換気口
《サイド:琴平愛里》
三倉さんと一緒に換気口に入り込んだあと。
私達はゆっくりと内部を進んで行きました。
とても狭い空間ですが、
一人ではありませんので怖くはありません。
「愛里ちゃん、大丈夫?」
「あ、はい。」
ほふく前進という状況が窮屈だとは思いますけれど。
目の前に三倉さんがいてくれるので安心して進むことができます。
「大丈夫です。」
「おっけ~。」
何度か声をかけていただきながら幾つもの部屋の天井を通り過ぎます。
そうして進んでいると。
ついに誰もいない部屋の上へとたどり着いたようです。
「ここなら目的の物が見つかりそうね。」
先行する三倉さんが換気口の柵を外して室内へと飛び降りました。
頭から抜け出したのに、
綺麗に一回転して着地する姿は惚れ惚れします。
…こう言っては失礼かもしれませんけれど。
見かけよりも俊敏な動きだと思いました。
私よりは身長があるのですが、
それでも小柄で可愛らしい感じなので運動は苦手そうに見えたからです。
ですが、実際にはそうではないようですね。
治安維持部隊に所属しているだけあって、
単純な運動能力は私達の中では一番高いのかもしれません。
「さてさて…。」
ひとまず脱出に成功した三倉さんは、
私の為に適当に柔らかそうな緩衝材を見つけてから換気口の下に用意してくれました。
「どう?下りられる?」
「あ、はい。大丈夫です」
予備の絨毯か何かでしょうか?
柔らかそうな絨毯のおかげで、
落ちても大丈夫そうな気がします。
これなら私でも出られると思います。
一旦、少しだけ通り過ぎてから足を外に出しました。
換気口にしがみついてる感じですね。
足元は見えませんけれど。
これなら頭から落ちる心配はありません。
「よい、しょ…っ」
ゆっくりと換気口から抜け出します。
まずは体を出して、
腕から上だけが換気口に残ってる状態になりました。
…あとちょっと。
足元が見えないのが怖いのですが、
いつまでもこうしているわけにはいきません。
思い切って頭も出して。
残った手で換気口の入り口を掴んで。
宙ぶらりんなったところで。
足場に向かって一気に着地しました。
…ただ。
換気口から床までは3メートル以上の高さがあったのでちょっと怖かったです。
これくらいなら大丈夫と思って飛び降りた瞬間にスカートがめくり上がりそうになって焦ったのは個人的に秘密です。
もちろんこの場には三倉さんしかいませんので、
見られたところで恥ずかしがるほどではないんですけど…。
それでもやっぱり焦ってしまいました。
「…あ、ありがとうございます。」
「いえいえ、どういたしまして」
呼吸を整えながらお礼を言ってみると、
三倉さんは優しく微笑んでくれました。
足でまといになりつつある私を見守ってくれているんです。
その恩に報いるために、
頑張ってみようと思います。
「ライト・ボール」
手の平から生みだしたのは小さな光の球です。
室内を探索するのなら明かりは必要ですので光の球を天井に張り付かせました。
一応、光量は限界まで押さえる努力はしています。
私の実力では光量自体を変えるのは難しいので、
物陰に発動させて照らす範囲を制限する感じですね。
光の球の輝きによって室内がうっすらと見渡せるようにはなりました。
「ありがと、愛里ちゃん。」
「い、いえ…。私はこれくらいしかお役にたてませんので…。」
ただそれだけのお手伝いなのに。
三倉さんはお礼を言ってくれたんです。
「ん~?そう?そんなことはないと思うけどね~。でもまあ、戦闘が始まって怪我でもしない限り、お医者様の出番はないかもね。」
「えっと…その時は全力で治療させていただきます。」
「ふふっ、ありがとう。そう言ってもらえるだけで頑張れる気がするわ。」
何もできない私を責めたりせずに、
三倉さんは優しく頭を撫でてくれました。
「それじゃあ、ささっと探索を始めましょう。」
「はい!」
三倉さんが室内の探索を始めました。
もちろん私も手の届く範囲でお手伝いしたいと思います。
「私も探しますね。」
見た感じ、この部屋は物置のようですね。
あらゆる物資が乱雑に放置されているように思えます。
「とりあえず…。」
三倉さんとは反対側を捜索したほうが良いでしょうか?
欲しいのはアストリア軍の軍服ですよね?
砦の内部を歩き回れる服装なら何でも良いんですけど。
二人で荷物を掻き分けながら兵士に紛れる為の服を探してみました。
三倉さんは『ガサガサッ…ガサガサッ…』と音を立てながら。
戸棚や木箱や放置されている布袋、等など。
手当たり次第に探り散らかしています。
私は動きが鈍いので、
離れた場所で『ゴソゴソ…』と1つ1つ丁寧に調べました。
対称的な行動ですけど。
どちらの手際が良いかは一目瞭然です。
三倉さんの方が圧倒的に速いからです。
…ですが。
こういうのは運の要素もあるのでしょうか?
私達はほぼ同時に目的の物を見つけました。
「あった!」
「ありました!」
三倉さんの手には鎧一式が、
私の手には軍服一式があります。
それぞれ木箱に詰め込まれているのを引っ張り出して、お互いに確認してみました。
「どっちも正解ね。鎧は警備兵用で、服は巡回兵用かな?どっちにしてもこれで自由に行動出来るはずよ。」
三倉さんは満足そうに何度も頷いてから、
見つけた服と鎧を適当な布袋に詰め込みました。
「さてと。目的は果たしたから二人のところに戻りましょう。」
先行する三倉さんが再び換気口に向かいます。
幾つかの木箱を寄せ集めて足場代わりにしていますね。
そのあとに続く私は発見した荷物を運び出すために、
下から布袋を押し上げて引き上げてもらいました。
「とりあえずはまあ、換気口に押し込んで荷物を押しながら進むしかないわね」
換気口の内部はほふく前進ですので、
引っ張りながら進むということができません。
ですので。
三倉さんは布袋を押しながら進むつもりのようです。
「愛里ちゃんも登れる?」
「あ、はい。多分、大丈夫です」
ちょっぴり不安定な足場ですけど。
今は木箱がありますので大丈夫だと思います。
さすがに上から飛び降りると崩れてしまいそうですけど。
登る分には問題ありません。
「行きますね。」
少し勢いをつけて換気口へと手を伸ばしてみると、
足場のおかげで先程よりも簡単によじ登ることが出来ました。
…ですが。
やっぱり不安定な足場は崩れてしまったので、
ここで落ちてしまうと怪我をしてしまうかもしれません。
…よい、しょ。
頑張って換気口に潜り込みました。
目の前には三倉さんがいてくれて、
うつ伏せの姿勢のまま待っていてくれています。
「…すみません。お待たせしました。」
「うんうん。良く頑張ったわね〜。」
無事に上がれたことで、
三倉さんが褒めてくれました。
「それじゃあ、急いで戻りましょう。」
「はい!」
元気良く返事をしてから室内の光を解除します。
これで誰かに気づかれる可能性は低くなるはずです。
再び暗闇に包まれる換気口の内部ですが、
基本的には一本道なので道に迷う心配はないと思います。
分岐点さえ間違えなければ帰れるはずです。
…ただ。
光に慣れてしまったせいで来た時よりも暗く感じてしまいますね。
それでも安全を重視した私達は慎重な行動を心掛けながら、
来た道をゆっくりと引き返すことにしました。




