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THE WORLD  作者: SEASONS
4月16日
744/1236

統一感

《サイド:琴平愛里》



朱鷺田さんと天城さんがいなくなったあとで、

厨房を離れた純さんと私は砦の内部を散策することにしました。



目的は『内部調査』と言うのでしょうか。



情報収集は天城さんと朱鷺田さんの二人に任せることにして、

私達は兵士さん達の分布や配置の状況を偵察することにしたからです。



たった2時間で調べられることには限りがありますし。


純さんが天城さん達とは別の角度から調査を行おうと言い出したことで、

砦の内部を探索することになりました。



…とは言っても。



時刻はすでに深夜です。


ほとんどのかたが眠っている時間です。



普通に考えて調べられることは少ないように思います。



どう考えても警備が手薄だと思っていたんですけど。


実際には見渡す限りどこを見ても兵士さん達がいる様子でした。



やっぱり10万人もいると、

起きている人も多いのでしょうか?



それとも24時間の交代制がきっちりと決められているのでしょうか?



確認してみないと分からない部分なのですが、

純さんは深夜の眠気に耐えながら見張り行う兵士さん達に自然な挨拶を交えながら堂々と会話をしていました。



まるでそうすることが当然のように、

人目を気にせずに砦の中を歩き続けているんです。



そんな純さんの姿に驚いてしまって、

ついつい尊敬の眼差しを向けていました。



「うわ~。純さんは凄いですね。」


「え…?そう?どうして?」



私を見つめながら首を傾げる純さんですが、

それでも私は尊敬の眼差しを向けたままで理由を答えることにしました。



「だって、この状況でそんなに堂々と行動するなんて私には出来ないです。」



それは私が人見知りとかそういう理由ではなくて、

目の前にいるのが敵国の兵士だからです。



…そもそも人見知りではありませんけど。



バレなければ襲われることはないのですが、

バレたら間違いなく戦闘になります。



相手が少数ならともかく。


ここにいるのは10万の軍隊です。



戦って生き残るなんて絶対に不可能です。


当然、逃げることなんてできません。



それなのに。


恐れずに会話ができるというのはとても凄いことだと思います。



「格好良いです!」


「…え?あ、あははは…っ。」



褒め続ける私の言葉を聞いていた純さんは照れくさそうに笑っていました。



「そうでもないわよ?これでもかなり緊張してるしね。ただ、変に気を使うと逆に不自然かな~?って思って、強がってるだけで、私だって本当は心臓ドッキドキなのよ?」



緊張してると言って微笑む純さんですが、

それでも私には真似できそうにありません。



「やっぱり凄いです。私も純さんみたいになりたいです。」


「え~?そう?あんまりお勧めはしないわよ?」



私の発言に苦笑していましたが、

それでも純さんは情報収集を忘れずに、

すれ違う兵士さん達に挨拶をしながら会話を続けていました。



「お疲れ~。どう?何かあった?」


「いや。何もないね。」



純さんが笑顔で問い掛けたことで、

兵士さんも笑顔で答えてくれました。



「平和そのものだよ。これから戦争が始まるとは思えないくらいさ。」



気楽な雰囲気で答えてくれた兵士さんは、

そのまま立ち去ってしまいます。


私達の存在を疑う様子もないまま

あっさりと通り過ぎて行ったんです。



…うわぁ~。



やっぱりすごいですよね。


これまでにも何度も繰り返された質問なのですが、

純さんは兵士さん達の言葉を聞くたびにほっと安堵の息を吐いている様子でした。



…それはまあ、当然ですよね。



何も起きていないという会話は私達が侵入していることに『勘付かれていない』ということでもあるからです。



そしてそれはつまり。


徹さんがまだ生きているということでもあります。



「みんな、まだ無事ってことよね~」



純さんは可愛らしい外見からは想像できないくらい、

思慮深く兵士さん達から情報を引き出していました。



「さてさて、もうあまり時間がないかな?」



…え~っと?



…あっ!



時計がありますね。


今は3時52分のようです。



「そろそろ集合の時間ですね。」


「あ~、もうそんな時間なのね。撤退が遅くなるほど脱出が難しくなるから早めに引き返した方が良さそうね。」



ええ、そうですね。


純さんと一緒に宿舎まで戻ることにしました。



「思ったよりも遠くまで来てたんですね。」


「そうね~。」



宿舎はギリギリ見えるかどうかというくらい遠くに見えます。


普通に歩いていたら10分では帰れないかもしれません。



「急いだほうがいいかな?」


「ですね。」



足早になる純さんのあとを急いで追います。



…ただ。



その途中で少し気になっていた出来事を聞いてみることにしました。



「あの…。さっきからずっと気になってたことがあるんですけど…?」


「ん?」



私が問い掛けたことで、

純さんは速度を緩めながら振り返ってくれました。



「どうかしたの?」



…どう、と言うか。



どう言えば良いのでしょうか?


