約束の刻
《サイド:美袋翔子》
…ふう。
色々と気になることはあるけれど。
ひとまず龍馬が勝ったようね。
「試合終了です!!!第3試合も勝利したジェノス魔導学園!!これにより、残り2試合を残しながらも決勝戦の勝利が確定しましたーっ!!!」
会場全体に轟く係員の進行によって盛り上がる会場。
ものすごい歓声が響き渡るのが、
私達のいる特別区域にも聞こえていたわ。
「優勝はジェノス魔導学園です!見事11回連続優勝を果たしました!!!次の大会に勝てば、大会史上初となる年間制覇も実現できます!その偉業が達成されるのかどうか、来月の大会に大いに期待がもたれるところですが、まずは今大会の優勝を賞賛いたしましょう!!!」
叫ぶように進行を進める係員の言葉が聞こえてきたことで、
みんなが勝ったのは分かったわ。
…でもね?
嬉しいと思う気持ちはあるけれど。
今はそれどころじゃないのよ。
血まみれの惨状。
転がる死体。
もちろんそれも問題よ?
だけど今はそんなことよりも、
総魔のことが心配で心配で仕方がないの。
「…総魔?」
呼び掛ける私に総魔が振り向いてくれる。
いつもと何も変わらない表情にも思えるけれど。
総魔の視線はどこか私を避けているようにも感じられるわ。
…もしかして、怯えているの?
私と優奈ちゃんを見つめる総魔の瞳が、
何故か悲しみに満ちているように思えたのよ。
「ねえ、総魔?」
もう一度呼び掛けてみる。
だけど総魔は何も言わずに、
試合場に振り返ってしまったわ。
「………。」
視線の先にいるのはたぶん…龍馬だと思う。
たった一人で試合場に立ち続けている龍馬を見ている気がするの。
…ねえ、総魔。
…私は見てくれないの?
ちょっぴり寂しさを感じてしまったわ。
目の前にいるはずなのに。
向き合ってもらえないことが悲しかったのよ。
「ねえ…総魔。」
呼びかけても振り返ってくれない。
総魔はただじっと龍馬を見つめてる。
他には誰もいない試合場。
試合が終わったから、
審判員はすでに試合場を離れているみたい。
代わりに進行役の係員が試合場に上がろうとしてるんだけど。
今は真哉が引き止めてるみたいね。
試合場にいるのは龍馬だけなのよ。
そして試合場に立つ龍馬の瞳も、
ただまっすぐに総魔を見つめているように思えたわ。
…お互いに、意識してるのね。
そう思えたから、
ちょっぴり羨ましいって思っちゃったわ。
私もそんなふうに総魔と思い合えたら良いのに、って。
そんなふうに思っちゃったのよ。
…だけど。
今の総魔の目には、
龍馬しか映っていないの。
…だから。
これからどうなるかなんて、
聞かなくても分かるのよ。
「…行くの?」
「ああ。あの場所で強敵が待っているからな。」
「龍馬と…戦うのね。」
「…そうなるな。あの日の約束を果たす為に、俺は大会に来た。」
うん。
そうよね。
学園で決着がつけられないから。
だからここまで来たのよね。
「もう一度…勝てる?」
「どうだろうな?やればわかることだ。」
まあ…そうね。
戦えば分かることよね。
わざわざ聞かなくても、
その答えはこれから示されるのよ。
「総魔のこと…応援しても良いかな?」
「…好きにすれば良い。」
いつも通りの言葉。
だけど。
結局ね。
総魔は一度も振り返ってくれなかったのよ。
「エンジェル・ウイング!」
総魔の背中に生まれる翼。
観戦席の先頭まで歩みを進めた総魔は、
真っ直ぐに試合場を見下ろしてる。
…私でも。
…優奈ちゃんでも。
…他の誰でもなくて。
ただ龍馬だけを見つめているの。
「これが最後の試合だ。」
龍馬との決着をつけるために。
二人が初めて試合をしたあの時と同じように。
試合場に向かって羽ばたいたのよ。




