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THE WORLD  作者: SEASONS
4月15日
706/1254

神対応

《サイド:美袋翔子》



…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜。



気持ち悪いぃぃぃぃぃ…。



もう吐きそうぅぅぅぅ。



…って言うか。



いっそ吐いて楽になりたいぃぃぃぃぃ…。



…保健室にね。


…たどり着くまでにね。



何度もお手洗いが見えたせいで駆け込もうかなって思ったのよ。



でもね?


だけどね?



もしもそっちに行っちゃったら。


しばらく動けなくなりそうな予感がするから。


我慢して通り過ぎることにしたのよ。



たぶんだけどね。


そのままそこで力尽きると思ったのよ。



嘔吐物まみれで意識を失うとか嫌すぎるわ。



その状況で目覚めるのも嫌すぎるけど。


その状況を誰かに発見されて救急搬送されるのも地獄でしかないのよ。



だからどうしようもない絶望的な気持ち悪さを感じながらも、

必死に医務室に向かうことにしたの。



…で。



普段なら数分で到着できるはずの医務室に、

10分以上の時間をかけてようやくたどり着いたのよ。



震える…と言うか、

痺れる手で医務室の扉を開けてみる。



もうね?


まっすぐ前を向く気力さえなかったんだけどね。



医務室の中に入るまでもなく、

入口付近に知り合いの姿が見えたのよ。



「み…は…る…ぅ…。たす…けて…ぇぇぇ。」



鈴置美春がいたの。


たぶん休憩してたのかな?



「え…?あれ?」



美春も私に気付いて駆け寄ってきてくれたのよ。



「翔子じゃない!もう帰ってきたの?大会はどうだった!?」



そんなに次々と聞かれてもね。



悪いけど答える気力なんて残ってないのよ。



今はね。


笑顔で対応してくれる美春の声ですら頭痛を感じてしまう状況なの。



だから今は青ざめた表情のままで必死に頼み込んでみたわ。



「ご…ごめん…美春。薬…薬を…頂戴…っ。」



今はそれが精一杯だったのよ。



たったそれだけの言葉なのに。


声を出したというだけで、

気持ち悪さが加速度的に増していくの。



…うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。



…もう無理ぃぃ。



本気で吐くぅぅぅぅぅ。



人前とかそんなことを気にしてられない状況まできちゃってるのよ。



せっかくここまでたどり着いたのに。


体はもうすでに限界を超えていたわ。



「お、お願い…早く…ぅぅぅ。」



早くくれないとね。


美春の前で吐いちゃうわよ?



…と言うか。



ぶっかけちゃうかも?



