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THE WORLD  作者: SEASONS
4月15日
711/1242

戦争の準備

《サイド:米倉美由紀》



さて、と。



「全員揃ったわね」



真剣な表情でみんなの表情を順番に眺めていく。



現在、私の部屋と言える理事長室には私が呼び出した人々が集まっているわ。


小さな部屋全体に狭苦しいほど密集している状況なのよ。



呼び出しをかけたのは学園長である近藤誠治は当然だけど。



学園を管理している教師が数名。


そしてルーン研究所の所長である黒柳大悟に、

副所長の西園寺つばめや幹部の峰山、藤沢、大宮の3人もいるわ。



さらに治療魔術研究室の神崎慶一郎等など、

魔術研究所を代表する者達も大勢集まっているのよ。



だけど、生徒は一人もいないわ。


いるのはこの学園で重要な役職にある管理職だけ。



「ひとまず最初に謝っておくわね。急に呼び出してごめんなさい。」



本題に入る前に謝罪したことで、

率先して近藤誠治が問い掛けてくる。



「それは構いませんが、緊急召集とは何かあったのですか?」



まあ、当然気になるわよね。



すでに魔術師ギルドには出兵命令が出ているはずだけど。


学園には私が伝えるつもりでいたから、

報告が後回しになっていたのよ。



そのせいで学園や研究所の通常業務を全て中断させて呼び出してるわけだから、

会議の内容を気にするのは当然だと思うわ。



だからその問い掛けに対して、

迷うことなく事実を告げることから始めることにしたの。



「いよいよ始まるのよ。アストリアとの全面戦争がね。」


「何ですとっ!?」



私の発言によって動揺する近藤誠治。


その驚愕はこの場に集まる全員が同じようで誰もが驚き戸惑っているわ。



「突然どういうことだ!?一体、何があった!?」



慌てて問い詰めてくる大悟に、大会での話を伝える。



「向こうから宣戦布告があったのよ。全ての魔術師を殺さなければ軍を率いて攻め込むってね。」


「何を馬鹿なことをっ!!そんな戦いに何の意味がある!?何故、和平を受け入れない!?」



激昂げっこうしているけれど。


大悟も理解しているはずよ。



戦争の意味と魔術師狩りの理由を、ね。


それでも納得は出来なかった様子ね。



理解はしても納得は出来ない感じかしら?



どういう事情があるにしても、

殺しあう必要なんてないはずだから。



共存する方法を考えることにこそ意味があると考えていたでしょうし。


その考えは私もお父さんも同じなのよ。



だけどね?



現実は最悪の展開に進みつつあるの。



「戦争は止められないのか!?」



無理よ。


もう手遅れなの。



「この戦争は誰にも止められないわ。」



それにね。



「すでに共和国の各地で戦争の準備が進んでいるわ。魔術師ギルドに所属する魔術師達も父さんの手筈ですでにマールグリナに向かっているし、この学園もいずれ戦争に参加することになるでしょうね。」



いずれ、というか、数日中の話だと思うけど。


大規模な軍事活動が確実に行われるでしょうね。



「子供達まで戦争に参加させるのですか?」



生徒達を心配する近藤誠治だけど、

参加させないと言い切れる状況ではないのよ。



「戦力が必要なのよ。強制はしないけれど戦う意思があるのなら手を借りるべきだわ。」



この国の為に。


そして全ての魔術師の為にね。



「………。」



私の判断を否定する者は一人もいなかったわ。



子供達を守りたいと思う気持ちはあっても、

戦争という現実の前では勝敗だけが全ての運命を変えてしまうからよ。



負ければ国だけでなくて、

全ての魔術師とその家族までもが命を失うことになるの。



この国の未来を守る為には一人でも多くの戦力が必要なのよ。



「どうするつもりですか?」



今後の方針を尋ねる近藤誠治に、

暫定的な方針を説明しておく。



「まずはこの町全体から志願者を募るわ。ジェノスは父さんの指揮下で海軍と行動することになると思う。おそらく、海域の死守が最優先になるでしょうね。」



たぶん、そうなると思う。



断定はできないけれど。


間違ってはいないと思うわ。



色々と時間が足りなくて父さんと作戦に関しての確認が出来なかったけれど。


きっとそうなると思ってる。



ちょっぴり言い訳になるけどね。



突然の緊急事態のせいで、

話し合うどころじゃなかったのよ。



考えなければならないことが山のようにあって、

そこまで時間を割く暇がなかったの。



だから憶測で話を進めることにしたわ。



「共和国の全船団を率いての海上戦になるでしょうね。ジェノスはこの国の守りを固める為に必要な部隊になると思うわ。文字通り敗北は海の藻屑を意味する戦いだけど。絶対に負ける訳にはいかないのよ。」



