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THE WORLD  作者: SEASONS
4月16日
735/1236

適材適所

《サイド:栗原徹》



さて、と。


ここからが本番ですね。



砦の西側へと回り込んだ僕達は、

ひとまず水路の様子をうかがうことにしました。



すでにかなりの数の巡回兵の姿が見えているからです。



砦の警備で最も警戒が薄いのは間違いなく西側なのですが、

それでも強行突破出来るような状況ではありません。



総勢10万に及ぶ数の兵士が待機する砦なのですから。



砦の周囲には数え切れないほどの兵士が巡回していて警戒の目を光らせています。



それはもちろん水路も同様でした。



警備のぬかりはありません。



巡回兵が去ったあとも警備の兵士は残っているようです。



頑丈な鉄格子で封鎖された空洞。



その周辺には屈強な兵士達がざっと30名ほど待機しています。



これはもう見ただけでわかりますね。



うかつには近付けない雰囲気です。



緊張感が辺りを漂っていました。



「どうしますか?」



朱鷺田さんが問い掛けたことで、

天城さんは鉄格子に視線を向けました。



「根本的な問題として、あの鉄格子を開くことは出来ると思うか?」



どうでしょうか?



鍵さえあれば開けられるとは思いますが、

肝心の鍵がどこにあるのかが分かりません。



砦にいると思われる幹部の一人でも捕獲できれば鍵の入手も可能かもしれませんが、

それでは水路に入るための鍵を手に入れるために砦に潜入しなくてはならないという本末転倒な話になってしまいます。



なので、鍵の入手は難しいと思います。



だから、でしょうか?



天城さんの問いに対して、

朱鷺田さんも否定的な表情を浮かべていました。



「難しい問題ですね。おそらく鉄格子を開く為の鍵はここにはないでしょう。警備の兵士に持たせるような危険なことはしないと思います。それでは『緊急時』に敵に扉を開けさせるようなものですからね。」



ああ、なるほど。



僕はそこまで考えていませんでしたが、

確かにその通りかもしれませんね。



いくら兵士を配備しているといっても、

その兵士が襲われて鍵が奪われてしまったら警戒している意味がありません。



むしろ敵に鍵を差し出す結果になるだけです。



…そうなると。



警備兵達には鍵を預けない、というのが最善策なのは間違いありません。



その結果として兵士達も水路には入れなくなりますが、

そもそも中に入る必要がないでしょうから入口が封鎖されていても特に問題はないはずです。



なので鍵は誰も持っていない可能性が非常に高いように思えます。



ですがその辺りの考察はすでに天城さんもしていたのか、

朱鷺田さんの指摘に何度も頷いていました。



おそらくですが、

天城さんも最初から鍵の入手は考えていなかったのではないでしょうか?



間違いなく鉄格子を『開く』つもりはないと思います。



「だとすれば鉄格子を破壊するしかないだろうな」



ですよね。


僕もそう思います。



…とは言え。



天城さんの発言によって全員の表情に緊張感が漂い始めました。



その理由はわざわざ言葉にするまでもありませんね。



ここで暴れれば砦への潜入がばれてしまうからです。



見張りの兵を倒すだけならたやすいと思います。



僅か30名程度ですので僕達だけでも十分に制圧可能です。



…あ、いえ。



天城さんか朱鷺田さんであれば単独でも可能だと思います。



ですが制圧できるのは警備の兵士達だけです。



いつ訪れるかわからない巡回の兵士までは対処出来ません。



異変に気付かれれば騒ぎとなり、

とても調査どころではなくなるはずです。



「単純な強行突破では侵入はともかくとして脱出は難しいかと…。」


「ああ、分かっている」



朱鷺田さんの不安を解決するために、

天城さんは三倉さんと僕に話しかけてきました。



「無音に近い攻撃魔術は使えるか?」



無音…ですか。


天城さんの問い掛けに対してどう答えるべきでしょうか?