「いや…えっと、あのね?早くって言われても、何の薬が欲しいのか分からないのに用意なんて出来ないのよ?」



…あ、あぁぁ。


…それも、そうよね。



あまりにも気持ち悪すぎて、

事情を説明することさえ忘れてたわ。



「あ、あれよ…。馬車に揺られて…ね。酔って…吐きそ…なの。何でも、良いから…お願い…。」


「…あ~うん。そういうことね。」



消え去りそうな気力を振り絞って精一杯訴えてみたことで、

状況を察してくれた美春が慌てて動き出してくれたわ。



「ちょっとこっちで待っててね!」



私を椅子に座らせてから、

大急ぎで薬棚から数種類の薬を取り出していったのよ。


そして、調合用の機材に手を伸ばしたの。



「先生!確か酔い止め関係って、これで良いんですよね?」



処方箋しょほうせんを確認する美春に、

保健室勤務の医師が頷いてから答えていたわ。



「ああ、それであってるよ。調合の分量は分かるかな?」


「もちろんです!」



自信を持って答えた美春は手早く薬を調合していくのよ。



…うわぁ。



慣れた手つきね。



私には薬剤の知識なんて何もないけど。


美春が凄いことをしてるのは何となくわかるわ。



…薬の調合って、分量とか手順とかが色々と難しそうなのよね~。



見てるだけだとよくわからないし。


単に複数の粉を混ぜてるようにしか見えないのよ。


だけど実際に真似をしようと思っても簡単にはできないと思うわ。



やっぱり知識は大事なのよ。


何事も経験を積み重ねないと上手くは出来ないの。



…なんて。



そんなことを考えながらも美春の調合を眺めていたら、

一通りの作業を終えた美春が出来上がったばかりの薬を小皿に取り分けてくれたわ。



「出来たわよ~!」



笑顔で歩み寄ってくる美春が私の手を取って歩き出す。


一旦ベッドまで案内してくれるみたいね。



「それじゃあ、ここに座って。」


「…う、うん。」



歩く気力さえ尽きかけそうな私を空いているベッドまで誘導してくれたわ。



こうして実際に働いてる姿を見ると、

お世辞抜きで白衣の天使に見えるわね。



服装は白衣じゃなくて制服だけど。


それでも私を介護してくれる手つきは本職顔負けだと思うのよ。



「ありがと…美春。」


「ふふっ。お礼なんて別にいいわよ。これが私の仕事だから。」



…うわぁ。



笑顔で接してくれる美春の優しさが嬉しすぎるわ。



病んでる時に優しくされるのって、

こんなにも癒されるのね~。



「美春…優し…。」


「ん?馬鹿言ってないで、ゆっくりでいいから深呼吸して。うんうん、そんな感じ。」



…うっわぁ~。



微笑みながら看護してくれる美春の笑顔がすごく眩しく見えるわ。



これはもう惚れちゃうよね?


一発で恋に落ちるやつよね?



何この子?


天使なの?



女神様なの?


聖女様なの?



私が男の子ならもうね。


一生、美春についていく自信があるわ。



崇めて。


拝んで。


信仰しちゃうくらい輝いて見えたのよ。



まあ、単に知り合いだからかもしれないけどね。


美春の優しさが心にしみたのよ。



病んでる時のこの対応は天使にしか思えないわ。



お手洗いに向かわずにこっちに来てよかったって心から思える瞬間だったのよ。



「ありがとう。」


「だから言ってるでしょ?これが私の仕事なのよ。って、それよりも薬だけど、飲める?粉のままの方が効果があるんだけど、水に溶かす?それともこのまま飲んでみる?」



…えっと。



私は素人だから専門家の意見に従うべきよね?


天使様が言うのなら、

水なしでだって飲んでみせるわ。



「美春の判断に任せる…。」


「そう?それじゃあ、このまま飲んだほうがいいわね。ちょっと口の中に苦味が残るかもしれないけど、苦味で気持ち悪さが薄れると思うから頑張って飲んでみて。」


「…う、うん。」



美春の指示に従うことにしたわ。



味がどうこうなんてね。


正直どうでもいいからよ。



どうせ味覚も死んでると思うし。


吐き気が収まるのならそれでいいの。



「はい、どうぞ。」


「…ありがと。」



差し出された粉薬と、

コップに入った水を受け取る。



そしてゆっくりと薬を飲み込んでみる。



…って!?



ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?



にぃぃぃぃぃがぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃ!!!



…な、何これっ!?



後味が消えないってどういうこと!?



味覚も死んでるはずなのに?



何なのこれ!?


ひたすら苦すぎるわ!!



水を飲んでも全然変わらないのよ!?



何よこれ~っ!!


美春の嘘つき~〜〜〜〜!!



これって、ちょっとどころじゃないわよね!?



思いっきり苦いよねっ!?



こんなの飲んだら泣いちゃうわよ?



…って言うか、もう泣いてるわよ!?



涙が止まらないじゃない!!



「に、苦すぎる…ぅぅぅ。」


「ふふっ。」



あまりの苦さに呻いてしまったわ。


そんな私の様子を見ていた美春は微笑んでる。



笑顔は素敵なのに。


今は悪魔に見えたわ。



「良い薬は苦いって遥か昔から決まっているのよ。だから文句を言わずに飲みなさい。」


「…ぅぁぁぁぁぁぁ…。」



笑顔で迫られたことで残りの薬も飲み込むことになってしまったわ。



…あぅぅぅぅぅ。



口の中一杯に広がる苦味が絶望的な後味の悪さを残してくれてるのに。


残りも飲まなきゃダメみたい。



…これはちょっと酷くない?



