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THE WORLD  作者: SEASONS
4月4日
76/185

数時間の間に

《サイド:美袋翔子》



…んん~?



何だか騒がしいわね。


急に周囲が慌ただしくなってきたせいで目が覚めてしまったわ。



…これって何かあったっていうことよね?



詳しいことは分からないけれど。


騒いでる人達の声は聞こえてくるのよ。



沢山の人達が話をしているから、

聞き取れる情報は断片的でしかないけれど。


どこかの検定会場から運び込まれてきた意識不明の生徒達の救護のせいで騒がしくなったようね。


かなり大騒ぎになっているのは間違いないわ。



まあ、その騒音に嫌気がさしたわけじゃなくて単なる偶然だとは思うけれど。


男子寮の前で倒れてからようやく意識を取り戻せたみたい。



…う〜ん。



目を開けるとすぐに天井が見えたわ。



…見覚えはないわね。



ここがどこなのかは…まあ、匂いで分かるわ。


消毒液と薬品独特の匂い。


それだけでここが医務室だってすぐにわかる。



…ここに来るのって何ヶ月ぶりかな?



そもそも医務室で眠るっていう経験が今まで一度もなかったから、

これはこれで新鮮な気持ちになれる気がするわ。



でもまあ、ここに運ばれてきた理由を考えるとあまり楽しめる状況ではないわね。



…ふう。



とりあえずは匂いや雰囲気で自分が医務室にいるんだろうな~ってことはすぐに理解できたわ。



それともう一つ。


気づいたことがあるの。



私が眠っていたベッドのすぐ側で一人の女の子が心配そうな表情で私を見つめていたから。


その姿が見えたことも寝起きで冷静でいられた理由かもしれないわね。



…だけど。



あれ?


なんだっけ?



隣にいる少女に視線を向けてみたけれど。


何故かすぐには名前を思い出せなかったのよ。



…まだ頭が寝ぼけてるのかな~?



普段なら自然と出てくるのに、

何故か親友の名前を思い出すまでに少しだけ時間がかかってしまったわ。



「あれ?…って、沙織さおり?」


「翔…子っ!良かった。やっと起きてくれたのね。ずっと、ずっと心配してたのよ。」



ようやく思い出せた名前を呼んでみると。


嬉しそうな表情で、ぎゅっと抱きしめてくれたの。



…あ~。


…いい匂い。



なんて、馬鹿なことを考えてる場合じゃないわよね。



親友と呼ぶべき沙織がいつから傍にいてくれたのか知らないけど。


かなり心配させてたのは聞くまでもないわ。



抱きしめてくれる両手が震えてたから、

不安にさせていたのはすぐに分かってしまったのよ。



「ごめんね。ありがとう、沙織。」



本気で不安にさせてしまうくらい心配をかけてたみたい。


自分では実感がないからどういう状態だったのか分からないんだけど。


もしかしたら相当危険な状態だったのかもしれないわ。



…まあ、自分ではわからないんだけど。



魔力を斬られる経験なんてそうそう何度もあることじゃないし。


前代未聞って言ってもいい出来事だったでしょうし。



…沙織が不安になるのも当然よね。



「ごめんね、心配かけて」



右手を伸ばして沙織の頭を優しく撫でる。


指先が触れるのは真っ直ぐで、

癖が無くて、

背中まで届く艶やかな黒い髪。


私とは違ってとても繊細でとても綺麗な髪なのよ。



さりげなく甘い香りを漂わせている辺りに気品すら感じるわ。



…これで同じ歳って。



何が違うのかな~?



