1242

3倍

《サイド:御堂龍馬》



…ふう。



ジェノスはもう遥か彼方だね。


学園を出発してからすでに数時間。



マールグリナに向けて出発した僕達なんだけど。


現在は馬車を止めて休憩をとっているところになる。



時間的には午前9時を過ぎた頃かな?



時計がないから実際にどうかは分からないけれど。


大体そのくらいの時間だと思う。



とりあえずは今日も全力疾走を続けた馬車のおかげで、

僅か数時間の移動なのにジェノスは影も形も見えないほど遠くに離れてしまっていた。



今回の目的地はマールグリナだ。


僕はまだ一度も行ったことがないから、

どんなところなのか知らないけどね。



国内で最も医療技術が発展してる町らしくて、

正式な資格を持ってる魔術医師の半数以上がマールグリナの出身らしい。



だからジェノスの魔術研究所にいる神崎慶一郎さんもマールグリナの出身と聞いたことがある。



今は仕事の関係でジェノスにいるけれど。


元々はマールグリナの魔術研究所に勤務していたそうだ。



他にも各学園の保健室や町の病院とかに勤務している医師のほぼ全員がマールグリナ医術学園の卒業生らしい。


だから国内の医療機関の全域にマールグリナが関わってることになるんじゃないかな?



まあ、一応はマールグリナの学園に通わなくても魔術医師にはなれるみたいだけど。


そういう人達はごく一部みたいだね。



だから沙織や鈴置さんが医師になったとしたら、

その少数側になるのかもしれない。



まあでも、仮にそういう人達でさえも研修や訓練のために一度はマールグリナに訪れるらしいから。


全くの無関係という人は滅多にいないっていう話を聞いたことがある。



…と言っても。



情報源は沙織だけどね。



沙織にしても栗原さんや神崎さんから聞いた話だそうだから、まず間違いないと思うよ。



だけど僕は魔術医師を目指してるわけじゃないから、

今回の件でもなければ一生関わることがなかったかもしれないね。



そういう意味では良い経験になるとは思うかな?



これが戦争に向かうという前提でなければ…だけどね。



ひとまず今は何もすることがないから、

どこまでも自然が広がる雄大な景色を眺めながらのんびりと休憩をしている。



馬車の外は平穏な世界だ。


ときおりすれ違う行商人以外、何もない田舎道。


静かな時間を過ごす平和とも呼べる一時。


そんな中で不意に悠理が呟いた。



「…はぅ~。ちょっと、お腹空いたかも…。」



…ははっ、そうだね。



僕も同じ気持ちだよ。



早朝の集合ということで、

朝食をとる余裕がなかったんだ。



そのせいで悠理の言葉をきっかけとして、

僕達は揃って苦笑いを浮かべることになってしまった。



6時集合で朝の出発が早かったからね。



悠理だけじゃなくて、

僕達は全員、朝食を食べる時間がなかったと思う。



そのなかでも特に真哉の空腹は限界に達してるんじゃないかな?



「うお~~~~!!腹減った~!!!」



大声で叫ぶ真哉が空腹を訴え始めたんだ。


普段から沢山食べる真哉にとって、

ご飯抜きという状況はある意味で拷問に近いだろうね。



それが分かっているから、

僕達は揃って苦笑していたんだけど。



「あんたは常にそればっかりよね~?」



翔子だけは冷めた視線を向けていた。



「食べること以外に何か言うことはないの?」


「ああ?仕方ねえだろ。生きてる限り腹は減るんだ。」



いや、まあ…それはそうなんだけどね。



だけど真哉ほど食べるのはちょっと無理かな?



僕としてはそう思うんだけど。



「飯が食いてぇ!!」



再び苦笑する僕達を気にした様子もないまま大声で叫び続けてる。



さすがって言うべきなのかな?


真哉はどんな状況でもブレないね。



だからかな?



叫ぶ真哉に呆れた様子の理事長が馬車を停めてから食糧を取り出し始めたんだ。



「はいはい。ちゃんと詰んであるから、子供みたいに駄々をこねてないで好きなだけ食べなさい。」



出てきたのはパンや乾物、保存食等だ。


魔術大会に向かう時と同じ内容だね。



種類は少ないけれど量だけは豊富にあることで、

真哉は嬉しそうに歩み寄って行った。



「飯だっ!!」



笑顔でパンに食らい付く真哉はすごく嬉しそうだ。



そのまま豪快に食事を始めるのはいいんだけどね。



その様子を眺めていた翔子は深々とため息を吐いている。



そして真哉の頭をぺしっと叩いたんだ。



「あのね~。食べるのは良いけど、皆にも分けなさいよね?」



放っておくと真哉一人で完食してしまいそうだけど。


一応、全員分の食料だからね。



さすがに全部食べきってしまうと他のみんなが困ってしまうと思うよ。



そうならないうちに適当に食材を選んだ翔子は具材を挟んだパンを深海さんと悠理に差し出していた。



「はい。どうぞ~」



笑顔でパンを差し出す翔子を見て、

二人は嬉しそうに微笑んでいる。



「やった~!」


「ありがとうございます♪」



無邪気に喜ぶ二人を見て満足したのかな?


