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THE WORLD  作者: SEASONS
4月15日
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大会の目的

突然話しかけられたことで、

声の人物へと振り返ってみた。



背後から近づいてきていたのは理事長だ。



あまり機嫌が良くないのかな?



いつもより不機嫌そうに見える。



「理事長…。」


「ねえ?御堂君。」



不機嫌そうな表情を見せる理事長は、

僕の前に立ちはだかって淡々と話しかけてきた。



「結果的に敗北した貴方の気持ちは分からなくもないけれど。貴方がどう思うかには関係なく、表彰式には出てもらうわよ。」


「ですが…っ!」


「…いいえ。反論は認めないわ。」



僕の発言を遮った理事長は、

まるで失望するかのような冷めた目で僕を見つめていた。



「この大会の『本来の目的』を…もう忘れてしまったの?」



…っ!?



理事長の指摘によって言葉を失ってしまった。



何も…言い返せなかったんだ。



魔術大会の目的。


それは理事長の目的であり、

同時に僕の目的でもあった。



年間制覇は『その為』の過程に過ぎないんだ。



魔術師狩りという苦しみを知る理事長や僕達にとってただ一つの願いであり希望。



『この国の平和の為』に優勝を目指してきた。



持って生まれた力の為に忌み嫌われ。


暴力と罵倒の迫害を受けて。


虐殺の対象となってしまった全ての魔術師の為に。



居場所を失って。


壊れかけた心で。


この国まで逃げ延びた多くの魔術師の為に。



そして。


今を生きる全ての魔術師の為に。



魔術師の力を世に広めて魔術を大々的に公開することで、

この国には『魔術師を守れる』だけの力があることを示す為に。



そのために僕達は学園に留まって戦い続けてきた。



世界各地で恐怖に怯える全ての魔術師の為に戦い続けてきたんだ。



この国にいれば安全だと。


全ての魔術師に希望を与える為に。


そのために魔術大会は存在している。



そうして魔術師の力を世界に示すために僕は勝ち続けてきた。



「共和国の力を世界に知らしめる為に表彰式には出てもらうわよ。良いわね?」



………。



理事長の指示に反論できなかった。



何の為にここにいるのか?


それは十分理解してるつもりだからだ。



だけどそれでも。


総魔の不在が納得できなかった。



その一点において。


素直に表彰を受ける気になれなかったんだ。



「総魔は…天城総魔は何をしようとしているのですか?」


「彼は自分の目的の為に旅立った。ただ、それだけのことよ。」



問い掛けてみても、

理事長は冷ややかな視線を向けるだけで理由を説明しようとはしてくれなかった。



「…いえ!それだけではないはずです!教えてください!何があったのかを!!」



総魔のことが知りたくて必死に問い詰めてみたんだ。



だけど理事長の態度は変わらなかった。


冷めた視線で僕を見つめ続けているんだ。



「何も知らずに今までと変わらない生活を過ごすこと。それを彼は望んだはずよ。」


「…だとしても、僕には出来ません!」



僕は総魔の力になりたかった。


総魔に頼られる存在になりたかったんだ。



「これからも総魔と共に歩みたいんです!!」



僕の想いを必死に訴えてみた。



その行動が正しかったのかどうかは分からないけれど。


真剣な表情で訴える僕を見ていた理事長は深々とため息を吐いていた。



「…教えるのは簡単なのよ。」


「だったら!」


「…だけどね?彼の言葉通り、ここから先は地獄へと繋がる一本道でしかないわ。」



総魔と理事長が思い描く地獄。



それが何かはまだ分からない。



…だけど。



例えどんな真実だとしても。


僕は知りたいと思うんだ。



例えたどり着く先が…絶望だったとしても。


そこから目をそらすような人間にはなりたくなかったんだ。



「教えてください!」


「一歩でも踏み出せば…もう二度と今の自分には戻れないかもしれないのよ?それだけの覚悟が貴方にはあるの?」



覚悟なら当然ある。



総魔を追いかけると決めたあの瞬間に。


僕の運命は決まったんだ。



今更、総魔がいなかったことにしようなんて思わない。


総魔のことを忘れようなんて思えない。



「覚悟なら出来ています。例え何があろうとも、僕は総魔を見放すようなことはしたくありません。」


「…そう。そこまで思えるのなら話してあげてもいいわ。彼の全てを、ね。ただし…」



理事長は一瞬だけ言葉を区切ってから、

僕の瞳をまっすぐに見つめた。



「それは表彰が終わってからよ。今はまず大会を終わらせることに集中しなさい。天城君の話はそれからでも遅くはないわ。」



………。



本当にそうだろうか?