学年も年齢も同じ18歳なのよ。


それなのに沙織は大人びて見えて、

私は幼く見られることが多いのよね。



だからって不満に思うことはないんだけど。


羨ましいとは思っちゃう。



…だから。



私達は真逆の存在だな〜って思うのよ。



見た目も性格も正反対。



だけど、ね。



だからこそ仲良くなれたんじゃないかなって思ってる。


お互いにお互いが持ってないものを持ってるって感じられるから仲良くなれたと思うの。



私はそう思ってるんだけど。


わざわざ言葉にして確認したことはないから沙織がどう思ってるのかは分からないわ。



…できれば、沙織も同じだったら嬉しいな〜。



なんて願いながら親友と向かい合ってみると。



…あうぅ〜。



見慣れたはずの沙織の瞳に、

うっすらと涙が浮かんでいるのが見えてしまったのよ。



「…ご、ごめんね。」



本気で謝るべきだと思ったわ。


私の行動のせいで親友が泣いてるのよ。



ここで謝らないで、いつ謝るっていうの?



少なくとも今は謝ることしか思い浮かばなかったわ。



「ごめんね、沙織。」


「…ううん、いいの。翔子が無事ならそれでいいのよ」


「…ありがとう…。」



無茶をした私を責めずに優しく微笑んでくれる。


沙織の笑顔が見れただけで、

幸せな気持ちになれた気持ちさえしてくる。



心が落ち着くっていうのは、

きっとこういう気持ちの時に言うんじゃないかな。



「ありがとう、傍にいてくれて」


「ふふっ。翔子のためならいつでも傍にいてあげるわよ。」



沙織は一度も怒らなかったわ。


いつもと同じように微笑みを向けてくれているの。



…本当に、ありがとう。



沙織に対しては感謝の気持ちしか思い浮かばない。



誰よりも優しくて。


誰よりも私を認めてくれてる。


そんな優しい親友なのよ。



だから。


大切な親友を愛おしく思う気持ちは沙織にも負けないわ。



「ねえ、沙織。」


「ん?どうしたの?」



沙織の体を力いっぱい引き寄せて、

もう一度強く抱きしめ返す。



「ありがとう。」


「ふふっ。どういたしまして」



いつもと同じように優しく微笑んでくれる。


親友の優しさは絶対一生忘れないと思うわ。



…でもまあ、それはそれとして。



常々思うことがあるのよね~。



そっと抱きしめてくれる沙織の身長は私よりも少しだけ高かったりするのよ。


まあ、高いっていっても2センチくらいしか変わらないんだけど。


その僅かな差が羨ましいって思うことはあるのよね〜。



…個人的にはもう少し身長が欲しいな〜。



別に身長が低いとは思ってないけれど。


親友と並びたいって思う程度のささやかな願いはあるのよ。



ホンの少しだけとはいえ、

沙織を見上げて沙織に見下ろされる関係がまるで姉と妹のように思えるから。


沙織はそんなふうに思ってないとしても、

同じ目線で話をしたいと思う程度の願望はあるの。



…まあ、今のままでも困らないんだけどね。



身長にしてもあればいいなって思う程度でしかないし。


今の自分に不満はないわ。



だけど、いつ見ても思ってしまうわね。


目の前の親友は完璧だって思ってしまうのよ。



清楚せいそ』という言葉が誰よりもよく似合うし、

立ち振舞は私でさえ羨ましく思えるくらい超絶美少女なのよ。



学園内では私と並ぶ有名人だけど。


才色兼備の親友は学園内において教師すら凌ぐほどの天才で、

学園で学ぶことができる全ての魔術を身につけているという超人でもあるわ。



当然、魔術師としての実力は私よりも遥かに上よ。


学園3位としてその名を轟かせる親友の名前は常盤沙織ときわ さおり


成績は抜群に優秀で、

私が知る限り筆記試験で100点以外の点数をとったことは一度もないわ。


もちろん実技も完璧よ。



沙織に使えない魔術は一つとして存在しないでしょうね。


私達を管轄する理事長でさえ舌を巻くほどの才女なのよ。


扱える魔術は千種類にも及び、

魔力の総量において学園一なのは間違いないわ。



ただその反面。



運動はあまり得意じゃないっていう部分だけが欠点ではあるんだけど。


『優等生』という言葉がぴったりの女の子だと思ってる。



