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THE WORLD  作者: SEASONS
4月16日
759/1242

答え合わせ

《サイド:天城総魔》



小さなテーブルを囲んで話し合う準備が整った。



「まずは、お互いに集めた情報の交換から始めましょう。」



最年長の朱鷺田が率先して話を切り出す。



「そのあとでお伺いしましょう。王都へ向かう理由を…。」



朱鷺田は俺に視線を向けていた。



真剣な表情だ。


俺の話にどれ程の価値があるのかを考慮しているのだろうか。



その言動には好感が持てる。


まるで黒柳がそこにいるような感覚を感じるからな。



自分の考えを押し通すだけではなく、

他人の意見を聞き入れることができる心の広さが感じられる人物だ。



この男になら背中を託す価値があると自然と思えるほどだった。



「説明は簡単だ。だがその前にそれぞれの話を聞きたい。」



手に入れた資料を公開する前にそれぞれが集めた情報を分析すれば、

資料に記されている情報の裏付けが取れるかも知れないからな。



まずはそれぞれの情報を聞き出すことにする。



「一旦、情報を整理すべきだ。」


「わかりました。」



特に異論を挟むこともなく、

朱鷺田は自分が集めた情報を話し始めた。



「さて、最も肝心な部分ですが、共和国への進軍に関して砦の兵士達は何も聞かされていない様子でした。」


「…え?うそ…っ!?どうして!?」


「そんな馬鹿な…っ!?」



朱鷺田の話を聞いたことで、

三倉と徹が驚きの表情を浮かべている。



戸惑う二人の驚きは当然だろう。


戦争を目的として砦が建てられたのは明らかだからな。



…にも関わらず。



『進軍の予定がない』では、

話のつじつまが合わない。



いつでも共和国へと攻め込める準備は進めているはずだ。


そしてその為の準備期間もあったはずだ。



なにより兵の士気を高める為にも、

それ相応の目的と方針は告げるはず。



それなのに。


兵士達は何も知らないという矛盾。



これは有り得ない話だとしか思えない。



「実は戦う気がない…とか?」


「…ですが、宣戦布告してきているのですよね?」



戸惑う二人に、朱鷺田は話を続けていった。



「一応、各部署の兵士達から一通りの確認はしたつもりです。ですが、その答えはどれも『知らない』か『分からない』でした。」



それが1つ目の報告になるようだ。



「それともう一つ。理由は定かではありませんが、砦にいる『正規軍』は10万の兵の中で1割にも満たないという話も聞きました。」


「…なっ!?」



再び戸惑う様子の徹だが、

こちらの情報に関しては三倉も予想していた話だったのだろう。



今回は驚くこともなく冷静に自分の報告を話し始めた。



「それなら私達も砦の中を観察して確認してきたわ。まともに戦力と呼べる兵士は僅かでしょうね。ほとんどは初心者の集まりだと思うの。はっきり言って、どう見ても戦力になりそうには思えない人達が数多くいたわ。」



偵察の感想を告げる三倉の言葉に続いて、

愛里も話し始める。



「私も砦の内部を色々と歩いてきましたけれど、見張りの人達の中には兵士とは呼べないような方々が沢山いました。お年寄りや子供もいて、軍の服を着ていても武器を持たない女性も多くて、とても戦争に参加するような戦力とは思えませんでした。」



…10万の兵の大半が非戦闘員か。



どういう理由で集められたのかは知らないが、

俺が手に入れた情報を考慮すればありえない話だとは思わない。



最終的に共和国が滅べばそれでいいわけだからな。



アストリア側としては意味のある人選だったのだろう。



事実を確認してきた内容を話す愛里の言葉を引き継いで、

三倉も自分の意見を語りだした。



「そもそも戦争を考慮しているのかさえ疑わしいと思うわ。砦に集められているのは10万の軍隊ではなくて数万におよぶ非戦闘員なのよ?戦う意志があるかないかは別としても、戦力として物足りないのは確かよね?どういう目的なのかは不明だけど、考えられる理由があるとすれば一つかしら?砦にはいない『本物の軍隊』を別の場所に待機させている…っていうことくらいよね?」