総魔はすでに行動しているはずだ。



それなのに。


僕はここで足止めを受けていて良いんだろうか?



「本当に…大会が終わってからでも間に合うんですか?」


「ええ、大丈夫よ。天城君とは後ほど合流する予定になっているから、今日や明日でどうこうという話にはならないはずよ。」



…ならないはず、か。



今の理事長の表現を考えれば、

手遅れになる可能性もあるということに思えてしまう。



「総魔はどこに行ったんですか?」


「とある場所の調査よ。今はそれしか言えないわ。」



調査?



何を調べるつもりか知らないけれど。


それは僕達を置いていくほどの理由なのだろうか?



「それはどこなんですか?」


「今はまだ言えないわね。教えたら勝手に行ってしまいそうだから。」



…確かに。



行き先を知れば総魔を追いかけてしまうかもしれない。



いや、間違いなく追いかけるだろうね。



理事長もそれが分かっているから、

教えることはできないと判断しているようだ。



「他に総魔の行方を知ってる人はいるんですか?」


「私が、その情報を、あなた達に、教えると思うの?」



………。



「心配しなくてもね。ここでの用事さえ済ませてしまえば、ちゃんと私が話してあげるわ。」


「…信じて良いんですね?」


「もちろんよ。約束するわ。だから今は表彰式を終わらせてくれないかしら?貴方が駄々をこねると沢山の人が困るのよ。」



………。



結局、そこに話が戻ってくるらしい。



…これ以上の議論は無駄かもしれない。



少なくとも理事長が僕の意見を聞いてくれるようには思えないからだ。



「どうあっても教えていただけないんですか?」


「今は無理ね。何事にも順序というものがあるのよ。貴方達が天城君を追いかけたいと思うなら無理に妨害しようとは思わないけれど。少なくとも私の計画から外れる行動をとってもらうのは好ましくないわね。」



…要するに。



どうあっても大会を無事に終わらせることが理事長にとって最優先事項になるらしい。



僕達がいなくなることで表彰式が中断するのだけは何としても阻止したいのかもしれない。



「ちゃんとやるべきことをやってくれたら、話くらい聞かせてあげるわよ。」



………。



理事長の指示には歯がゆさを感じるけれど。


どうやら今の僕には選択肢がないようだ。



ここで下手に駄々をこねて理事長の機嫌をそこねれば、

それこそもう何も教えてもらえないかもしれない。



そうなってしまうと今以上に面倒なことになると思う。



「…仕方がないか。」



再び試合場に視線を向けてみる。



すでに準備が整っていて、

進行が進む直前の状況らしい。



まもなく表彰式が開催されることになる。



総魔不在の表彰という部分で、

未だに心を割り切ることは出来ないけれど。


今は大人しく表彰台に向かって歩きだすしかないようだ。



「あとで教えてください。全てが終わったら、総魔のことを…。」


「ええ、約束するわ。」



理事長は真剣な表情で頷いてくれていた。



僕が条件を受け入れたからかな?


すでに冷たい眼差しではなくなっている。



「時間はまだあるから大丈夫よ。それほど多くはないけどね。心配しなくてもまだ大丈夫よ。」



………。



僕の願いを聞き入れてくれた理事長が表彰台に向かって歩きだした。


表彰の授与は共和国の代表でもある理事長が行うからだ。



「やるべきことが片付いたら話し合いましょう。」


「…分かりました。」



全てを知るために。


表彰式に参加することにした。



全てを知るために。



試合場に戻ることにしたんだ。



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