仕種の一つ一つには気品すら感じるし、

透き通るような声は心に優しく響き渡るって言っても過言じゃないのよ。



すれ違う誰もが沙織に見惚れて、

誰もが格の違いを思い知ることになる。


それぐらい、どこからどう見ても完璧な美少女。


それが常盤沙織なの。



…見た目だけで言えば私も負けてないって思うんだけど〜。



『可愛い』という意味で言えば私でも、

『綺麗』という意味では沙織になるでしょうね。



私と沙織。


二人とも学園内において美少女としての評価は圧倒的に高いらしいわ。


多くの男子生徒から視線を集める存在であることは間違いないと思う。



とは言え。


今いる場所が場所だけに、

私達に近付こうと思う生徒はいないみたい。



…まあ、医務室だしね~。



誰がいようと関係なく、

騒ぎ立てていい場所じゃないのよ。



だからこそ二人だけの雰囲気になりつつあるんだけど。



…いつまでも抱き合ってるわけにはいかないわよね。



ひとまず沙織の手を借りながらゆっくりと体を起こして周囲の確認をしてみる。



周囲の様子が気になるっていうのもあるけど。


そもそも周りが騒がしくて目が覚めたわけだし、

気にならないわけがないわよね。



だからどういう状況なのかを確かめようと思ったんだけど。


話を聞くまでもなく異常な状況に気付いてしまったわ。



自分が医務室にいるのは気づいていたけれど。


数多くの生徒達が周辺のベッドで眠りについている事にも気付いてしまったのよ。



…なに、これ?



怪我や病気で苦しんでるとかそんな雰囲気じゃないの。


誰一人動く様子がなくて。


息をしてるかどうかすら疑ってしまうくらい静かなのよ。



今もまだ医務室は慌ただしい雰囲気が広がってる。


普段知る雰囲気とは大きくかけ離れてる。



それなのに。



運び込まれてきた生徒達は、

まるで死者のようにベッドの上で眠り続けているの。


そんな普段とは異なる異常な雰囲気のせいで嫌な予感を感じてしまったわ。



「な、何があったの?」


「…たぶん、翔子と同じよ。」


「…えっ?」



異常な状況の理由を尋ねてみたんだけど。


沙織は周囲を見渡してから少し言いにくそうに教えてくれたの。


その一言だけで、色々と察してしまったわ。



…うわぁ~〜~~~~。



一言で十分よね?


私と同じって聞いただけで全て理解できてしまったから。


それ以上の説明は必要ないわ。



…まさに死屍累々って感じ?



今ここにいる生徒達。


運び込まれた『全生徒』が総魔の魔剣によって魔力を奪われたっていうことよ。



私と同じように魔力を吸収されてしまった被害者。


だけど、ひと目でわかる違いもあるわ。



私と他の生徒の違い。



それは魔力の一部を奪われた私とは違って、

他の生徒達はほぼ全員『全ての魔力』を奪われているという事。



この差によって誰一人目覚める様子がないのよ。



…魔力は物理的に補給する事が出来ないから。



自然回復を待つか。


瞑想や睡眠で回復速度を早めるしかない。



どちらにしてもすぐには回復できないのよ。



魔力を失って倒れた彼等が目を覚ますためには魔力が自然回復するのを待つしかないってこと。



一旦、目が覚めれば動けるようにはなるんだけど。


目を覚ますまでは手のほどこしようがない。



それが魔術師の欠点でしょうね。



それなのに。


全員が魔力を奪われているという事実。



私の周りで眠る生徒だけでも10人はいるわ。


そして新たに運ばれてきた生徒は5人。


その中には私達の知り合いもいたの。



同僚の矢野桃花よ。



彼女を含めた合計15名が医務室に運び込まれたみたい。



まだ他にもベッドで眠ってる生徒はいるようだけど。


私がいる場所からではどういう様子なのかは分からないわ。



全員が総魔の被害者なのかも分からないんだけど。


私が倒れていたわずかな時間の間に、

総魔によって戦闘不能に追い込まれた生徒達が医務室のベッドに並べられているのは間違いないみたい。



さすがにこの異常事態には寒気を感じてしまったわ。



…一体、どこまで成長しているの?



私が寝てた間も総魔は成長し続けているのよね?



