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THE WORLD  作者: SEASONS
4月4日
71/185

責務

《サイド:天城総魔》



周囲に集まる者達は誰もが俺の敗北を予想してるようだな。



だが、周りがどう思うとしても気にするつもりはない。


自ら望んだ試合を勝ち抜けるために試合場に向かって進むだけだ。



そうして無言で歩いていたのだが、

会場内を見て気づいたことがある。



…試合場がさらに大きくなっているな。



会場そのものが大きかった理由がここにある。


これまでの試合場よりもさらに広がっているのが一目で分かった。



…およそ100メートルといったところか。



直径100メートルの円形の試合場。


中心線は同じだが、

それぞれの立ち位置となる文様の位置は大きく離れている。


自陣の開始線と相手の開始線はそれぞれの区画の中心になるわけだが、

試合場自体が広くなっているために両者の距離は50メートルになっているようだ。


初期の試合場と比べると倍以上の大きさになっているわけだが、

それだけこの会場で使用される魔術が大規模になっているという証だろう。



…これだけの広さがあれば。



対戦相手が5人でも手狭には感じないかもしれない。



もちろん範囲が広がったことによって魔剣で相手を斬りに行く距離も伸びるわけだが、

今後の試合も考えるとすれば立ち回りを考えるいい機会になるだろう。



距離が利点となるのか?


それとも欠点となるのか?



遠距離、中距離、近距離。


それぞれの戦い方を考えるべきだろうな。



…翔子と北条がどんな能力を持っているか知らないが。



二人ともこの試合場には慣れているだろうからな。


広い試合場を上手く立ち回れるように練習しておかなければ、

接近する前に一方的に攻撃されてしまうかもしれない。



…今回の試合では距離感に慣れておくことも重要になるだろうな。



今後の試合も想定しながら開始線に立つ。



そうして試合場に集まる対戦相手達に視線を向けたところで、

今回も北条が審判員として出てきた。



「この試合も俺が審判をやってやるよ」



物好きな男だな。


あるいは世話好きとでも言うべきか?



