解放
「それでは、試合始めっ!」
ついに試合が始まった。
開始直後にルーンを発動させて互いに相手の様子を窺う。
光り輝く手に現れるルーン。
僕の手には魔剣『ダークネスソード』が生まれ。
澤木君の手には『風林火山』という名の刀が生まれる。
両刃の剣ではなくて片刃の刀だ。
研ぎ澄まされた刀の切れ味は、
かつての僕のルーンである『エンペラーソード』を切り裂くほどの鋭さを持っている。
まさしく一刀両断とも言うべき斬撃に特化した武器だ。
その使い手である澤木君自身も相当な実力がある。
力ではなく速さ。
そして近接戦を得意とする技量がある。
決して油断して勝てるような相手じゃないんだ。
…まともに斬り合うのは危険だね。
互いにルーンを構えながら向かい合う。
そして攻撃の瞬間を見定めていると、
一足先に澤木君から動き出した。
「きみの新しいルーンの話は聞いているよ。まずはそれがどの程度なのかを見せてもらおうかな。」
一気に駆け出した澤木君が、
急接近して全力で斬り掛かってきた。
「疾風…迅雷!!」
最速で放たれるのは居合斬りだ。
その抜刀速度は真哉のソニックブームを大きく超える。
抜刀から斬撃までの時間は僅か1秒。
…だけど。
どれだけ早くても斬撃の軌道さえ読み切れれば防御は可能だ。
澤木君にとっては左から右への横薙ぎ。
僕から見れば右から迫る刃。
対処は難しくない。
魔剣を盾代わりにして、
斬撃を受け止めればいい。
さすがに動きが早すぎて受け流すのは難しいけれど。
受けるだけならなんとかなる。
『ガキィィン!』
剣と刀がぶつかり合う。
ひとまず防御に成功して居合い斬りを受け止めることはできた。
だけど澤木君の攻撃はこの程度じゃ終わらない。
辛うじて攻撃を受け止めた僕に対して、
更に踏み込んでくるからだ。
「静林…牙突!!」
切り返す刃で放たれるのは必殺の突き。
超至近距離で放たれる突きを防ぐのは至難の業になる。
ここは全力で回避するしかない。
「く…っ!」
体を捻りながら慌てて飛び退く。
今回は運良く回避できた。
…とは言え。
無理な回避をとったことで、
僕の体勢は崩されてしまっている。
とても反撃を狙えるような状態じゃない。
まずは体勢を立て直してから迎撃の準備を整えるべきなんだけど。
澤木君は流れるような動きで次の狙いを定めてる。
「烈火…炎照!」
突如として燃え上がる刃。
突きの体勢から横薙ぎに変化した刃が、
炎を纏いながら僕に襲い掛かってきた。
「間に…合えっ!弐之太刀、魔断!!」
炎を放つ刃に切り掛かる。
再びぶつかり合う剣と刀。
僕の能力によって炎は消し飛ばせたけれど。
刀を折るまでは出来なかった。
…勢いが足りなかったのかもしれない。
体勢的に上手く力が込められなかったからだ。
今は防ぐだけで精一杯だった。
…若干、押され気味だね。
攻撃を防いだことでようやく動きを止めてくれた澤木君だけど。
もちろんこれで終わりじゃない。
澤木君の連続攻撃はまだ続いているんだ。
互いの刃をぶつけ合う状態で、
澤木君が力を込める。
「震山…轟天!!」
エンペラーソードを叩き斬る程の剛の一撃がダークネスソードを襲う。
「沈めっ!!!」
激しく震える澤木君の刀。
その震動に耐え切れなくなった僕の魔剣が砕けて折れた。
…くっ!
