最初で最後の強がり
《サイド:深海優奈》
「…ごちそうさま。」
夕食が終わりました。
時計に視線を向けてみます。
時刻は午後9時45分ですね。
お母さんの手料理を味わって、
久し振りに両親と過ごした時間はすごく楽しかったです。
…でも。
それもそろそろ終わりに近づいています。
このまま朝まで…というわけにはいきません。
私にはまだ会わなければいけない人がいるからです。
…だから今は。
この幸せな時間にさよならを告げる覚悟を決めました。
「そろそろ学園に戻らないと…。」
時間を気にして立ち上がると、
お父さんとお母さんが引き止めてくれました。
「今晩は泊まっていったらどうだ?」
「そうよ。こんな時間から出歩くなんて…。」
危険だから止めなさいと心配してくれる両親ですが。
明日は朝6時に集合なので、
どちらにしても夜の間に家を出ることになると思います。
「ごめんね。まだ、しなくちゃいけないことがあるから…。」
両親に感謝しながらも、
学園に戻るために荷物をまとめることにしました。
そうして小さな鞄を背負って玄関に向かう私を、
両親は家の外まで見送りにきてくれたんです。
「気をつけて行くのよ、優奈。」
「何かあったらいつでも帰ってきなさい。」
「…うん。行ってきます。お父さん、お母さん。しばらく帰って来れないと思うけど、これからも元気にしていてね。」
溢れそうになる涙を必死に涙を堪えました。
最期は笑顔で別れたいと思うからです。
そう心に決めていたから、
精一杯の笑顔を浮かべて両親と向き合いました。
「ありがとう。お父さん、お母さん。ずっとずっと感謝してるから。だから、ずっとずっと元気でいてね。」
これからのことを何も言わなかったのに。
両親は何も追求しませんでした。
私の意志を尊重して、
静かに見送ってくれたんです。
「いつでも帰ってきなさい。ここは優奈の家なのだから。」
「今度、時間がある時にお料理を教えてあげるわね。」
両親の優しい言葉。
その言葉に幸せを感じながら、
私は『別れ』を選びました。
「ありがとう、お父さんとお母さん。」
今日は会えて嬉しかったです。
「大好きなお父さんとお母さんに会えて本当に良かった…。」
…だから。
だから私はとっても幸せです。
お父さんとお母さんがいてくれるこのお家に、
これからもまた帰ってきたいから。
…だから今は。
「行ってきます♪」
両親に背中を向けた私は、
振り返ることなく歩き始めました。
こぼれ落ちる涙を両親にみせないために。
そのまま歩き続けることにしたんです。
これは私の最初で最後の強がりです。
それでも。
これが私の選んだ道です。
ゆっくりと確実に家から離れる私の後ろ姿を、
両親はいつまでもいつまでも見送ってくれているような。
そんな気がしました。




