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THE WORLD  作者: SEASONS
4月16日
749/1236

理想は理想

《サイド:米倉美由紀》



校舎の時計を確認してみる。



時刻は午前5時40分よ。


まもなく集合の時間になるわ。



…でもまあ。



今後の予定を考えると。


もう少し出発を遅らせても問題はないんだけどね。



だけど、ここでゆっくりするよりも。


現地についてから休息を取ったほうがいち早く行動に移れるから早めに出発することにしたのよ。



それに何より、

現地でなければ手に入らない情報もあるでしょうしね。



移動を優先しておいて損はないはずよ。



だからまずはマールグリナに向かうこと。


そのために昨日と同じ馬車を用意して校舎の前で待機してるんだけど。


今ここにいるのはまだ3人だけだったりするわ。



私と近藤誠治と黒柳大悟の3人よ。



各方面の戦力の関係でマールグリナには向かわないけれど。


見送りとして二人が来てくれているの。



私の不在の間は近藤誠治が国内の全権を任されることになっているわ。



代表代行って感じね。


政治手腕は確かだから他国との外交がいこう云々(うんぬん)を除けば、

大概のことは対応できるはずよ。



…まあ。



戦争に突入したらもう外交なんて考える必要がないから、

その手の仕事は回ってこないと思うけどね。



仮に停戦協定とかそういう話し合いの場が設けられることになるとしたらその時は私が出向くことになるはずだし。


仮に私が動けない状況だったとしても父さんが代わりを務めてくれるんじゃないかしら?



一応、元代表だったわけだしね。



だから近藤誠治の担当はあくまでも国内限定よ。



それでも代表不在の国内事情を一手に引き受けてくれるわけだから今まで以上に忙しくなるでしょうけどね。



そんな近藤誠治とは別に。


大悟は海軍に参加して父さんの補佐を務める予定になっているわ。



体の不自由な父さんの代わりに現場で指揮を執るっていう感じよ。



最終的な決定権は父さんにあるけれど。


現場での指揮権は大悟に委ねられることになるの。



この辺りもまあ、役割分担って感じね。



私や父さんに出来ない部分を近藤誠治や大悟に委任する形になるの。



その最終的な打ち合わせも含めてこの場に集まってるんだけど。


とりあえずは御堂君達が集まるのを待ってるところよ。



近藤誠治としては単純に私の見送りのつもりでしょうけどね。



大悟としては交友関係のある御堂君や翔子の見送りもしたいっていう感じかしら?



本音を言えば大悟も天城君の捜索に参加したかったみたいだけど。


自分の立場を考慮して大人しく学園に留まってくれているわ。



そんな感じで今は静かに時計を眺めている様子ね。



…で、まあ。



肝心の私はといえば、

必要以上に何度もため息を繰り返しているところよ。



理由は説明するまでもないわね。


考えるべきことが多すぎるからよ。



その中でも最も気になる問題が一つ。


今日はまだ何の連絡も届いてないけれど。


時間的に考えるとね。


天城君はすでに例の砦の潜入を終えて脱出してるはずなのよ。



詳しい情報はマールグリナに着かなければ分からないけれど。



無事に脱出できたかどうかが心配だったりするわ。



…心配なんだけどね〜。



ここからマールグリナまでの距離は、

グランバニアを目指すよりもさらに遠いのよ。



普通に行けば丸一日になるわ。


24時間とは言わないけどね。



20時間弱っていうところかしら?



直線距離で言えばグランバニアの1.5倍っていう感じだけど。


共和国はどの国も欲しがらないような辺境だから、

目的地に向かって真っ直ぐ進めるような土地じゃないのよ。



紆余曲折うよきょくせつを繰り返しながら進むことになるからどうしても時間がかかってしまうの。



だからどれだけ急いでも日暮れ頃にはなるでしょうね。



そこまで馬が力尽きなければ…の話だけど。



相当急いでも12時間超えは確定かしら?