もしも海戦で負ければ海に逃げることもできなくなるし。


他国に派遣している魔術師ギルドの魔術師達も共和国に入ることができなくなるからよ。



その上、海産資源まで失ってしまえば食料の自給率まで下がってしまうでしょうね。



ただでさえ僻地と言える辺境の小国なのよ?



食料の確保が出来なくなってしまえば、

どれほどの戦力を集めても戦う前に餓死してしまうわ。



「後方の憂いを断つという意味でも海域の防衛は戦争に勝つために必要な一手なのよ」



方針を宣言したことで、近藤誠治が頷いてくれる。



「もちろん異論はありません。ジェノスの立場や立地条件などを考えれば遠方の戦地に赴くよりも後方支援が良策だとは思います。ですので徴兵は構いませんが、今からすぐに行うのですか?」


「さすがに今日は遅いけれど、明日の朝一番に実行出来るように準備を進める必要はあるでしょうね。」


「戦争であることを、その情報を公開してよろしいのですね?」



ええ、そうよ。



これはもうこの国の未来を左右する事態なの。



混乱がどうとか言っている場合じゃないわ。



「真実を公表して一人でも多くの戦力をかき集めること。それが最優先よ」


「分かりました。その方向で手配致します」



さしあたって必要な方針を決めたことで、

近藤誠治は一歩下がったわ。



「で、他に質問はある?」



尋ねてみると。


今度は大悟が尋ねてきたわ。



「現在の状況はどうなっているんだ?」



状況?


最悪としか言いようがないわね。



「マールグリナの北に位置する国境にアストリアの砦が建造されてしまったらしいわ。」



すでに向こうは軍を用意して、

いつでも攻め込める準備を整えているそうよ。



「マールグリナからの情報提供によれば10万の大部隊よ。」



そこまで用意してる以上。


ちょっとやそっとのことでは引き下がってくれないでしょうね。



「そのうえ、北西のミッドガルムと西のセルビナの両国が連合を組む可能性もあるわ。」



もしもそうなれば敵の総数は百数十万の大軍勢。



対するこちらの戦力は必死に集めても二十万が限度。



数では圧倒的に負けているわね。



「勝算は?」



あれば苦労はしないわよ。



「十中八九、負ける戦いでしょうね」



それでも私達は諦めるわけにはいかないの。


この国を滅ぼすわけにはいかないからよ。



正直に話す私の発言によって重苦しい空気が室内を広がっていくけれど。


この状況で楽観的な意見を言えるほど余裕を見せていられる立場じゃないわ。



勝って得られるモノなんて何もないし、

負ければ全てを失う絶望的な戦いだけれど。



「それでも私達は立ち向かわなければいけないのよ。私達『魔術師』の存在にかけてね」



敗北は全滅を意味するの。



各国で行われている魔術師狩りを見ればその結末は考えるまでもないわよね?



この戦争で負けることは単に共和国の滅亡という話じゃなくて、

全ての国民の死を意味するのよ。



「どれほどの仲間を失うことになったとしても最後まで戦うしかないのよ。」



力強く宣言することで、

誰もが一様に揃って頷いてくれたわ。



逃げ出そうと思う者は一人もいないでしょうね。



そもそも逃げる場所なんてどこにもないんだから戦うしかないのよ。



この国を捨てて逃亡したとしても、

どこに行っても安息なんてないわ。



共和国だけが唯一の楽園で、

魔術師にとっての最後の希望なの。



この国を失う事は全ての魔術師の絶望を意味するのよ。



例え命を危険にさらすことになったとしても、

戦争に立ち向かって生き残ることが最も確率の高い生存方法だって誰もが理解しているはずなの。



「生き残るために戦うわよ。」



まだ終わったわけじゃないから、

諦めるのはまだ早いわ。



「この戦争さえ乗り切れれば、和平の交渉だってできるようになるかもしれないしね。」



そう信じて立ち向かうしかないのよ。



「だから今は、みんなの力を貸して」



頼るべき仲間達に願いを込めると、

みんな真剣な表情で頷いてくれたわ。



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