今度は自分と沙織の食糧を確保してから二人で仲良く分け合っていた。



「ありがとう、翔子。」


「いいの、いいの。」



照れ臭そうに微笑む翔子は沙織と寄り添いながら少し遅めの朝食を始めている。



その様子を眺めてから、

僕も自分の食料を確保して真哉の隣に腰を下ろすことにしたんだ。



「相変わらず二人は仲がいいよね。」


「んー?あぁ、そうだな。」



…ははっ。



気のない返事だね。



真哉は食事に夢中のようだ。


翔子と沙織の二人に視線を向ける気はないようだね。



そんな真哉を見て微笑んだあとで、

武藤君にも話しかけてみる。



「武藤君も食べるかい?」


「あ、はいっ!!」



少し遠慮がちに歩み寄った武藤君は、

僕達に気を使うそぶりを見せながらも控え目にパンに手を伸ばした。



そして、ゆっくりと食べ始める。



「えっと、いただきます…。」



パンにかぶりついた瞬間に。


何故か武藤君の表情が変化したように見えた。



…なんだろう?



気に入らなかったのかな?



そう思ったんだけど。


どうやらそうじゃないらしい。



一口食べたことで、

その気になったのかもしれないね。



突如として真哉に匹敵する勢いで食べ始めたんだ。



『バクバクバクバク…!!!!!』



…って、うわぁ!?



すごい食欲だね。


よっぽどお腹が空いてたのかな?



真哉と武藤君の二人の勢いによって急速に激減していく食材。


そのあまりの食べっぷりを見たせいか、

理事長は呆れたといわんばかりの表情を見せていた。



「…………………………嘘でしょ?」



だったらいいんだけどね。


事実として食料の在庫は底を尽きかけてるんだ。



どれだけ否定しても、

現実は変わらないだろうね。



「良くもまあそんなに次から次へと食べれるわね…。胃袋に穴が空いてるんじゃない?」



…あははは。



そんなふうに言いたくなる気持ちは僕にもわかるかな。



真哉の食欲は知っていても、

武藤君まで大食いという事実は知らなかったからね。



僕も驚いてしまっていたんだ。



「ありえないわ…。」



理事長は激しくため息を吐いている。



「これでも今日『一日分』くらいは積んだつもりだったのに、たった一食で全部消える勢いよね…?」


「…ですね。」



理事長の言葉を聞いて苦笑しながら、

もう一度、自分と理事長の分を確保してから真哉達から離れることにした。



「とりあえず、どうぞ。」


「ええ、ありがとう。」



呆れ顔で受け取る理事長の視線は残りの食糧に向けられている。



たぶん、あと十分も耐えられずに全部なくなってしまうだろうね。



同じように考える理事長は手元の僅かな食糧を見て再びため息を吐いていた。



「はぁ…。次があれば『3倍』用意するわ。」



…あ、あははは…っ。



呟く理事長の嘆きに僕は苦笑するしかなかった。




それから数分後。




全ての食糧を完食した真哉と武藤君の食べっぷりに感心する人もいれば呆れる人もいたと思う。



主に前者は深海さんと沙織で、

後者は悠理と翔子だけどね。



それでも食糧が底をついたことで、

朝食は強制的に終了となってしまったんだ。



「あー!まだ足りねぇー!!!」



叫ぶ真哉の気持ちはまあ、分からなくもないかな?



武藤君と食糧を奪い合う形になったことで、

いつもより食べた量は少なかっただろうからね。



「…すみません。つい…。」



素直に謝る武藤君に怒る人は誰もいない。


さすがに謝っている武藤君に文句を言えるはずもないし。


真哉も愚痴るのを止めて大人しくなっていたからだ。



「まあいい。次は全力で食うぜ!!」



気合いを入れる真哉の姿を見た理事長は、

数え切れない程のため息を吐いていた。



「もう好きにしなさい…。」



諦めにも似た心境かな?



理事長は朝食を終えて体を休める僕達を眺めてから、

3頭の馬に振り返ったんだ。



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