私にもはっきりとしたことは言えません。



「えっと…その~。何となくなんですけど、変じゃないですか?」



曖昧な言葉ですみません。


ですが他にどう表現すればいいのかが分からなかったんです。



そのせいでしょうか?


質問の意味が分からずに、

純さんは首をかしげている様子でした。



「…変って、何が?」


「それは…その~。」



言葉に迷いながら周辺に視線を向けてみました。



見渡す限りどこにでもいる兵士さん達ですけど。


服装『だけ』を見れば、

軍の制服で統一されているのがわかります。



…ですが。



その制服を着ている人達に全く『統一感』がないんです。



「男性も、女性も、老人も、子供までいますよね?」



それが不自然に思えるんです。


とても軍隊に所属しているとは思えない人達がいる気がするんですけど…?



「どうしてなのでしょうか?」



私が感じた疑問。


それはつまり、そういうことです。



とても戦力として数えられないような歳老いた老人や、

まだ10歳にも満たない見た目の子供達まで軍の制服を着て砦の警護を行っていることに違和感を感じていました。



こんな深夜にも関わらず。


老人や子供が行動しているというのも不自然です。



それなのに。



明らかに戦力として期待出来ない人々がここにいるというのが最大の疑問でしょうか。



「もうすぐ戦争が始まるという状況で、どうしてこんな危険な所にいるのでしょうか?」


「…ん〜?」



私の疑問を聞いてくれた純さんが周囲を見渡しました。



「あ~…まあ、ね~?」



まるで最近、軍に入ったばかりの新人のような雰囲気を持つ兵士さん達が沢山いるんです。


正直に言って、あまり強そうには見えません。



…と言うよりも。



さすがに貧弱な私でも、

お年寄りや子供にまで負けるほど弱くはありません。



だから個人的な感想としては、

緊張感よりもほのぼのとした雰囲気を感じていました。



「…やっぱり気になるわよね〜?」



警備を行っているのが屈強な兵士達ばかりではないことには純さんも気付いていたようですね。



それでも純さんは10万人もいればそれが当然だと思っていたようです。


だからそこまで気にしていなかったのかもしれません。



「兵士の家族だと思っていたんだけど…。確かに本来ならこんな最前線にいるべきじゃないわよね?」



子供がいても兵士達の家族程度に思っていたようですね。



だからこそ。


こうして私達が砦の内部を歩いていても不自然に思われないのかもしれないと考えていたのでしょうか。



…ですが。



軍の制服を着て警備に参加しているという時点で単なる家族とは言い切れないのではないでしょうか?



そんな私の疑問によって、

純さんも疑問を感じ始めた様子でした。



「言われてみれば確かに不自然よね〜?通常なら非戦闘員は安全な場所へ逃がすべきなのに、最前線の砦に参加させているのはおかしいわ。」


「何か…数を揃えることに意味があるのでしょうか?」


「さあ?私には分からないけど、だけどわざわざそんなことをしなくてもアストリアには30万の軍隊がいるのよ?そんな戦力にならない頭数を揃えて水増しなんてしても…って?あれ…?」



純さんは自分の言葉に疑問を感じた様子でした。



それは『水増し』という部分ですね。


その言葉が事実ではないかと私も直感的に感じています。



「もしかして…本当の軍の数を隠してるってこと?」


「やっぱりそうなのでしょうか?」



お互いに同じ推測にたどり着いたことで私達は恐怖を感じてしまいました。



もしもここにいるのが正規の軍隊ではなくて、

『寄せ集めの集団』だったとしたら?


仮にそうだとしたら10万という頭数は恐れるべき戦力ではないことになります。



ですがそれは同時に。



『本当の軍隊』がまだ別の場所に存在することになってしまうのです。



およそ30万の軍隊が、

ここではないどこかに隠されているということです。


その事実によって私達は恐怖を感じてしまいました。



「…まずいわね。この砦『そのもの』が囮の可能性があるわ。本当の軍の進行を隠す為の罠。共和国の主力がこの砦に進軍している間に別の場所から共和国に攻め込もうとしているのかもしれないわね。」


「この砦『自体』が罠ということですか?」


「その可能性は十分にあるわ。事実はまだ分からないけれど、他に考えられる可能性はなさそうよね。」



不安を感じたことで、

純さんは再び足早に歩きだしました。



「急ぎましょう。早くみんなと合流して撤退した方が良いわ。」



確認した情報をマールグリナへ持ち帰る為に。



私達は脱出を急ぎました。



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