無人
………。
………。
………。
移動の途中で何度も見回りの兵士達と遭遇しかけたが、
空き部屋に身を潜めて回避しながら移動を続けていった。
そうしてようやく見つけた階段を駆け上がり。
3階まで忍び込むことには成功した。
静かに周囲の様子を窺ってみる。
だが、この階に見張りの気配は感じられない。
…いや。
そもそも誰もいないのか?
実際に確認してみなければ分からないものの。
現時点では無人のように思えてしまう。
…だとすれば。
3階は調べるだけ時間の無駄だろうか?
もしも重要な施設や人物がいれば警備は厳重になるはずだ。
だがこの階に人の気配はない。
警備がいない時点で探すべきものがないように思えてしまう。
そうなると二階よりも重要度が低いと判断するべきだろうか?
砦にいられる時間はあまりない。
脱出する時間を考えればあまり長居はできない。
…どうする?
一階に移動するか?
それとも調査を続行するか?
どちらが正解なのか?
答えは分からないが、
せっかくここまで来たからな。
何も調べずに離れるというのもどうかと思う。
何も見つからないかもしれないが、
何もなければそれはそれでいいだろう。
あとで調べなかったことを後悔するよりはましだからな。
「10分だけ調べてから移動しよう。」
どうせ無人だ。
その程度の時間なら特に問題はないだろう。
出来るだけ奥に向かって次々と扉を開けていく。
そして内部を確認してみる。
だが、どの部屋にしても2階と同様でほとんどが空き部屋だった。
それでも幾つかは食料保管庫なのだろうか。
大量の木箱が押し込まれているのが発見できた。
とはいえ。
その程度の発見しかないとも言える。
やはり調査するだけ時間の無駄だったか?
そんなふうに思いながら通路の突き当りの扉に手をかけてみると、
他の部屋とは違ってここだけは鍵がかかっていた。
扉が開かない。
そのせいで中の様子を見ることが出来ない。
「…気になるな。」
今まで鍵のかかった扉は一つもなかった。
全ての扉を調べたわけではないが、
これまでの調査で入れなかった部屋はここだけだ。
もしかしたら鍵をかけるだけの理由が、
この部屋にはあるのかもしれない。
何らかの施設だろうか?
あるいは重要な何かを仕舞っているのだろうか?
中を確認してみなければわからない。
どうする?
突入するか?
鍵を破壊するのは容易い。
そして室内に人の気配もない。
今なら侵入できるはずだ。
「…行くか。」
強行突破を狙ってみる。
扉に視線を向けて魔術を発動させることにした。
鍵を解除するような便利な魔術は知らないが、
扉そのものを破壊することはできるからな。
扉の一部を破壊して穴を開けてみる。
そして内側に手を伸ばしてから鍵を解除する。
扉は簡単に開くことができた。
「中の様子は…?」
即座に中に侵入して内部を確認してみたのだが期待はハズレだったようだ。
ここも他の空き部屋と大差のない広いだけの部屋だった。
「ここも単なる空き部屋なのか?」
それはそれで構わない。
…だが。
だとしたら何故、鍵がかかっていたのだろうか?
机と椅子が並んでいるだけの部屋が何故、
立入禁止なのだろうか?
その理由を調べてみようと思ったが、
この部屋からは資料の一枚すら見つからなかった。
「どういうことだ?」
どう考えても何もない部屋でしかない。
砦に関する情報どころか、
使用されている形跡さえも見つからずにいる。
「なぜ、封鎖する必要があった?」
砦が完成してからまだ日が浅い為に、
未使用の部屋があるのは理解出来る。
だが、どの部屋にしてもまともに使用されている形跡がなかった。
それなのに。
この部屋に関して言えば施錠までされていたのだ。
…どういうことだろうか?
何もないはずがない。
だが何も見つからない。
明らかに不自然な状況なのに、
これ以上、どうすればいいのかが分からなかった。
「一階に向かうべきか?」
すでに予定の10分は経過しているだろう。
残り時間を考えれば早々に移動すべきだ。
「…一旦、出るか。」
違和感を感じながらも部屋を出ることにした。
次はどこへ向かうべきだろうか?
他にも同じような部屋があるか調べるか?
それとも素直に一階に向かってみるか?
どちらを選ぶか考えていると、
不意に階下から足音が聞こえてきた。
そしてその足音は徐々にこちらに近づいてきているようだ。
何者かが迫りつつある気配がする。
「…まずいな。」
小さいとは言え、
扉を破壊した痕跡を発見されれば騒ぎになりかねない。
ここからの脱出自体は難しくないが、
騒ぎが起きれば砦からの脱出が難しくなるだろう。
…先に復元しておくべきだったな。
今からでも間に合わないとは思わないが、
気づかれる可能性がないとは言い切れない。
どうする?
近づいてくる人物を暗殺するか?
それしか方法が思い浮かばない。
死体を隠せば少しは時間も稼げるはずだからな。
その間に調査を続行すればいい。
そう判断してから迎撃の準備を整えようとしたのだが、
幸いにも足音の主は途中で別方向の通路に向かって歩き去ったようだ。
「どこに向かった…?」
疑問を感じて足音を追ってみる。
足音の主はすぐに見付かった。
明らかに一般兵とは違う雰囲気を持つ男だ。
深夜にも関わらず。
明かりさえ持たずに歩く男は、
まだ俺が調べていなかった部屋の前で立ち止まっていた。
そして鍵を取り出してから扉を開いている。
どうやら他にも鍵のかかった部屋はあったようだな。
こうなると他にもあるのか確かめてみたくなるのだが、
そこまで時間をかけていられるような余裕はない。
今は男の追跡が優先だ。
室内に入った男が扉を閉じたことで、
気配を消して扉に接近してみる。
そして扉の前で聞き耳を立ててみた。
だが、室内からは物音一つ聞こえない。
…何故だ?
間違いなく、男はこの部屋に入ったはずだ。
それなのに何も聞こえないというのは不自然すぎる。
不審に思って取っ手に手をかけてみると、
扉はあっさりと開いた。
どうやら鍵はかかっていなかったらしい。
かけ忘れたのだろうか?
あるいは必要ないと判断したのだろうか?
理由は不明だが、室内を覗き込んでみる。
…どういうことだ?
何故か室内には誰もいなかった。
どう見ても無人だ。
間違いなく男がこの部屋に入って行ったにも関わらず。
部屋の中には誰もいないとしか思えない。
…消えたのか?
いや、そんなはずはない。
どこかに移動したはずだ。
…だが、どこから?
室内に他に出入り口はない。
先ほどの大部屋同様に椅子や机が並んでいるだけで他には何もなかった。
そっと室内に忍び込んで確認してみるが、
どこにも隠れられる場所があるようには思えない。
「隠し通路があるのか?」
…まさか!?
その可能性に気づいたことで、
室内の探索を放棄してから先程の鍵のかかっていた部屋まで急いで戻ることにした。