「穏便には無理かな~?」



三倉さんはうつむいてしまっています。



三倉さんの場合。



魔力の総量は国内全体で見ても5本の指に入るほどだと思うのですが、

魔術師としての力量は平均より少し上程度らしいので、

そこまで戦闘技術が高いわけではないそうです。



なので、次に僕が答えることにしました。



「攻撃は苦手ですが、捕獲程度なら出来ると思います。」



護身程度の魔術ですが、

医療技術も使い方を変えれば攻撃魔術になります。



なので体を痺れさせたり、

昏倒させるなどといった方法であれば僕でもできます。



「それほど魔力は多くありませんので、あまり無茶はできませんが短時間であれば無力化は可能だと思います。」


「…そうか。」



僕達の返事を聞いたことで、

天城さんは作戦を説明してくれました。



「朱鷺田と三倉で見張りを殲滅。俺は鉄格子を破壊する。その後、愛里を含めて4人で砦に潜入する。徹はここに残れ。そして接近する巡回兵を無力化してここを守れ。」



僕だけは別行動ということですね。


この場合は後方支援とでも言うのでしょうか?



退路の確保という大役を務めることになるようです。



「分かりました。頑張ってみます」



天城さんの出した作戦に異論はありません。


どう考えても天城さんと朱鷺田さんの二人は、

後方支援よりも内部に潜入していただいた方が効率がいいと思います。



そのうえで三倉さんが無音での戦闘ができないとなると、

選択肢は僕か愛里ちゃんだけになってしまいます。



さすがに愛里ちゃん一人をこの場に残していくのは色々と不安がありますので、

僕がここに残って愛里ちゃんはみなさんと共に行動していただいたほうが間違いなく安全です。



適材適所と言えるかどうかはわかりませんが、

誰か一人が待機となると僕がここに残る以外の選択肢はなさそうですね。



なので、各自が即座に行動に移りました。



「ご健闘を祈ります。」


「お任せください。」



僕の言葉をきっかけとして、

朱鷺田さんと三倉さんが先行して走り出しました。



「まあ、出来る限りは穏便にいくわ。」



苦笑いを浮かべる三倉さんが攻撃魔術を発動させます。



「フリーズ・アロー!!!」



指先から放たれるのは数十本の氷の矢ですね。


まるで透明のガラスのように月の光を浴びて微かに煌めく氷の矢が闇夜の中を降り注ぎました。



「「「「「!?」」」」」



突然の出来事に驚く兵士達に朱鷺田さんも先制攻撃をしかけています。



「ブレス・アウト!!!」



朱鷺田さんの両手から生まれ出たのは紺色の霧です。



一般的な攻撃魔術とは異なる現象ですので、

朱鷺田さん独自の魔術なのかもしれません。


夜の闇に紛れる霧が兵士達を包み込みます。



「ぐっ…!?」


「ぁ…ぁ…っ」


「…なに、が…?」



次々と倒れる兵士達は自分達がどういう状況にいるのかさえ理解できていないようですね。



霧の影響を受けた兵士達は一人残らず呼吸を遮られたようで意識を失って倒れていきました。



「もう一つ!コールド・アロー!!!」



三倉さんの氷の矢によって残る兵士達も呻き声をあげながら倒れていきます。



その隙間を走り抜ける天城さんが鉄格子に接近していました。



どうやら本当に鉄格子に攻撃を仕掛けるようですね。



「エクスカリバー!」



放たれたのは風の魔術です。


こちらは学園で学ぶことのできる最上級魔術ですので、

僕もどういった魔術なのかはすぐにわかります。



魔術師同士の戦闘においては

魔術耐性や制服の防御能力などによって魔術の威力は低下する傾向にありますが、

真空の刃と言える風の威力は本来なら鉄格子を切り裂けるだけの威力があります。



そのため。



天城さんの手から放たれた数え切れないほどの衝撃波によって、

水路を塞ぐ鉄格子の一部があっさりと崩れ落ちました。



これで砦への通路が開かれたことになります。



天城さんを先頭にして朱鷺田さんと三倉さんが水路に突入して、

最後に飛び込んだ愛里ちゃんも水路の内部へと駆けて行きます。



残されたのは僕だけです。


みなさんが脱出できるように巡回兵を回避するのが僕の役目になります。



そのための準備として見張りが来るまでの短い時間を全力で駆け回り。


倒れた兵士達を鉄格子の内側へと運び込みました。



「これでひとまず見た目で騒ぎになることはないでしょうか?」



単なる時間稼ぎでしかありませんが、

ここを守る時間が長ければ長いほど天城さん達の安全は確保されるはずです。



「絶対に騒ぎにはさせません。必ずここを守ります!」



5人揃って砦を離脱するために。



この入口を死守する覚悟を決めました。



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