…まずいっ。
刀を折るどころか、
僕の剣が砕かれてしまったんだ。
どうにか後退しようとしてみるけれど。
澤木君の攻撃はまだ止まらない。
流れるような動きで間断なく攻め続けてくるんだ。
「どうやら以前と同じようだね。きみは何も変わっていなかった!」
僕の魔剣を破壊したことで、
澤木君が最後の大技を放ってくる。
「無双…風林火山!!!」
ルーン名と同一の名を持つ最強の一撃。
この一撃だけは絶対に受けてはいけない。
…そのことを知っていたはずなのに。
折れた魔剣では防御しきれなかったんだ。
澤木君の攻撃が止められない。
振り抜かれた刃が僕に迫っている。
「しま…っ!」
『ザシュッ!!!』と、斬撃音が響き渡った。
交わしきれなかった刃が僕の腹部を斬り裂いていく。
「うああああああああ…っ!!!!!」
斬られた瞬間に傷口が一気に燃え上がり。
爆裂した炎によって後方へと吹き飛ばされてしまった。
「く…うぅ…っ。」
…身体が思うように動かない。
全身に負った火傷も問題だけど。
それ以上に斬られた腹部の痛みがひどい。
…ただ。
不幸中の幸いと言っていいのかどうかは分からないけれど。
斬られた傷口は火傷の影響でそれほど大きくはないようだ。
むしろ焼かれたお陰で出血は最小限で済んでいるのかもしれない。
もちろん絶望的な痛みはあるけどね。
そのお陰で意識があるとも言える。
…幸先は良くないね。
炎を浴びて弾き飛ばされてしまったけれど。
そのまま試合場を転がり続けたことで、
試合場の端で止まっていたようだ。
ひとまず試合場を包み込む防御結界には激突せずに済んだらしい。
それでも状況はあまり良くないけれど。
意識を失わなかっただけまだマシなのかな。
…とは言え。
全身を襲う痛みはどうにもならない。
…とにかく治療を。
回復魔術を発動して傷口の止血を急ぐ。
完全な治療はできないけれど。
今はこれで耐え凌ぐしかない。
…たった一撃でこの状況だ。
たった一度攻撃を受けただけで、
意識を失いかけるほどの重傷を負ってしまっている。
…さすがに、この状況はまずいね。
折れた魔剣を再生しながら必死に立ち上がろうとしてみるけれど。
すでに澤木君は追い撃ちを仕掛けるために接近している。
「やっぱり澤木君は強いね…。」
「どうかな?僕が強くなったと言うよりも、きみが弱くなったんじゃないか?」
………。
そうなのだろうか?
自分では分からない。
…いや。
自分では強くなったつもりでいた。
それこそ彼に追いつける程度には成長しているつもりだったんだ。
だけどそれは間違いだったのだろうか?
「まあ、どちらにしてもきみを制するまでは手を抜くつもりはないけどね。」
追い込まれてしまった僕を見つめる澤木君の表情は真剣そのものだ。
決して油断なんてしていないように思える。
そして全力で攻め寄る澤木君は再び奥義の構えを見せていた。
…どうする?
この状況で追撃を受けるのは危険だ。
なんとか耐え凌ぎたいところだけど。
おそらく防御は不可能。
澤木君の攻撃力も以前に比べて向上しているように思える。
ここは無理をしてでも耐えるより攻めたほうが安全かも知れない。
「終之太刀、魔壊!!」
接近してくる澤木君に向けて全力で切り掛かる。
対する澤木君も奥義を放ってきた。
「無双…風林火山!!」
互いに全力の一撃だ。
ぶつかり合う刃が激突音を響かせる。
『ガキィィィィィィン!!!!!』
びりびりと両腕が痺れるほどの打ち合いによって互いに動きが静止した。
今回は全くの互角だったらしい。
どちらの攻撃も不発に終わってしまっている。
「互角かな?それでこそ、きみらしい。」
攻撃が止められてしまったことで、
一旦後退しようとする澤木君だけど。
今度は僕から追撃に出る。
「参乃太刀、魔光!」
振り切る刃の軌跡に漆黒の光が生まれる。
グランドクロスの闇属性版と言うべきかな?
破壊の光が試合場を破壊しながら突き進んでいく。
「ちっ!?グランド・クロスか…っ!」
距離が近すぎて回避不可能と判断したようだね。
澤木君は光を相殺しようとしていた。
「…無双…!!」
慌てて刀を構える澤木君だけど。
接近しすぎていたことで反撃は間に合わなかったようだ。
「…うぁぁぁっ!!」
漆黒の光に飲まれた澤木君の体が吹き飛んだ。
そしてそのまま試合場の対角線上の端まで押し戻された澤木君は、
試合場を包み込む防御結界も突き抜けて場外へと落ちていった。
「が…ぁ…ぁっ!!」
苦悶の声が微かに聞こえる。
数十メートルの距離を弾き飛ばされたわけだからね。
落下の衝撃は相当なものだったと思うよ。
それなのに。
広大な試合場の端から端まで吹き飛ばされてもまだ意識を失わなかった澤木君は尊敬に値すると思う。
「く…ぅっ…!」
場外に落ちた澤木君は必死に立ち上がろうとしているようだ。
その場所が場外じゃなくて試合場だったなら一気に追撃を仕掛けるところなんだけど。
さすがに場外にいる相手を攻撃するのは認められていないからね。
澤木君が試合続行を望むのなら、
ひとまず試合場に上がってくるまで待たなければいけない。
だからその間に。
僅かに稼いだ時間を利用して傷の治療を急ぐことにした。
…と言っても。
回復魔術は苦手だから痛みを誤魔化す程度の治療しかできないけどね。
多少なりとも出血が収まればそれでいい。
何もしないよりはマシだからだ。
この戦いにおいては一瞬でも動きを鈍らせたほうが敗北することになる。
だからまずは動けるまで体調を整えるのが先決だ。
そう考えて傷の手当を急ぎがら澤木君の復帰を待つ。
試合再開までの時間は一分くらいかな?