今の私の力で総魔に勝てるのかどうかが分からない。


そのせいで心の中が恐怖と不安で一杯になってしまったわ。



…これだけの生徒を医務室送りにしてしまうなんて。



私の知らない間に、

総魔はどこまで強くなったの?



…こんなことになるなんて。



こんなことになるなんて思ってもいなかったわ。


予想なんて、出来るわけないじゃない。



…だけど。



だけど、きっと。



理事長はこうなることを恐れていたんでしょうね。



吸収という能力による一方的な搾取。


魔力の強奪ともいえる魔術師にとっての危険性を、

理事長は誰よりもいち早く真剣に考えていたのよ。



…さすがにこれは、笑えないわね。



絶句としか言いようのない状況だったわ。


そんな私の気持ちに気付いてくれたのかな?


沙織がもう一度、そっと優しく抱きしめてくれたのよ。



「大丈夫よ。」


「…う、うん。」



耳元で囁く沙織の優しさのおかげで少しだけ冷静さを取り戻せた気がするわ。



「ありがとう、沙織。」



いつも通りの笑顔を浮かべられたと思う。


まだ不安は消えないけれど。


笑える程度の余裕は持てた気がするから。


私の笑顔を見た沙織はそっと手を離してくれたのよ。



「色々と考えることはあるかもしれないけれど、ひとまず翔子が無事でよかったわ」


「あ、うん。私は大丈夫なんだけど…。」



周りには大丈夫と言い切れない生徒達が数多くいるのよね~。



「実際、何があったの?」


「…ごめんなさい。」



もう一度尋ねてみたけれど。


沙織は少しだけ困ったような表情を浮かべてから首を左右に振ってしまったわ。



「私に分かることなら教えてあげたいけれど、詳しい事は何も知らないの。翔子が倒れたって聞いてからずっとここにいたから…」



…あ〜。



うん。


そうよね。



沙織はずっと医務室にいたみたいだから、

詳しい事情なんて知ってるわけないわよね。



説明できないことで言葉を詰まらせてるけれど。


沙織は何も悪くないわ。



…う~ん。



こうなると沙織に聞くのは無理よね。


だとしたら別の質問をするしかないと思う。



「それじゃあ、総魔が今どこにいるかは分かる?」


「…ううん。」



違う質問をしてみても、

再び首を横に振ってしまったわ。



「ごめんね。私は何も知らないの。でも、翔子の代わりに北条君が向かったみたいだから、北条君なら何があったのか知ってると思うわ。」



…えっ?


…うそ!?



あのバカが総魔に会いに行ったの?



「…ったく、あいつ、余計な問題を起こしてなければいいけど。」



不安しかないわね。


とは言え。


ここで心配してても仕方がないし、

とりあえず医務室を出たほうが良いかな?



…体はどこにも異常ないみたいだし。



多少疲労感はあるけれど、

体はどこにも違和感がない。


起き上がっても大丈夫だったし、

たぶんどこも悪くないはず。



…沙織もそばにいてくれるし。



ベッドから降りるために立ち上がろうとしてみる。



「大丈夫?」


「うん。大丈夫。ありがとう」



そっと手を貸してくれるさりげない優しさに感謝しつつ。


ゆっくりベッドを下りてみる。



…うん。



特に問題はないわ。


左腕もちゃんと動くし、

どこも怪我をしてないみたい。



…総魔が医務室まで運んでくれたのかな?



それ以外の理由が思い浮かばないんだけど。


無事にベッドから降りられたことで医務室を見回してみると。


見覚えのある人物が沙織の背後を通り過ぎようとしているのが見えたわ。



「…あれ?…美春、だよね?」


「ん?」



見覚えのある生徒がいたことに驚いて名前を呼んでみると、

美春は面倒くさそうな表情を浮かべながらも足を止めて振り向いてくれたのよ。



「ああ、翔子。目が覚めたの?」


「え、あ、うん。そうなんだけど…。って、そうじゃなくて、美春がどうしてここにいるの?」


「どう、って、私がここにいたらダメなわけ?」



…え?あ、いや。



ダメとかそういうことじゃないんだけど。



知り合いがいた事に驚いた私とは正反対に、

美春は当然と言わんばかりに堂々としていたわ。



見た感じだと怪我をして医務室にいるわけじゃないみたい。


他に理由があるのかな?