翔子とは考えが違うようだが、

何だかんだで協力的な人物には思える。



「巻き込まれても構わないなら好きにすればいい」


「ははっ。そんなドジはしねえよ。それに、頭の固い連中に審判は務まらねえだろ?」



…確かに。



それはそうかもしれないな。


すでに係員達も試合の結果を予測しているだろう。


この試合は無謀でしかなく、

5人の生徒達が勝つに決まっていると考えて不思議ではない。



そんな係員達に審判を任せれば些細な出来事によって強制的に試合を中断させられる可能性もある。



…結果が出る前に判定で敗北では困るな。



最後まで試合を終わらせるためには北条に間に入ってもらうのが得策だろう。



「判断は任せる。」


「おう、きっちり見届けてやるよ」



あっさりと引き受けてくれた北条が笑顔を見せる。


一見すると、仲良く見えるかもしれない会話だが、

実際には友情などかけらも存在していない。


北条の目的は監視であり、

俺の人間性を確かめるために動いているだけだからな。



俺にしても効率よく試合を進めるために北条を利用している立場だ。



互いに打算で動いているのが実情といえるのだが、

周りの連中はそうは思わなかったかもしれない。


会話を行う様子を不思議そうに見ていた5人の生徒達は俺達に交互に視線を向けながら後に続くように試合場に入っていく。



現在の状況もそうだが北条との関係性に疑問を感じているようだ。



とはいえ、こちらから説明することは何もない。


北条もわざわざ話をするつもりはないようだ。


むしろ困惑する生徒達を眺めて楽しんでいるように思える。



…意地が悪いな。



不意にそんなことを思ってしまったが、

ここで試合に負けてしまえば北条の面目も丸つぶれになってしまう。



それはそれで北条がどういう態度を見せるのか興味はあるが、

そんなくだらない理由でわざと負けるのは面白くない。


全力で戦って負けるならともかく、

北条を困らせるためだけに負けるという選択肢は考えるだけ時間の無駄だ。



勝ち上がるために試合を望んだのだから。


本来の目的を優先するべきだ。



「布陣はそちらの判断に任せる。自由にしろ。」


「だそうだ。桃花、お前が指示を出せ」


「………。」



俺の発言を引き継いだ北条が指示を出すと、

指名された生徒は一瞬だけ何かを考えてから率先して仲間達に指示を出していった。



その結果。


5人の生徒達がそれぞれ適当な位置についたところで北条が試合場の中心に立った。



「せっかくお膳立てしてやったんだ。ぐだぐだ言うだけ時間の無駄だからな。とっと始めるぜ!」



各生徒達の不満や疑問を全て遮って右手を振り上げる。



「文句はあとで聞いてやる!まあ、言えるだけの元気があればだけどな!」



問答無用で試合を推し進め、

振り上げた右手を一気に振り下ろす。



「試合、始め!!」



掛け声と共に始まった試合。


開始の合図の直後に今回も試合場を駆け抜ける。



…突撃と同時に魔力を収束させる。



先ほどと同じように右手に魔剣を出現させた。



だから、だろう。



「「「「「!?」」」」」



5人の生徒達の表情が一気に変わったのがはっきりとわかった。



…やはり予想していなかったのだろうな。



無名の生徒がルーンを発動したことに驚いている。



…とは言え。



さすがは学園最上位というべきだろうか。


彼等は恐慌状態に陥る事なく、

すぐに意識を切り替えて動き出した。



「接近される前に沈めるぞ!!」


「ルーンに気をつけろ!!」


「男子は攻撃担当!!女子は補助!!良いわね!!」


「「「了解!」」」



先程の試合とは全く違う。


連携の採れた動きで次々と詠唱を行う生徒達。


彼らの手から次々に魔術が展開されていく。



「足元を狙うぞ!!!」



攻撃を担当する3人の男子生徒が攻撃魔術を断続的に放つ。


その隙間を縫うように、

二人の女子生徒が防御結界を展開する。



「シールド!!!」



二人同時に展開された結界が展開された。


だがそれは彼女達自身を守るためではない。


そしてそれは3人の男子生徒を守るためでもなかった。



…ちっ!



結界が発動したのは俺の直近だ。


前方に向かって駆ける俺の左右に結界を生み出していた。



…妨害か!



防御結界は物理的にも行動を阻害する効果を持っている。


それほど強固ではないが、

殴りかかった程度ではビクともしない防御力はあるからだ。


そのせいで左右へ移動するという選択肢が絶たれてしまった。



前進か後退か。


どちらかしか選べない。



魔剣で結界を斬るという選択肢は却下だ。


それでは他の魔術に対する対応が遅れてしまう。



男子生徒達の放った魔術も足元を狙って迫っている。


そちらの対応を急がなくてはならない。



「アイシクル・フィールド!!」


「ライトニング・バースト!!!」


「メガ・ウイン!!!」



一人目の生徒が生み出したのは広範囲凍結魔術だ。


試合場についた両手から冷気が溢れ出して試合場を次々と凍結させていく。


その上を滑るように駆け巡る雷撃が追い討ちをかけようとする中で、

最後に放たれた暴風が頭上から試合場に向かって落ちてくる。



…くっ!



頭上も抑えられたか。


左右を阻まれた状況で上に逃げることもできない。


そして前方からは冷気と雷撃が迫っている。


個人戦一辺倒では考えられない連携だった。



複数戦闘を考慮していたかのような連携攻撃によってこちらの行動は完全に封じられてしまっている。



…ここで後退すれば別の魔術が飛んでくるだろう。



何の考えもなく退路が用意されているとは思えない。



おそらく後退した瞬間に何らかの攻撃を受けることになるはずだ。



…後方は罠だ。



だとすれば残された手段は限られている。



シールドを展開して耐え凌ぐのは簡単が、

それでは面白くない。


あからさまな罠に飛び込んでみるのも一つの手段ではあるが、

どうせ魔術に襲われるのなら前進したほうが次の行動に移りやすい。



…前に進む方法はすでにある。



後退はしない。



…全ての魔術を切り裂くまでだ!