それだけあれば走れる程度には痛みをごまかせるような気がする。
…けれど。
その程度だと確実に勝てるとは言えないだろうね。
ほぼ互角の試合だからもう少し余裕が欲しいと思う。
だから、と言うわけではないけれど。
どうしても色々と考えてしまうんだ。
僕も翔子のように封印を解除したほうが良いだろうか?
勝つためにはそうすべきなのかもしれない。
だけど本当の力を知りたいと思う気持ちと、
彼との決戦に向けて今の力を極めたいと思う両方の気持ちがあるんだ。
…今の僕が選ぶべき道はどちらが正しいのかな?
どちらを選んでも間違っているような気がするし。
どちらを選んでも問題ないような気もする。
…うーん。
どうしようか悩んでしまうけれど。
ひとまず試合場に戻ろうとしている澤木君を眺めてみる。
傷の手当を進めながら、
ゆっくりと歩み寄る姿に諦める様子はなさそうだ。
「諦めはしない!」
試合場に戻ってすぐに、
再び駆け出した澤木君に諦める様子はない。
「まだ負けたわけじゃない!僕はまだ戦える!」
…ああ、そうだね。
きみも僕と同じで諦めるという選択肢を選べない性格だったね。
…だったら。
澤木君の想いに応えるために。
僕は選ぶべきなのかもしれない。
全力で戦う意志を見せる澤木君に、
中途半端な覚悟で挑むわけにはいかないからね。
最後まで諦めない澤木君を見て、
僕も覚悟を決めることにしたんだ。
「力を解放する!!」
抜き取る指輪。
その瞬間に光り輝く僕の身体。
これで失われていた力が戻るはずだ。
一時的に封印していた支配特性が復活する。
この一週間ほどの間。
僕から消え去っていた力を取り戻したことで、
翔子と同様に自分の『本当の力』が理解できた気がした。
誰かに教わるまでもなく。
自然と体が動いていたんだ。
「これが!これが僕の力だ!!シャイニングソード!!!」
新たに現れる第3のルーン。
エンペラーソードを更に上回る巨大な大剣。
これが僕の真の『力』だ!
『光』から『闇』へ。
そしてまた『闇』から『光』へと姿を変えた僕のルーンは、
圧倒的な威圧感を放つ光の剣として神聖な輝きを持って周囲を光で埋め尽くした。
…神聖剣シャイニングソード!
「全力で放つ!!これが僕の最大の一撃だっ!」
強引に風を引き裂いて生まれる衝撃波が、
接近していた澤木君の身体を飲み込んでいく。
「オーバードライブ!!!!」
響き渡る轟音。
突き抜ける衝撃波。
「うあああああああああああああああああああっ!!!」
至近距離で直撃を受けた澤木君は、
再び試合場を包み込む防御結界を飛び越えて、
数百メートル先に広がる観客席の壁に激突した。
「がは…っ!?」
吐血しながら地面に落ちる。
そしてそのまま場外で倒れ込んだ澤木君は意識を失ってしまったようだ。
全身をズタズタに切り裂かれた身体からはとめどなく血が流れて、
瞬く間に血の水溜まりを作り上げている。
その光景を見た僕は、
思わず呟いてしまっていた。
「…ごめん。」
さすがにやりすぎたと思ったんだ。
これが澤木君じゃなかったら即死していたと思う。
「ここまで威力があるとは思わなかったんだ…。」
僕自身、初めて発動した力だから上手く加減ができなかった。
そのせいで。
慌てて救助に向かう救護班によって、
医務室へと運ばれていく澤木君を見ていることしか出来なかったんだ。
…だけどね。
澤木君の搬送は試合続行が不可能と判断されたことにもなる。
「試合終了!!!!」
審判員の宣言によって、
僕の勝利も確定した。