「こんなところで会うと思ってなかったから聞いてるのよ。」


「ああ、そういうこと?まあ、翔子がこの間の会話を聞いてたかどうかは知らないけど、私も一応救命医療班に所属してるから、こういう時には手を貸してるのよ。」



…救命医療班?



えっと。


この間っていうのは総魔と試合をした時のことよね?


確か美春は自分で治癒術師って名乗っていて、

医療班に所属してるって宣言してたような?



…あ~。


…うん。



そういえば言ってたような気がするかも?


総魔の監視に集中しすぎていたせいで完全に聞き流していたんだけど、

私も同じ場所にいたから確かに聞いていたわ。



「まあ、どうせ翔子の事だから忘れてるんでしょうけどね。」


「…う、ごめん。」


「…はぁ。」



素直に謝ったけど、

深々とため息を吐いてた。


ちょっぴり落ち込んだようにも見えるわ。



「やっぱり忘れてたのね。まあ、無理に覚えてくれなくてもいいけどね。」


「ご、ごめんね。」


「別にいいわよ。」



病み上がりの私と言い争いをするつもりはないみたい。



「私がここにいるのは医療班だからよ。翔子が運ばれたって聞いた時は驚いたけど。無事に目が覚めたようで良かったわね。」


「う、うん。そうなんだけど…。これって何があったの?」


「…見ての通りとしか言いようがないわね。」



美春は軽く手を広げてから周囲を示したのよ。



「翔子と同じ理由で各会場から運び込まれてきた生徒達よ。次から次に応援要請がきて、搬送するのも大変だったんだから。」



…うわ~~。



ここにいる生徒全員、

検定会場から運んできたのね。


周りにいるのは全員、意識不明の生徒達。


それもこの人数よ。


考えるだけで大変そうだけど。



さっき美春が言った『こういう時』っていうのは、

つまりそういう事なんでしょうね。


全ての魔力を奪われて昏睡状態にある生徒達の看病とか、

もしくは移送の為に手を貸しているっていうことだと思う。



「まあ、今回の出来事は後々問題になる可能性もあると思うけど…。それでも一応は正式な試合だったから文句をいうことは出来ない気もするのよね~。とはいえ、実際にはどうなるのかしら?私としては穏便に終わってくれるのが一番楽なんだけど。」


「…ちょ、ちょっと待って!」



面倒事には関わりたくないと言いたげな態度で立ち去ろうとする美春だけど。


その前に美春の手を力一杯掴み取っていたわ。



「何があったか知ってるの?」


「え?あ、うん、まあ、知ってるっていうほどじゃないけどね。私が駆け付けたのは試合終了後だから、何があったのかは知らないわ。何が起きたのかは知ってるっていう程度よ」


「それでもいいから教えて!!」


「………。」



必死にお願いしてみたんだけど。


美春は呆れた表情を浮かべながら、

私に握り込まれている腕に視線を落としていたわ。



「これ、けっこう、痛いんだけど?」


「あっ!ごめん…。」



謝りながら慌てて手を離す。


美春は不満そうな表情を見せていたけれど。



「ふふっ。」



隣にいる沙織は楽しそうに微笑んでいたわ。



「ぶ~、笑わないでよ~。」


「ふふっ。ごめんなさい」



私が慌てふためく姿が面白かったの?


言葉では謝りながらも沙織の表情は微笑みを絶やさなかったわ。



…こういうところが姉妹っぽくみえて悔しいんだけど〜。



だけど沙織が悪いわけじゃないし。


美春に迷惑かけたのも事実だし。


追及してる場合じゃないわよね。



「ごめんね。」


「…まあ、いいけどね。」



私達のやりとりを眺めていた美春は小さくため息を吐いていたけれど。


それでもちゃんと自分の目と耳で確認してきたことを話してくれたのよ。


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