三倉の推測を聞いたことで、

朱鷺田と徹は顎に手を当てて考える仕種を見せている。



「それでは砦の兵は囮ということでしょうか?」


「確かにそれならつじつまが合うでしょう。」



呟く徹に朱鷺田が答える。



「食堂にいた兵士達が寄せ集めの軍と言っていたことと話が繋がります。」



非戦闘員と寄せ集めの軍。


徐々に繋がり始める情報によって、

それぞれに集めた情報が一つの答えに集約する。



「砦は『囮』。共和国の主力部隊が砦に攻め込んでいる間に、別の場所から共和国へと進軍する。それが妥当な判断でしょうか?」



自信を持って宣言する朱鷺田だが、

その判断は間違っているはずだ。



そこまでの情報で判断するのなら、

囮という可能性は十分に考えられるだろう。



何も知らなければ俺もそう判断していたかもしれない。



だが、俺の手元には既に別の情報がある。



ここに記されている情報が正しければ、

砦の軍が囮などという生易しい存在でないことは明らかだ。



その事実を告げるために、

朱鷺田達の推測を否定することにした。



「…いや、違うな。」



会議が始まってから始めて口を開いたことで全員の視線が俺に集まる。



「何が違うのですか?」



問いかけてくる朱鷺田に、

回収した書類をテーブルの上に広げてから説明することにした。



「囮という部分は正しいだろう。だが、軍の居所は別だ。そもそも共和国に攻め込むつもりはないはずだからな。」


「…それはどういうことですか?」


「これを見ればわかる」



何も知らない朱鷺田に一束の書類を手渡す。



「これは?」


「アストリア軍が密かにおこなっている実験の報告書だ。」


「実験?」


「ああ。」



拠点の地下から回収した書類であり、

『対共和国用戦略兵器』に関してまとめられた報告書でもある。



「中を見れば分かるが、アストリア軍は何らかの戦略級兵器を作り上げたようだ。その詳細までは記されていないが、名称は『神の裁き』と記されている。どういったものなのかは不明だが、名前から推測するなら、おそらく遠隔からの破壊活動を目的とした『何か』だろう。」



曖昧な推測になってしまうが、

それ以上の説明は現段階ではできない。


そのせいで愛里が問いかけてきた。



「どうして遠隔だと思うのですか?」



…理由か。



その質問に答えるのは簡単だが、

その前に質問で返すことにする。



「答え合わせの前に聞くが、神の裁きと聞いて思い浮かぶ象徴は何だ?」


「え…っ?え~っと…何でしょう?かみなりとかですか?」



ああ、そうだな。


愛里の推測も曖昧な答えだったが、

期待通りの答えではあった。



「それも正しい答えだと思う。」



実際にどういう力を持っているのかは不明だが、

そう考えれば砦の説明も可能になるからだ。



そもそも軍の精鋭部隊を集める必要などない。



共和国軍を足止めして兵器で攻撃する準備さえ整えられればそれでいいはずだ。



「おそらくアストリアは軍隊による強行突破ではなく、兵器を使用した一方的な虐殺を狙っていると考えればいい。」


「ああ!なるほど。」



俺の推測を聞いたことで朱鷺田は理解したようだ。



「砦の軍は囮と言うよりも、時間稼ぎということですね?」



おそらくそうだろう。



「共和国軍の進軍を足止めする為の『壁』と思えばいい。」



そう考えれば軍が少ない理由も説明出来る。



「本当の軍は兵器の護衛として、どこか別の場所に待機していると考えるほうが自然だろうな。」



ここからは推測でしかないが、

俺の考えを説明することにした。



「単純な囮としてだけの意味なら、そもそも兵器を用意する必要がない。わざわざ砦を用意したのは時間稼ぎと兵器の隠蔽工作と考えるべきだろう。共和国の戦力が国境に集中している間に遠隔からの攻撃で共和国の各町を破壊するのが目的のはずだ。」



