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THE WORLD  作者: SEASONS
4月15日
715/1242

次のための出会い

《サイド:常盤沙織》



ようやく目的地に到着しました。



翔子と二人で、

三日ぶりに家に帰ってこれました。



「毎回そうだけど、大会のたびに成美ちゃんに会えないのが一番辛いところよね~。」



翔子は相変わらずですね。


毎月恒例の愚痴をこぼしています。



「会えなかったぶんだけ、沢山お話をすれば良いでしょ?」


「あ~うん。それはまあ、ね。最初からそのつもりなんだけど、出来ることなら毎日成美ちゃんを抱きしめたいのよね~。」


「ふふっ。翔子らしいわね。」



ぼやく翔子に微笑みながら玄関に手を伸ばします。



…ですが。



扉を開ける前にもう一度だけ、

翔子に振り返ることにしました。



「あのね、翔子。これからのことはあの子には何も言わないであげて…。そして出来る限り笑顔でいさせてあげて…。」



それが姉としてのただ一つの願いだからです。



あの子を不安にさせないために。


そのために口止めをお願いしました。



「お願い、翔子。」


「うん、大丈夫。ちゃんと分かってるわ。私も成美ちゃんに心配なんてさせたくないし、余計なことは何も言わないから安心して!」



私のお願いを翔子は素直に受け入れてくれました。



「ありがとう、翔子。」



あの子は知らないほうが良いんです。



命を奪い合う戦争の話なんて知る必要がありません。



成美にはいつまでも笑顔で居てほしいと思っています。



だからあの子には何も言わずに旅立つつもりでいました。



…ただ。



そのせいで一つだけ心残りがあります。



それはあの子の眼を治してあげたかったということです。



…私の願いはもう叶わないかもしれません。



運良く生きて帰って来れたとしても治してあげられる保証なんてありませんけれど。


そもそも生きて帰ってこられる可能性のほうが低いと思っています。



私達は戦争に参加するからです。


命を失うかもしれない危険な戦場です。



…ですので。



生きて帰ってくるつもりではいても、

帰って来れる保証なんてどこにもないんです。



死んでしまったら、

もう二度と成美に会うことはできません。



そして成美の瞳を治療することも出来ません。



最後まで諦めないと心に誓う翔子でさえ、

先のことは分からないんです。



…だから。



だからせめて成美には笑顔で居てほしいと願っています。



…今日が最後になるかもしれないのなら。


…その可能性が少しでもあるのなら。



成美には楽しかった思い出だけを残してあげたいんです。



「あの子には…笑顔でいてほしいの。」


「…分かってる。ちゃんと分かってる。だからさよならも言わないわ。だって私達はここへ帰ってくるんだから、ね?そうでしょ、沙織。」


「ええ、もちろんそのつもりよ。」



あの子に心配させる必要はありません。


あの子を不安にさせる必要なんてありません。



…私達はホンの少し、出掛けるだけです。



そしてすぐに。


またすぐに帰ってきて。


今までと同じ日々を過ごす予定です。



「だから今日は…別れではなくて次の為の出会いなのよ。」



成美と別れるために帰ってきたわけではありません。


いつもと同じ日常を繰り返すために帰ってきたのです。



「…行きましょう。」



玄関の扉を開きました。



いつものように。


鍵のかかっていない扉を開いて家の中へと歩みを進めます。



そして私と翔子にとって見慣れた風景を眺めながら玄関から呼び掛けました。



「ただいま。」



声をかけた直後に『ガタンッ!』と音が聞こえました。


そして続けざまに成美の小さな声が聞こえた気がします。



「あらあら…。慌てすぎよ成美。」


「あぅぅ~。ごめんなさぃぃぃ…。」



何かあったのでしょうか?



玄関からは分かりませんけれど。


お母さんと成美の声が聞こえたあとに、

杖を突きながら歩く成美が姿を見せてくれました。



…どことなく苦笑いを浮かべているように見えますね。



何があったのかは分かりませんけれど。


何らかの失敗をしたのは感じられます。



…ですが。



何をしたのかなんて聞きません。


聞く必要がないと思うからです。



目が見えないのですから、

失敗の一つや二つはあって当然です。


むしろ何も起きない方が不自然です。



そう思っていますので、

私も翔子も気にせずに成美に話し掛けました。



「ただいま、成美。」


「ただいま~!成美ちゃん!!」



微笑む私と元気一杯の翔子。


そんな私達の表情は見えなくても。



「お帰りなさい♪」



成美は幸せ一杯の笑顔で私達を出迎えてくれました。



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