ある意味、拷問よね?



お茶の葉っぱを直接噛み締めてる感じ?



…ううん。



もっと苦いかも。



…何て言えば良いのかな?



あらゆる薬品の苦味成分だけを煮詰めて作りました、っていう感じなのよ。



そのおかげかどうかは知らないけれど。


確かに吐き気は薄れたと思うわ。



即効性という意味ではかなりの効果があったのかもしれないわね。



…でもね?


…そうは言ってもね?



水で流しきれない粉が口の中に残ってしまうせいで絶望的な気分に陥ってしまうのよ。



「お…お願い…美春。お水の、お代わり…ちょうだい…。」



それが精一杯の言葉だったわ。



「ったく、もう~。しょうがないわね~。」



美春はブツブツと愚痴りながらも水を汲んで差し出してくれたわ。


何だかんだ言いながらもね。


行動は天使様なのよ。



「ほら、これで良い?」


「あ…うん。」



ゴクゴクっと勢いよく水を飲んでみる。



だけどね。


口の中の苦さは消えないわ。



少しは薄れた気がするけれど?


ホンの少し?


変わったかも?



………。



気のせいだった気がするわ。


根本的に何も変わらないのよ。



それでもね。


ほとんどの薬は水で流れたと思う。



苦味は絶望的なくらい残ったままだけどね。


そのうちなくなると思うのよ。



「…ありがとう、美春。」


「どう致しまして。とりあえずはこのままここで横になっていればいいわ。私もまだしばらくは医務室にいるから、何かあったらすぐに呼んでね。」


「う、うん。ごめんね…。」


「ふふっ。しおらしい翔子は可愛いわね。」



…あう。



やっぱりそういうふうに見えるのかな?



「まあ、普段の翔子も好きだけどね。」



…うあ。



そんなふうに言われたら照れるじゃない。



なんて思うけれど。


まだまだ体調が悪いせいで上手く返事が出来なかったわ。



「まずは安静にするように。良いわね?」


「うん…。」


「ふふっ。」



素直に指示に従う私を見て、

美春は笑顔で離れていったわ。


本当は聞きたいことが沢山あったと思うけどね。



そんな雰囲気は感じてたけど。


今は私に気を使ってそっとしておいてくれるみたい。



ホントに良い子なのよ。


ここにいる時の美春って優し過ぎるわ。



なんだか最近は凄くお世話になってる気がするのよ。



「…はふぅ~。」



美春に感謝しながらベッドに体を預けてみる。



あんまり柔らかくない布団だけど。


馬車にいるよりはましね。



とりあえずはまあ、

横になれただけで少しは気が楽になったかな?



だけど今日はもう…疲れたわ。



ここにくるまでに気力を使い果たした感じなのよ。



…もう動けないし。


…動きたくもないわ。



何もしたくなくて。


静かに目を閉じてみる。



これって薬の効果なのかな?


急激に眠くなってきたのよ。



「眠い…。」



たぶん、数秒で眠れるかも?なんて思いながら呟いてみると。



「…すみません。失礼します…。」



私の声を遮るかのように、

再び医務室の扉が開かれたのよ。



…んん~?



今の声って、あれよね?


丁寧に挨拶をしてる人物は聞き覚えのある声だったのよ。



…って言うか。



状況的に考えて、

こうなるのは当然なのかな?



医務室に来たのが誰かなんて、

確認するまでもなく理解できるからよ。



私に続いて医務室に来たのは沙織ね。



たぶん沙織も馬車に酔ってたから、

薬を貰いに来たんだと思うわ。



私と同じように苦しんでる様子の沙織に気付いて、

再び美春が対応に向かったようね。



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