そうでなければつじつまが合わなくなってくる。



本気で共和国を攻め落とすつもりでいるのなら正規の軍を集結させる必要があるはずだ。



共和国そのものは弱小国家とは言え、

戦闘能力においては他国と肩を並べられるだけの戦力を抱えているからな。



まともに戦うことを考慮しているのなら非戦闘員をかき集める必要がない。



そしてなにより降伏勧告などという方法で共和国に戦力を集める時間を与える必要さえないはずだ。



これはあくまでも推測でしかないが、

共和国に使者を送り込んで降伏勧告を行ったのは共和国に戦力を集めさせるためだろう。



砦という壁に共和国の戦力を集中させている間に遠隔からの攻撃によって共和国そのものを攻撃するというのがアストリアの戦略だと考えるべきだ。



そうでなければわざわざ共和国に戦力を集める余裕を与える必要がない。



砦が完成した時点か、

あるいは10万の兵が用意できた時点でマールグリナに攻め込めばいいだけだ。



強襲を仕掛ければマールグリナは数日で落ちるからな。



マールグリナの医療が停止することで、

共和国全土の安定も崩壊する。



あとは数の力で強引に共和国を蹂躙すればいい。



それが本来のアストリアの魔術師狩りの手法だからな。



本気で共和国に攻め込むつもりがあるのなら、

すでに共和国は戦火に包まれているはずだ。



だが現時点では戦争が起きるどころかアストリアに動く気配さえない。



その矛盾を解決する答えは必然的に兵器の存在にたどり着いてしまう。



これらが俺の推測の一連の流れとなる。



「なるほど…。」


「あぅぅぅ~。」


「これはさすがに…。」


「…否定の余地がないわよね~?」



俺の推測を聞いて、

一同は深くため息を吐いていた。


朱鷺田は書類を手にとって真剣な表情で眺めている。



その報告書に書かれていることが事実であれば、

俺の推測は否定出来ないからだ。



「もしも天城さんの推測が事実だとしたら、本当の軍はどこにいるのでしょうか?」



朱鷺田の疑問に考えられる可能性を答えてみる。



「最も守るべき場所だ。安全に、かつ、極秘に行動出来る場所は限られているからな。」



その候補は現時点では一つしか思い浮かばない。



「ああ、なるほど!」



俺の指摘によって朱鷺田もようやく全てを理解してくれたようだな。



「だからこそ王都に向かうのですね!」



ようやく俺の考えを理解してくれた朱鷺田と同様に、

三倉、徹、愛里の3人も、納得して大きく頷いていた。



「ああ~。王都にその兵器があるのね。」


「だとすれば、調査のために王都に向かう必要がありますね。」


「いつ攻撃を受けるか分からない状況ですし、マールグリナに戻るよりも王都に向かうという判断は私も賛成です。」



朱鷺田だけでなく、

三倉達も理解してくれたようだ。


ここまでの話し合いで全員の理解が広まったところで、

今後の方針を説明しておくことにする。



「事実の確認と敵の動きを探る為に、俺達は先行して王都に向かう。」



上手く兵器を破壊出来れば、

戦争を止められる可能性もあるからな。



それに万が一、破壊に失敗しても、

詳細を得られれば対策が考えられるはずだ。



「敵の本当の目的を確認する為に王都へ向かうことにする。」


「異議はありません。」


「わたしもね~。」


「僕もです。」


「私もです。」



俺の方針を素直に受け入れてもらえたことで、

王都に向けて移動することが決まった。



「そうと決まれば、すぐにでも行動を!」



勢いよく立ち上がる徹だが、焦りは禁物だ。


情報を握る俺達がしくじれば、

偵察の意味が失われることになるからな。



「いや、今は休憩するべきだ。」



まずは万全を期すために体を休めたほうがいい。



「あまり時間に余裕はないが、王都へ着いてからだと休む暇がないからな。」



全員の体調を整えるために、

徹から愛里に視線を移す。



「今のうちに体を休めておかなければ肝心な時に十分な働きは出来ないだろう。」



特に愛里の体力は平均以下のように思えるからな。


ここから王都までは徒歩で5時間程度だが、

忍び込むことを前提で考えるのなら夜まではまだ時間がある。



「徹夜での疲れを今のうちにとっておいたほうがいい。」


「…ええ、確かにそうですね。」



徹は冷静になって仲間を見回している。


砦への潜入と諜報活動という、

極度の緊張感を経験したばかりだからな。



このまま王都へ向かっても、

疲労が蓄積するばかりで満足に行動出来ないことに気づいたようだ。



「分かりました!それでは、午前中は休憩ということで良いですか?」


「ああ、問題ない。」



徹の質問に頷いておく。



「この町を出発して王都に向かうのは昼を過ぎてからでも十分に間に合う。」


「了解です。」



徹の行動を抑制したことによって、

室内の緊張感が一気に消え去った。



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