効率と現実
《サイド:鈴置美春》
…はあああああああ。
どうしてなの?
どうして別々に来るの?
一緒に来てくれれば、
一回の調合で終わるのに。
どうして別々に来ちゃったの?
薬剤の出し入れはともかく、
器材の準備と片付けって結構面倒くさいのよ?
中途半端に薬品が残っちゃうと次の調合の時に困るから徹底的に洗浄して殺菌までしてから片付ける必要があるの。
だから出来ることなら一回の調合で人数分揃えたほうが圧倒的に効率が良いのよ。
それなのに。
何故か翔子達はバラバラに来ちゃったのよ。
…はふぅ。
自然とため息が出てしまうわね。
全く同じ作業を何度も繰り返すのって地味に嫌がらせに思えるからよ。
…まあ、翔子達にそんなつもりはないでしょうけど。
とりあえず必要な薬は分かってるから症状なんて聞くまでもないわ。
見ただけで御堂先輩の状況は理解できるし。
流れ的に答えは出ちゃってるからよ。
だから話も聞かずに調合を開始したの。
薬剤を集めて。
分量を計って。
器材で混ぜ合わせる。
一言で言ってしまうと単純な作業だけど。
ただただ混ぜればそれで良いっていうものじゃないから、それなりに気を使う作業なのよ。
それでも連続で作成してるから難しいとは思わないわ。
むしろ面倒くさく感じるだけね。
だから3回目はあっという間に出来上がったのよ。
「出来ました。」
完成した薬を御堂先輩に手渡す。
もちろん、お水も一緒よ。
すっっっっごく苦いはずの薬だけど。
御堂先輩は文句一つ言わずに、
大人しく薬を飲みきってくれたわ。
「少し休めば落ち着くはずです。」
「ありがとう。」
「いえいえ、しばらくここで安静にしててください。」
「ああ、わかったよ。」
「何かあればまた呼んでください。」
ベッドで横になる御堂先輩から離れて今度こそ器材を片付ける。
まずは器材を丁寧に掃除して。
作業台も綺麗に整頓して。
洗浄と殺菌まで終えて。
全てを所定の位置まで戻し終えて。
ようやく席につける…と思った直後にね。
4度目の扉が開かれたのよ。
「失礼します。」
少し急ぐ雰囲気で医務室に入ってきたのは同じ救急班の一員だったわ。
見覚えがある、というよりは知り合いね。
特別仲が良いっていうほどでもないけれど。
仕事上、一緒に行動することもある男子生徒よ。
まあ、主に試合場で倒れた生徒を搬送するための運搬要員って感じね。
名前は…何だったかしら?
小暮君?そんな感じ。
今年入学したばかりの新入生だから今はまだそれほど目立った活躍はないし。
私も名前をうろ覚えだったりするわ。
一応、私と同じ救急班なんだけど。
数日前に配属されたばかりだから、
見習いという名の使いっぱしりで忙しい子なのよ。
…今日はどんな仕事をしてるのかしら?
とりあえずは病人じゃないから私が対応する必要はないわ。
新人の教育係で私の一つ下の後輩でもある野坂瑞希ちゃんが小暮君から話を聞こうとしてたんだけど。
何故か彼の方から私に歩み寄ってきたのよ。
「お仕事中にすみません。先輩にお願いがあるんですけど…。」
「ん…?私?瑞希ちゃんじゃなくて?」
「あ、はい。そうです。理事長の指示で酔い止めの薬を貰いに…。」
…あ~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
…うん。
そういうことね?
言いたいことは、よ〜〜〜くわかったわ。
だとしたら私の出番よね?
瑞希ちゃんはまだ薬剤師としては見習いだから、
私に相談に来る理由は理解できるわ。
でもね?
それでもね?
どうしてもね!?
言いたいことが一つだけあるの!!
小暮君が用件を言い切るよりも先に、
私の忍耐力が限界を突き抜けてしまったからよ。
「だったら一回で言ってよ!!もうっ!!!!」
全力で激怒する私を見て小暮君は驚いていたわ。
まあ、当然よね。
小暮君は今までの状況を知らないわけだし、
驚くのは仕方ないと思うのよ。
だけどね?
突然、怒り出した私の様子を眺めてた校医の先生は苦笑してる。
もちろんずっと一緒にいた瑞希ちゃんもそう。
他にも同僚はいるんだけど。
みんな似たような心境だったと思うわ。
器材の片付けがどれだけ面倒かなんて、
みんな嫌っていうくらい知ってるからよ。
だから、かな?
「あの、先輩…今回は私がやりましょうか?ずっと隣で見てましたので、手順はわかりますし。」
私に気を使ってくれたんでしょうね。
瑞希ちゃんが志願してくれたのよ。
「あ~…うん。そうね。瑞希ちゃんも練習したほうが良いでしょうし。お願いするわ。」
「はい!任せてください。」
…ということで。
4度目の調合は瑞希ちゃんが担当することになったのよ。




