第1検定試験会場
結局、北条と共に行動したまま第1検定試験会場にたどり着いてしまった。
…まあ、いい。
気にはなるが、邪魔と言うほどではないからな。
ひとまず北条の同行は無視して最後の会場に視線を向けてみる。
基本的な形状はこれまでと同じだ。
だがこれまでとは違って一際大きな会場だった。
規模だけを見れば今までと比べて軽く2倍はあるだろう。
たった99人の生徒しか在籍していないにもかかわらず。
飛び抜けて巨大な規模を持つこの会場こそが、
学園『最強』の生徒達が集まる最後の会場ということだ。
最後であり最大規模の検定会場。
この場所にようやくたどり着くことができた。
…ひとまずここが目指していた場所だな。
目指し続けた『頂点』がここにある。
生徒番号1番から99番の生徒達。
彼らを乗り越えれば俺の実力が示されることになるだろう。
いずれ目指すべき最後の戦いに想いを馳せながら受付へと歩みを進める。
そのすぐ後ろを北条がついてくるが今はあまり気にしていない。
こちらから話しかけない限り基本的に干渉してこないからな。
無理に気にかける必要はないだろう。
「名簿がみたい」
今までと同じように受付で名簿を受け取る。
だが、名簿に記されている生徒の名前は少なかった。
…まあ、当然か。
この会場は全員が集まっても99人の生徒しかいないからな。
よほどの事情がない限り全員が集まることもないだろう。
割合的に言えば数名の生徒しかいないとしてもなんら不思議ではないように思える。
もちろん俺と同じように一つ前の検定会場から挑戦に来る生徒はいるかもしれないが、
それでも数名程度のごく少数だろう。
三桁台の挑戦者を含めても100名を超える程度に過ぎないはずだ。
会場にいる生徒が他の会場よりも少ないのは当然と言える。
名簿を確認してみたがわずか数名の名前しかなかった。
「いつもこの程度の人数しかいないのか?」
「いえ、時間帯にもよりますが、平均的には10名ほど集まると思います」
一応、係員に確認してみると、
今は普段よりも少ないらしい。
「人が少ない時間帯ということか」
「ええ、そうですね。正確に何時と決まっているわけではないので運任せになりますが、今は特に少ないですね。」
名簿には5人の名前しか記されていない。
多ければ10人以上集まるとしても、
少ない時には2、3人という事もありそうだ。
特に今はお昼前ということもあって、
一部の生徒しかいないのかもしれない。
とは言え。
誰もいないわけではないからな。
選べる生徒は5人もいる。
残念ながら一桁台の生徒はいないようだが、
二桁台の生徒は5人もいる。
この会場の実力を知るという目的は十分に果たせるだろう。
対戦相手が何番だとしても何もしないよりはマシだからな。
ひとまず対戦相手を選ぶ為に名簿に視線を向けてみる。
現在名簿に記されている名前は5つ。
生徒番号85、鈴華恵理子。
生徒番号76、彼方進。
生徒番号53、新谷力。
生徒番号32、市橋亮太。
生徒番号27、矢野百花。
以上、5人だ。
上位99人のうちの5人。
周囲を見渡してみれば一目瞭然と言えるだろう。
誰もが他の会場では感じられなかったほどの強力な魔力の気配を感じさせている。
ただ。
実はもう一人だけ、
この会場で戦う事の出来る生徒が近くにいる。
『学園第2位』の北条真哉だ。
まだ会場に入る手続きをとっていないために北条の名前は名簿にはないのだが、
こちらから求めれば試合に付き合ってくれるだろう。
…もちろん今はまだ時期尚早だがな。
今はまだ戦うつもりがない。
負けても構わないとは思うが、
勝とうと思うのなら今はまだ早い。
挑むのは簡単だが、
どう考えても勝ち目がない相手だからな。
…北条と戦うのは避けるべきだ。
それでも北条がいるおかげで出来ることがある。
対戦相手の指名は一旦諦めて背後に振り返る。
「………。」
無言で交わる視線。
ただそれだけの行動で北条には伝わったようだ。
「ははっ。俺と『戦いたい』ってわけではなさそうだな」
冗談っぽく笑っているが、
それでも構わないという意思は感じられる。
北条としても試合を望まれれば受けるつもりでいたのかもしれない。
だが、俺としてはまだそのつもりはない。
そうではなく。
別の要件を求めて視線を向けたのだが、
北条はこちらの意図を正確に読み取ってくれたようだ。
「まあ、もののついでだ。引き受けてやるよ」
受付の係員に歩みを進めていく。
「そこで待ってな」
気楽に請け負ってくれた北条が係員と話し合う様子を黙って眺めているだけで期待通りに話が進展していく。
…これはこれで便利だな。
どうせ付きまとうのならそれなりに役に立ってもらいたいと思っただけなのだが、
こちらの伝えたかった思惑を正確に理解してくれたらしい。
無言でおこなわれた意思疎通。
その内容は言葉にするまでもない。
『会場にいる5人全員と戦う許可』を求めたのだ。
先ほどの試合で8人の生徒から奪い取った魔力を単純に計算すれば、
すでに1対1の戦いでは勝利が見えているからな。
いくら相手が学園最上位の生徒達であろうとも苦戦するとは思えない。
だからこれから行う試合も俺自身に不利な状況を作り出すために多対1の試合をしようと考えた。
上位5人の生徒と戦って勝ち抜く事。
更なる実力を付ける為には必要な試練だと考えたからだ。
今まで以上の激戦をくぐり抜けなければ戦う意味がない。
この程度の戦いで勝てなければ一桁台の生徒には届かないだろう。
もちろん今まで以上に難易度を高めなければ
魔剣の実力が計れないという理由もあるのだが、
自分自身が強くならなければ『翔子』や『北条』を相手にして勝てるとは思えないという理由が何よりも大きい。
今よりももっと強くならなければならない。
そう考えてこの会場にいる5人全員との試合を望んだのだが、
それには北条の協力が必要だ。
一生徒でしかない俺では校則から外れる交渉はできない。
だが北条ならできる。
そう信じて交渉を託しているのだが、
ほどなくして北条はこちらに向けて微笑みを見せた。
「おーけー。許可はとったぜ。あとはお前次第だ」
今回も係員の説得ができたらしい。
試合場の場所も決定した。
これで会場内の全ての生徒が試合場に集まることになる。
「改めて感謝する」
「ははっ、気にすんな」
愚痴をこぼすどころか笑顔を見せてくれる北条に軽く一礼してから試合場に向かって歩きだす。
もちろんそのすぐ後ろを北条が追ってきているが、
今回に限って言えばこちらから不満を言える立場ではない。
手を借りた以上。
監視を拒む権利はないからな。
北条の自由は認めるべきだ。
今は試合さえできれば十分だからな。
ただそれだけを望み。
試合場に向かって歩みを進めていく。
こうして新たな会場で、
再び多対一の試合が始まろうとしていた。