試合場に魔剣を突き立てて迫り来る冷気と雷撃を分断する。


そして切り上げた刃で暴風を消滅させる。



一連の行動を終了させるのに2秒とかからなかった。


まだ左右を阻まれてはいるが、

僅かな時間で3つの魔術を破壊した。


直後に再び前方へと駆け出す。



「思う存分、魔術を放てばいい」


「くっ!バケモノかっ!!」



先程とは違う危機感を感じながらも前進すると、

男子生徒の一人が怯んで後ずさる姿が見えた。



俺の接近を避けるために後退する男子生徒だが、

陣形が崩れることを悟った一人の女子生徒が怯むことなく前に出てきた。



「今のは時間差を利用されただけよ!!今度は各方面から一斉に追い込むわよ!!」



指示を出しているのは生徒番号27番の女子生徒だ。


さきほど北条からも指名を受けていた矢野百花という名の生徒が率先して指揮を執っている。



「恵理子は足止め!!亮太は前方!!力と進は左右から挟撃!!良いわね!?」


「任せてっ!!」


「しゃあない!!やるぞっ!!」


「おう!!」


「っしゃああ!!!」



桃花の指示を受けて4人の生徒達が動き出す。


一度は逃げ腰になった新谷力も再び攻勢に出るつもりのようだ。



…なかなかの統率力だな。



おそらく彼女が司令塔として連携が行われているのだろう。



つまり、桃花を沈めれば残りは烏合の衆ということになる。



…指揮官から沈めるか?



だが、それでは面白くないとも思う。



万全な状態の敵を制するからこそ戦うことに意味がある。


敵の弱点を突くのは戦闘において当然の判断だが、

敵の得意分野を潰してこそ勝利に価値が出るのも事実だ。



…今回は真っ向から叩き潰すべきだな。



司令塔は最後に叩くと決めて一気に加速する。


そして試合場を駆ける。



もちろんこちらの動きを止めるために放たれる魔術は無視できない。


各方面から一斉に降り注ぐ強力な魔術。


全方位から迫る魔術を魔剣で次々と切り裂きながら目標の生徒に迫る。



「まずはお前からだ!」



突撃の勢いのまま振り下ろす魔剣。


迫る刃を見つめる彼方進の顔が青ざめていく。



「く、くそぉっ!!」



全力で逃げようとしているが、

その行動は既に遅い。


すでに魔剣の刃から逃れられない距離だ。



前後左右から降り注ぐ魔術を避け続け。


瞬く間に彼方を捉えた魔剣は一撃で彼方の魔力を破壊し尽くした。



まずは一人目。



残りは4人。



まだまだ油断できる状況ではないが、

包囲網の一角が崩れたことで連携が弱まった。



これで背後に回りこまれる危険性が下がったことになる。



…次はどこを攻めるかだが。



ざっと見渡してみると。


残る二人の男子生徒が布陣を変えて左右に回り込もうとしている姿が確認できた。



そして指揮官である桃花が前方に立ちはだかり、

その背後に援護役の恵理子が控えるように配置を変えている。



…一人欠けてもすぐに対応してくるのか。



その判断力は今までの生徒達とは格が違う。



だが、それは桃花だけだ。



左右に布陣する男子生徒や後方で待機する女子生徒はそれほど驚異的な存在だとは思えない。



矢野桃花という少女だけが、

他の生徒達とは異質な存在に思える。



…さすがは27番というべきか?



他の生徒達も悪くはないだろう。


魔術の精度も魔術師としての実力も十分と言えるはずだ。



だが、状況判断において桃花は他の生徒達を凌駕している。



…指揮能力だけで見れば間違いなく強者だ。



状況の分析と的確な判断。


個々の能力を把握した上での指示と戦術を理解した布陣。


単なる試合ではない真の戦闘においての実力が垣間見える。



…ようやくまともな相手が出てきたと思うべきか?



27番でこの実力だとすれば、

桃花の上にいる生徒達はどれほどの実力を持っているのだろうか?


目の前に立ちふさがる強敵の実力を認めることで、

その上に対する興味が膨らんでいく。



「状況が見えている。良い判断だな」



思ったことを素直に言ってみたのだが、

それが余裕と思われたのだろうか。


桃花の表情が一段と険しくなった。



「どういうつもりで試合を挑んできたのか知らないけれど、私が担う『責務』にかけて必ず貴方を制してみせるわ!」



…責務だと?



どういう意味だろうか?


桃花は何を担っているのだろうか?


何を意味するのかがわからない。


だが、単なる試合による勝敗ではない何かを感じさせる言葉に思えた。



「お前も何らかの役目を持っているのか?」



確信があったわけではないのだが。


明らかに他の生徒達とは異なる雰囲気を持つ桃花を見て、

翔子や北条と同じような何らかの役目を持っているのではないかと思った。


だからその役目がなんなのかを問いかけてみたのだが。



「………。」



桃花は俺から視線を逸らして、

何故か北条を睨みつけていた。




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