文句なし
《サイド:天城総魔》
次の目標は116番の吉備順弥だ。
俺を迎撃するために魔術を放とうとしているようだが、
間違いなく間に合わないだろう。
必死に詠唱する努力は認めるものの。
ここで手を抜く理由はないからな。
魔術の発動が間に合わない吉備の目前へと迫り、
全力で魔剣を振りかざす。
「諦めれば、それまでだ。」
「くっ、くそぉぉぉぉっ!!」
もはや詠唱が間に合わない事を悟っているのだろう。
すでに逃げる時間さえないのだが、
それでも必死に体勢を変えて魔剣から逃れようとしている。
…戦闘中に背中を向けるのか。
戦いを放棄したその行動に呆れてしまうが、
だからと言って見逃す理由はないからな。
容赦なく背中を斬り付けた。
「っ、ぁ!?」
小さなうめき声を残して、吉備も試合場に倒れた。
背中を斬られ、
魔力を奪われたことで意識を失ってしまったからだ。
…残りは3人。
すかさず次の相手を探す。
倒れた吉備のすぐ後ろには
119番の秋月美沙子がいる。
吉備を倒すために振り下ろしていた刃を切り返し、
美沙子の足元から魔剣を振り上げる。
「ひ…ぃ!?」
ガタガタと体を震わせながら迫り来る刃を見て怯える美沙子も逃げる余裕がないのだろう。
何も考えられないまま完全に動きを止めてしまっている。
「ご、ごめ…っ」
涙を溢れさせ、
泣いて謝ろうとしているが、
振り上げた刃は止まらない。
恐怖で硬直する体を引き裂くかのように、
魔剣の刃が美沙子の体を通り抜けた。
「い、やぁ…っ!!」
刃の感触を感じてしまい。
死の恐怖に襲われる絶望感。
恐怖だけを残した表情で動きを止めた美沙子は、
叫び声すら出せないまま意識を失ってゆっくりと倒れた。
これで残りは二人。
試合場の隅に別れて詠唱を行っている松尾篤と水野園子だけになった。
どちらも距離がある為に今すぐに駆け出す必要があるのだが、
俺が動き出す前に二人の魔術が完成している。
「フレア・アロー・レイン!!」
「サンダー・オブ・バースト!」
人数が減った事もあるのだろう。
迷う事なく拡散系の魔術を放ってくる。
炎の雨と稲妻の炸裂弾だ。
どちらも簡単に切り裂く事が出来ない魔術に思えるが、
すでに魔剣の力は彼らの予測を超えている。
並の理論を強引にねじ伏せる魔剣には、
すでに斬り裂くという概念が存在していないからな。
魔術に魔剣が触れる。
ただそれだけでいい。
それだけで発現する圧倒的なまでの吸収力。
拡散する魔術の一部に触れただけで、
周囲に広がるはずの全ての魔術が魔剣に吸い込まれていった。
「…そんな…っ!」
「嘘でしょっ!?」
魔剣の能力を見て再び戦慄する松尾と園子。
もはや二人に打つ手はないだろう。
「くそっ!!こうなったらいちかばちかだ!!」
直接魔術を打ち込む覚悟を決めたのだろうか。
全力で駆け出す松尾だが。
最後に唱えていた魔術は発動する余裕すら与えられずに魔剣の刃を受けて試合場に倒れた。
「ぅ、嘘よ…。こんなの、有り得ないわ…。」
残ったのは101番の水野園子。
ただ一人になった。
「も、もう無理よっ!一人で勝てるわけがないわ。私の負…」
不安の色を隠せない園子が慌てて棄権を宣言しようとするが、
その判断はすでに遅い。
すでに魔剣の攻撃範囲内だ。
「眠れ」
「ぃ、いやぁぁぁぁっ!!」
横薙の一閃。
魔剣の一撃を受けた園子もあっさりと倒れた。
物理的に斬ることはしてないが、
魔力は断ち切ったからな。
昏倒状態に陥った園子も戦闘の続行は不可能だろう。
その結果として。
最後まで残っていた園子が倒れたことにより全滅が確定した。
「「「………。」」」
試合場に倒れた生徒達は一人として起き上がる気配がない。
魔力を断たれ、強引に魔力を奪われた8人の生徒達はまるで死んでいるかのように指先ひとつ動かすことがなかった。
完全なる沈黙。
8対1で行われた試合だったが、
それでも誰一人として俺に一撃を入れる事が出来ずに終わってしまった。
「これはもうあれだな。制圧というより蹂躙って呼ぶべき状況かもしれねえな。」
北条でさえ呆れる展開だったらしい。
8人の生徒達が倒れる試合場。
審判員として視線を向ける北条の表情は驚きでも喜びでもなく、
ただただ目の前の現実に対して呆れているように見えた。
「何か不満でもあるのか?」
「いーや、何もねえよ。」
あったとしても気にするつもりはないのだが、
それでも一応問いかけてみると北条は即座に否定した。
「予想と結果が違ったから少し驚いただけだ。状況がどうであれ、基本的には負けた奴が悪いんだからな。試合内容がどうとか、やり方がどうとか、そんなのはただの言い訳でしかねえ。明らかな反則行為があったっていうのなら話は別だが、俺の見てた限り何の問題もねえ。むしろ8対1でも負けるようならその程度の実力でしかなかったって判断するべきだろ?だから不満なんて何もねえし、お前が気にすることは何もねえよ。」
こちらの行動に非はないと言い切った。
そして再び試合場に視線を向けていたが、
倒れた生徒達は全員身動き一つ見せないままだ。
完全な意識不明の状態。
この状況から逆転劇が始まる可能性は間違いなく0。
それにより、この試合の勝者も確定した。
「なかなか面白い経験が出来た。」
試合結果に満足したことで魔剣を解除する。
その様子をただただじっと見つめる観客達が判定を見守るなかで、
小さくため息を吐いた北条が動きだす。
「文句なしの圧勝だ!勝者、天城総魔!!」
試合終了が宣言されると同時に数少ない観客達が歓声を上げた。
倒れている生徒達はそうは思わないだろうが、
見物人達にとっては面白い試合だったのだろう。
自分達が戦う立場ならそうはいかないだろうが、
観客としては十分に楽しめたらしい。
一通り見渡してみれば試合内容に恐怖や戸惑いを感じていた者達でさえも、
今この瞬間だけは滅多に見れない試合を見れたことで興奮しているように思える。
もちろん、その中の一人として北条も含まれているのだが。
「まあ、たまにはこういう試合も悪くないだろ」
こちらに歩み寄りながら微笑む北条の発言が学園として許されるものかどうかわからない。
とはいえ、ひとまず現時点で言及する者はいないらしい。
「とりあえず外に出ようぜ。この会場にはもう用はないんだろ?」
「ああ、そうだな。」
今回の試合で101番まで制したからな。
もはやこの会場に用はない。
まだ生徒番号100番の生徒が会場に現れる可能性はあるが、
ここで待つよりも次の会場に向かったほうが出会える可能性は高いだろう。
この会場に100番より上の生徒はいないからな。
当然、その生徒も次の会場へ向かうはずだ。
「次の会場に向かう」
「だな。」
試合を終えたことで楽しそうな笑顔を見せる北条と共に検定会場を出ることにした。