1秒でも早く辿り着けるかどうかは運次第ね。



色々と焦る気持ちはあるけれど。


ここで焦っていても事態は好転しないから、

今は出来ることを一つずつ確実に進めていくしかない状況なのよ。



「一体、これからどうなるのかしらね?」



呟いた言葉に具体的な意図なんてないわ。


私自身でさえも漠然としてる疑問だったのよ。



それでも近藤誠治は私の問い掛けに答えてくれるみたい。



「アストリア側も使者の全滅に関しての情報を今日中には知ることになるでしょう。」



それはまあ、そうよね。



ある程度の情報規制はかけてるけれど。


共和国に向かった使者が帰ってこないどころか、

連絡さえ取れない状況なわけだから少なからず疑問を感じるはずよ。



場合によっては共和国に潜入させているアストリア側の密偵から使者の全滅という報告を受けていてもおかしくはないわ。



「すでにアストリア軍の編成はほぼ整っている状態だと考えても、実際に行軍が出来るのは最速でも明日以降ではないでしょうか?楽観的かも知れませんが、今日という日はまだ安全と言えるはずです。」



ええ、そうね。


そうであってほしいと思うわ。



アストリア軍は大規模な軍隊であるがゆえに、

実際に行軍するまでに時間がかかってしまうはずなのよ。



仮にも10万の大軍なのよ?



号令一つで共和国になだれ込めるような規模じゃないわ。



すでに行軍の準備を整えた上で降伏勧告を行っていたというのなら現時点でも攻撃を受ける可能性はあるけれど。


わざわざ降伏勧告をしてきたっていうことは返事を待つだけの猶予があるはずなのよ。



その猶予が何時間かは分からないけれど。


報告を受けてから進軍の準備を始めて、

実際に行軍を開始するまでには確実に時間差があるはずなの。



その残り時間が今日一日と推測してるわけだけど。


実際にどの程度の猶予があるのかは偵察を終えた天城君に直接聞くのが最も手っ取り早い方法でしょうね。



だからこそ。



天城君の報告を確かめるためにもマールグリナへの移動を急ぎたいわけだけど。



対する共和国側の戦力はどこまで整っているのかしら?



急な話だったから編成に手間取ってると思うわ。



だけどアストリア軍に比べれば小規模だから行軍するのはたやすいはずなのよ。



おそらく私達がマールグリナに到着する頃にはすでに部隊の編成が整っていて、

砦に向けて進軍出来るようになってるんじゃないかしら?



あくまでも現段階ではまだ『予定』だけどね。



実際にどうするかは到着する時間帯によって変わってくるわ。



ただ、どんな作戦を決行することになるとしても、

私が3万5千もの魔術師を率いて戦争の指揮をとることになるのよ。



少しばかり能力的に優れているとしても、

初めて経験する『戦争』だから不安は大きいわ。



「生きてこの町に帰ってきたいわね…。」



しみじみと呟いてしまう。



「誰も死んで欲しくないわ…。」



もちろん私もね。


生きて帰ってきたいと思うのよ。



だけどそんな私の思いを大悟は否定してしまうの。



「残念だが犠牲は避けられないだろうな。」



…でしょうね。



「相当な数の犠牲者が出ることになるはずだ。」



…否定できないわ。



「だがそれでも俺達はこの国の未来の為に、そして全ての魔術師の為に戦うしかない。」



…ええ、そうね。



「そうして多くの屍を乗り越えた先に見える未来を信じるしかない」



…もちろん、分かっているわ。



でもね?



「未来…ね。もしもあるのならこの目で見てみたいわね。」



本当に…心から願うわ。



「互いに共存しあえるそんな明るい未来を…ね。」



実現したいとは思うけれど。


現状では難しいでしょうね。



信じるだけで未来がつかみ取れるのなら、

私達はとっくに理想を掴み取っているからよ。



だけどね?



現実には理想を叶えるどころか、

刻一刻と破滅に近づいてしまっているの。



「理想は理想よね…。」


「それでも信じることから始めるしかない。それすら諦めてしまえば、もはや絶望しか残らないからな。」



ええ、そうでしょうね。


大悟の意見に異論はないわ。



まずはそこから始めるしかないのよ。


全てが上手くいくと信じて前に進むしかないの。



「現状は最悪の展開だけど、ここから巻き返すしかないわ。」



絶望の先に希望があると信じるしかないのよ。



「戦局がどうなるかはわからないけれど、この国の未来は守ってみせるわ。」


「ああ、その意気だ。」


「私も微力ながらご協力させていただきます。」



未来を願う私達。


絶望を希望に変えると願う私達に、

ようやく最初の生徒が歩み寄ってきたわ。




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