それだけ
《サイド:美袋翔子》
「えっと、その…。テーブルの上に置いてあったんですけど…」
あ~、なるほどね。
優奈ちゃんが回収してくれたのね。
差し出された鞄を受けとってから、
迷わず鞄の中を覗き込んでみる。
……うん。
みごとに何もないわね。
「これって本当に着替えだけじゃない?」
確認できたのは予備の制服と着替え用の服だけだったわ。
本当にね。
他には何もなかったのよ。
…うわぁ~。
ここまで何もないと寂しすぎるわね。
ちょっとくらい私物が入っててもいいと思うんだけど。
総魔の趣味が感じられるような物は何もなかったわ。
ただ…ね。
鞄の中を漁る私の手が何かに触れた気がしたのよ。
…ん~?
小さな塊…かな?
片手で掴めてしまう程度の大きさね。
取り出してみないと何か分からないはずだけど。
それが何なのかは考える前に理解できたわ。
これって、アレよね?
原始の瞳よね?
取り出してみると。
やっぱり見覚えのある水晶玉だったわ。
見慣れた水晶玉を手の上で転がしてみる。
だけど以前とは違って何の反応も示さなかったのよ。
「これってもう潜在能力はないってことよね?」
自分で解釈して納得してみる。
指輪の封印も解除して、
完全に融合を使いこなせるようになったんだから当然の結果よね?
私が持っても水晶が光ることはなかったわ。
「何て言うか…改めて思うわね。ついこの間まで自分の特性さえ分からなかったのよ?そんな私が今はこうしてここにいることが…すっごく不思議な気がするわ。」
「あ…はい。そうですね。」
私の呟きに、優奈ちゃんが頷いてくれてる。
「私も同じです。総魔さんと出会うまでは自分の力が何か分からずに、ただただ悩んでいただけでしたので…。」
それってホンの1週間前の出来事よね。
それなのに。
私達はとても遠い昔の出来事のように感じてしまっているのよ。
実力はあっても自分の特性を理解していなかった私と優奈ちゃん。
私達は総魔と出会ったことで、
自分の能力を知るきっかけを得たの。
だから私達にとって、
総魔の存在は他の誰にも変えられないかけがえのない存在なのよ。
「とりあえずこの荷物は預かっておくとして、総魔を見つけたら全力で投げ返すわよ!」
宣言する私を見ていた優奈ちゃんは苦笑いを浮かべてる。
どうあっても暴力的な解決は遠慮します、って感じね。
まあ、私としても総魔を殴りたいわけじゃないんだけどね~。
「とりあえず優奈ちゃんも荷物を回収してきたら?」
「あ、はい。取ってきますね。」
優奈ちゃんも自分の個室へと向かっていったわ。
残された私の手には総魔の鞄と小さな水晶玉があるだけ。
たったそれだけなのよ。
総魔の残した思い出は、
たった『それだけ』だったの。




